3 話題
数日後、氷島女子中学では別の話題で盛り上がっていた。
『女子ソフトボール部、他校の野球部に挑戦状。連戦連勝』という新聞部のスクープ記事である。
曲がりなりにも全国大会優勝経験のある女子野球部を差し置いて、実績のないソフトボール部が他校の男子野球部を次々と負かしているという事態は、生徒たちの間だけでなく教師の間でも話題になっていた。
校長室では、野球部顧問の山川とソフトボール部顧問の谷村紀子が呼ばれ、事情説明をさせられていた。
「谷村先生、どういうことなのかね」
校長が渋い顔をして、聞いた。
「すみません、部のことは全てキャプテンの沢木さんに任せてまして」
「困ったね。PTAがいろいろとうるさいんだ。女子野球部より強いソフトボール部をのさばらせておいていいのかってね。寄付金にも影響が出る」
「他校の生徒の話では、実質、ソフト部はキャプテンの沢木一人で、相手野球部を抑えているようです」
「谷村君、沢木楓はそんなに実力のある選手なのかね」
校長は谷村の方を向いて、言った。
「すみません。私は沢木さんにお願いされて、ソフト部の顧問になっただけなので、活動の方はあまりわからないのです」
「そういうことでは困りますな。山川君は沢木楓のことをどう見ているのかね」
「打撃は高校級のようです。ピッチングも妙な変化球を投げます」
「妙な変化球?」
「低めの直球ですが、ベース際で急角度に上昇するボールです。フォークボールの逆のような感じですが、球威がある分、打ちにくいボールのようです。恐らくこれにスピードが加わったら、当てることもできないでしょう」
「その沢木という生徒は野球部に入れられないのか」
「どうでしょうな。その気があるのなら、ソフトボール部など作ったりしないでしょう」
「とにかく、このまま、悪い評判が広まるのは困る。谷村先生、沢木さんに対外試合を学校に無断で行うのは遠慮するように言って下さい」
「それだけでは、もう遅いでしょう」
「といいますと?」
「我が野球部が、ソフトボール部を負かさなければ、面目が立たないと言うことです」




