chapter.2 現実は想像を超える
三人目。つまり、同じ結論に達した者があと二人いる。
「更科さんと……、もう一人は三ツ浦さん?」
「ご名答。他にも数人、秘密を打ち明けた者はいるが、詳細は伏せている」
緑川は否定しなかった。
秘密を打ち明けたのは恐らく親会社ホープクリエイターの社長や上役なのだろうと、健太郎は推測した。が、確認できるような雰囲気ではない。知らなくてもいいと一蹴されるのは目に見えていた。
「知りたいかね、未来を」
緑川は足を組みかえ、フッと笑った。
「聞かなくても想像は付きますよ。わざわざ過去に戻ってきたということは、それほどまでに未来は残酷だということ。やり直したくなるくらいには、最悪な状態になっている。何年後の未来から来たのかは分からないけど、その時にはもう、目も当てられないような事態になっていて、過去に戻って未来を変えるしか助かる方法がないくらい、追い詰められていた……とかね」
自分の声が震えていることに気が付きながらも、健太郎は必死に平静を装った。
「概ね、想像の通りだ。――が、現実は想像を超える。私のいた時代、世界の人口は半分になった」
「は、半分!?」
思わず健太郎の腰が浮いた。
「半分だ。四十億と少し。増えすぎだと言われるくらいに増えていた人口が一気に減った。ハッキリとした感染経路の特定がなされないまま繰り返されたV2パンデミックの中で、魔物化した罹患者が殺戮を繰り返した。警察も消防も自衛隊も疲弊した。人々は経済活動を自粛した。それが全世界規模で起きた。先進国は勿論、途上国では更に悲惨な結果を生み出した。暴動が起きた、人間同士の争いが更に酷くなる。敵国による陰謀だ、バイオテロだと罵り合い、紛争が多発した。気が付けば地球のあちこちで町が消え、国が消えていた。生きていくことがとても難しい時代に、私は生きていた」
態度を変えず淡々と話す緑川に、健太郎が不信感を抱かない訳がなかった。
作り話では。
自分からあり得ない仮定を提示しておきながら、健太郎はそんなことを考えた。
「……それが、事実である証拠は。あなたが未来から来たという証拠は」
恐る恐る尋ねると、緑川はまた嬉しそうに頬を緩めた。
「来年のキュアキュアシリーズのタイトルとあらすじでも話そうか」
「いや、それは困る……!!」
「遠慮は要らない。まだどこにもリークされていない情報だ。制作会社側はこの時期にテーマとキャラクターデザインを決定しているはずだから、関係者以外には全く知られていない」
「だから言わなくて良いですって! 信じます、信じます!!」
危うく公式の情報より半年以上早くネタバレをされるところだった。
彼女の言っていることが本当だったら、の話だが。
健太郎は額の汗を腕で拭い、ふぅとソファに深く座り直した。
とんでもない女だ。健太郎がガチのキュアキュアオタクだと知っていながら、とんでもない爆弾を投げてこようとするとは、侮れない。
「……で? 未来からタイムスリップしてきたとかいう訳の分からないエロおねえさんは、どうしてわざわざ俺達を魔法少女に仕立て上げたのかな。エンジェルステラの魔法……必殺技? あんなことができるなら、過去に戻ってこなくても、V2モンスターと戦えるんじゃ」
今度はどんな言い訳をするのだろうと、健太郎は緑川の出方を覗った。
緑川は目を伏せる。口元から、笑みが消える。
「効かないのだ」
「効かない?」
「ニュータイプには効かない」
「ニュータイプ?」
「New-type villain Virus――通称NV2。進化したヴィラン化ウィルス。私のいた時代、魔物化したV2罹患者のうちおよそ八割がNV2に感染していた。NV2の特徴として、罹患者は魔物化した後も理性を保ち、集団化して行動する、というものがある。しかもヤツらは人間に戻ることも可能」
「人間に、戻る……?」
「魔物化した後、また人間の姿に戻り、人間社会に入り込む。そうなるともう、見分けが付かなくなる。浄化のタイミングを逃せば、手を出すことすらできなくなってしまうのだ」
ギロリと、緑川の鋭い目線が健太郎を射貫いた。
揺るぎない信念を持った眼差しに圧倒される。何も、言えなくなる。
「V波測定器が反応するか否か。彼らを見分ける手段が限られる中、その程度の情報を元に排除に向かえば、魔女狩りのようなことが起きるのは想像に難くないだろう。疑心暗鬼に支配され、信じることの脆さを突きつけられる。そのような未来で、どれだけの人間が絶望したかなど、語るまでもあるまい。だから私は過去に来た。まだV2が発見されていない時代にまで遡り、先手を打てば未来は変わるかも知れないと願って」
もしこの話が本当だとしたなら、彼女の決意は理解できる。
理解できるが――……健太郎にはまだ、腑に落ちない点があった。
「だったらどうして魔法少女? わざわざこんなまどろっこしい方法で対処する必要は」
どう考えても不自然で、どう考えてもおかしな点。
単に趣味だからでは済まされない、重要な点であるはずだと、健太郎は考えたのだが。
「魔法少女は、世界を救う。そう、世界が信じているからだ」
当たり前だろうとばかりに、緑川は微笑むのだった。




