4 昼休み
二年D組の教室。昼休み。
「チーム、入る気になった?」
朋美の席の向かいに楓が座った。
「一つ、聞いていい?」
「なぁに?」
「何か、あちこちの野球部に果たし状を出してるみたいね。何でそんなことをしてるの?」
「野球がやりたいから」
「だったら、うちには野球部もあるじゃない」
「面倒臭いもん」
「え?」
「あたしは強いチームと戦って、どんどん実力つけなきゃいけないの。練習ばっかりやってる時間ないもん」
「それでソフトボール部を作ったの?」
「まぁね。野球部が二つもあったら、変だから。メンバーは形だけだから、誰でもいいの。どうせあたしが打って、抑えるから」
何なの、この子……
「でも、学校には色々決まりがあって、そんなこと勝手にやってると、野球部に――」
「朋ちゃん」
「な、なに?」
「どうしてそんなに心配してくれるの?」
「え?」
「朋ちゃんには関係ないじゃん」
「そりゃ、そうだけど」
「朋ちゃんがうちのチームに入ってくれると嬉しいんだけどな。藤谷が言ってたよ、朋ちゃんは野球部で一年の初めからレギュラーに選ばれたって」
「昔の話よ」
「昔って二年もたってないじゃん」
「藤谷は雑用に耐えられなくて、野球が楽しくなくなって野球部を辞めたって言ってた。朋ちゃんは何で辞めたの?」
「知らない」
朋美は教室を出ていった。
「よぉ、皆岸」
朋美の前に大きな生徒が立ちはだかった。
「柴原……」
三年生の柴原澄美であった。柴原は女子野球部のエース・ピッチャーであった。
「元気そうだな」
「……」
「相変わらず、貧相な面してるな」
柴原が朋美の頬を軽く叩いた。
「何かご用ですか?」
同級生ながら、柴原には朋美もつい敬語になってしまう。
「このクラスに沢木楓って奴がいるだろ」
「あたしのこと?」
楓が廊下に出てきた。
「おまえか、勝手にクラブ作って、他校と試合やってるのは」
柴原が楓の制服の襟首をつかんだ。
「暴力禁止ですよ」
楓が柴原の腕をつかんだ。楓の握力に柴原が顔をしかめ、襟首から手を放す。
「で、用は何ですか?」
「試合をやってやる」
「?」
「おまえを叩きのめすための試合だよ。負けたら、おまえの部を廃部にしろ」
「それ、本気で言ってますか?じゃあ、うちの部が勝ったら、こっちの要求も呑んでもらいますよ」
「負けるわけないだろ」
「そうかなぁ。この朋ちゃんもメンバーなんですよ」
楓が朋美の肩に手を乗せた。
「なにぃ」
「わ、わたしは……」
朋美は戸惑った。
「こんな弱虫、何の戦力になるってんだ」
柴原の言葉に朋美はカチンと来た。
「私は弱虫なんかじゃない。あんな閉鎖的な体質の野球部に見切りをつけて、辞めただけなんだから」
「てめえ、言うじゃないか。試合に負けたら、どうなるかわかってんだろうな」
「大丈夫。あたしがいて、負けるわけないじゃない」
楓が当然とばかりに言った。
「試合は今度の土曜、午後一時、この学校のグラウンドだ。逃げんなよ」
柴原はそう言うと、肩を怒らせて、去っていった。
「楓、どうして私もメンバーだなんて」
「野球、やりたくない?」
楓が笑顔で聞いた。
「そりゃあ、やりたいけど」
朋美はボソッと言った。
「じゃあ、決まり」




