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TS☆魔法少女エンジェルステラ  作者: 天崎 剣
【3】魔法少女が戦う理由/第5話 本物の証

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chapter.3 幾重もの嘘で固めた仮面

「私達は幼少の頃からずっと、魔法少女に憧れていた。不思議な力、妖精、変身して戦う少女達。美しくありながらも力強く、時に泣き、時に笑い、協力しあって何かを救おうとする姿に感銘を受けてきた。私達は魔法少女に光を見る。希望の光だ。決して色褪せることのない美しい光を見続けている。どの時代にも魔法少女がいて、誰もが自分の理想の魔法少女像を抱いている――……私達は常に、魔法少女に救われたがっている」


 それはそう。

 当たり前の事を大袈裟に話す、というのは、ある意味詐欺師の常套手段。

 健太郎はまだどこか半信半疑なまま、緑川の話に耳を傾けていた。


「ゴテゴテの武器や兵器の形をした装置で助けられるよりは、魔法少女の持つ不思議な力で助けられた方が嬉しいだろう?」

「ゴッツい筋肉マッチョのおっさんに救われるより、可憐な魔法少女に救われた方がテンションは上がるだろうな」

「さすがは渚氏。理解がある」

「――そうではなくて」


 健太郎は初めて、語気を強めた。


「他のモチーフではダメだったのかってことです。戦隊もの、仮面ヒーローもの、色々あるのに何故かラボの人々は皆、魔法少女に固執している。特にあなただ。仮称緑川瑠璃絵さん。あなたを強烈に支配する、魔法少女とは何だ。あなたは一体誰で、どうしてそこまで魔法少女にこだわるんだ。俺には分からない。だが、更科さんや三ツ浦さんは納得した。何があなたをそこまで突き動かす? あなたは一体何者で、どんな決意を持って過去へとやって来たというんだ。俺が納得する説明をしてくれなくちゃ、これ以上なぎさを続けることはできないぜ?」


 そこまで言うと、さすがの緑川も眉を顰めた。

 ふぅと小さな溜息。


「そこは、聞かないでくれ……というわけにはいかないか」

「ダメだね。全部喋って貰わないとフェアじゃない。こっちは命を懸けて戦うんだ。あなたもそのつもりでいて貰わないと釣り合わない」

「確かに……ね」


 直ぐには返事ができないのか、緑川瑠璃絵はしばらく無言だった。

 健太郎の表情を覗ったり、ブラインドの向こうに目線を移したり。何かしら言い逃れをしようとしているのか、言葉を選んでいるのか、何度も何かを言いかけては止める動作を繰り返しているように見えた。


「救われたことがある、という理由ではダメかね」

「まだ誤魔化す気ですか」

「誤魔化しているわけじゃない。本当に……救われたのだ。君と同じように、魔法少女に」


 同じようにと言われて、健太郎は首を傾げた。

 妻を失って自暴自棄になっていた彼を助けたのは、伊織の父であり上司の円谷良悟だ。キュアキュアは切っ掛けに過ぎない。円谷の娘のどかがV2に襲われて心を閉ざした時、娘との会話に必要だからと円谷に頼まれ、キュアキュアのことを教えたのだ。そしてその、キュアキュアに関する知識は、健太郎の亡き妻陽菜子から受け継いだもの。

 こんなセンシティブな情報をどこから。


「俺には友人と呼べる友人がいない。キュアキュアの話だって、課長にしか喋ってない。なんで知ってる。俺達のことを以前から調べていたってことか? 全部知った上で、俺と伊織を魔法少女に仕立て上げた」

「悪いな。候補者選定のためには必要なことだった」

「必要なこと? 冗談。こじつけだろ」


 鼻で笑ってやった。

 少なくとも健太郎にとって、それは面白い話ではなかった。

 頑なに何かを隠そうとする彼女に、苛立ちを覚え始めていたのだ。


「仮称緑川瑠璃絵さん。いい加減、本当のことを話してはくれませんか」


 グッと前傾姿勢になって、健太郎は向かい側に座る緑川を睨み付けた。


「これ以上は時間の無駄です。俺が推測するに、魔法少女にこだわる理由とあなたの正体はリンクしている。だから簡単には話せない。話してしまえば、何か不都合が出てくるからだ。けれどもうダメだ。諦めて教えてくれ。あなたは誰だ。どうして俺達を選んだ。俺と伊織でなければならなかった理由もそこにあるんだろう……?」


 緑川は、また口を閉ざした。

 健太郎は、彼女の返答を待った。

 しんと静まりかえった室内。外から聞こえてくる車の排気音、騒めき、風の音。間に挟まるように聞こえてくる野鳥の声が、夜の空気を伝って遠くから聞こえてくる。

 何分かの膠着のあと、緑川瑠璃絵は腹の底から全部吐き出すように長い溜め息をついて、小さく頷いた。


「私は君に、会ったことがある」


 健太郎の耳には、緑川の声がどこか震えているように聞こえた。

 表情は強ばり、いつもの澄ました才女のイメージが崩れかけている。


「二十八年も前のことだ。私にとっては……だが。偶然君のことを知った。キュアキュアが好きなこともその時に知った。あの日の出来事が私の人生を狂わせた。いや、もっと前から狂っていたのだ。だが、あの日あの場所であんなことが起きなければ、私の人生はもっと違っていたかも知れない」


 何年先の未来からやって来たのか、いつの話をしているのか。

 緑川の証言を聞き漏らさぬよう、健太郎の身体は、自然と前に傾いて行く。


「力のない民間人にできることは限られている。私は難を逃れたが、君と()は直接の攻撃を受けて酷い怪我を負った。それでもどうにか踏ん張って、後遺症と闘いながらも仕事を続けていたのだという話を耳にした。君が妻を亡くしていたことも、彼の父(・・・)に聞いて知っていた」

「……彼? 彼って誰だ」


 健太郎は思わず口を挟んだが、緑川は止まらなかった。

 止める手立てを失ったかのように、次々に、言葉を。


「最初から、全部知っていた。君達二人が魔法少女好きなことも、大切なものを奪われたこと、傷付けられたこと、V2なんてものがなければ悲惨な末路を辿る必要がなかったことも」

「最初、から……?」

 

「必死に考えた。私は救いたかったのだ、彼を。そして、君を。研究に没頭した。技術を確立するまでに思いのほか長い年月を掛けてしまった。あの時代には通用しなかった技術も、過去に行けばと、そんな想いが去来した。私は意を決し、恩師に相談した。三ツ浦先生は私を責めなかった。何も変わらないかも知れない、何かが変わるかも知れない、最低の手段だと私を蔑み、笑顔で送り出してくれたのだ」


 緑川瑠璃絵の目から、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちていることに、健太郎は気が付いた。

 幾重もの嘘で固めた仮面がポロリと音を立てて剥がれるように、彼女は告白をするのだった。






「私は……、私の本当の名は、安樹(やすき)星来(せいら)だ」

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