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4 訪問

 その夜、楓は自室のベッドでスポーツ新聞を読んでいた。


「宮田さんが女子プロ野球チームの監督になるのか。楽しみ、楽しみ」

 楓の心は弾んでいた。


「ん?」


「楓」

 入口のドアの方から楓を呼ぶ母の声がした。


「開いてるよ」

 楓が顔を上げ、大声で言った。


 ドアが開いて、楓の母、瑞枝が入ってきた。


「楓、友達が来てるわよ」


「うちに?」


「玄関で待ってもらってるわ」


「部屋に来てって言って」


「自分で言いなさい」


「あたし、部屋片づけなきゃいけないから」


「全く……」


 瑞枝は呆れた様子で部屋を出ていった。


 楓は素早く部屋を片づけ、朋美が部屋に来た時には部屋はすっかりきれいになっていた。


「ごめんね、夜遅くに」


「全然」

 楓は汗を拭った。


「暑いの?」


「あっ、ちょっと運動してたの。それで何?」


「うん――」

 朋美はベッドに座った。


「何かあった?」

 楓は朋美の様子を察して、朋美に尋ねた。


「楓が宮田さんにもらったって言うノート、あれ、私の死んだ父のだった」


「本当に?」


「うん。父が死ぬ前に、有望な選手のために使ってくれと宮田さんに託したものなの」


「へぇ、そうなんだ。すごい偶然だね」


「私、そのことでお母さんにひどいこと言っちゃったの」


 朋美が急に楓に抱きつき、泣き始めた。


「朋ちゃん……」


 少ししてから、朋美は母を負け犬呼ばわりしたことを楓に話した。


「あたしは、朋ちゃんのお母さんが負け犬とは思わないけどなぁ」


「え?」


「だって、チームやファンを裏切っても、朋ちゃんのために霧原選手と真剣勝負したんだよ。いいお母さんじゃない」


「何で私のためなの?」


「まぁ、あたしの勝手な思い込みかもしれないけど、でも、ずっとリハビリに耐えて頑張ってきたのをたった一度の勝負のために、肩を壊すかもしれないオーバースローで投げたんだよ。そんなこと、自分のわがままだけじゃできないよ。朋ちゃんのお母さんは、朋ちゃんに自分が霧原選手から逃げる姿を見せたくなかったんだと思う」


「楓、どうしよう……」


「謝ればいいんだよ。素直にね」


「けど……」


「素直が一番。あたしも、十一才までお爺ちゃんのところに預けられてたんだ。お爺ちゃんが死んで、お母さんが引き取ってくれたんだけど、お母さんが謝ってくれたんで、あたし、許せちゃった。会うまではいろいろな思いがあったんだけど」


「私、謝ってくる」


「うん、それがいいよ」


 楓は朋美の肩をポンと叩いた。



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