chapter.4 客観的な事実
「客観的な事実?」
「そう。客観的な事実。実はね、なぎさ本人と名乗る割に、このアカウント、エンジェルステラとしての発言が少ないんだ」
「本物を名乗る割に? だったら直ぐにバレそうだけど」
伊織は訝しげな顔をしてノートパソコンの画面を覗き込んだ。
「だよね。ところが逆に、そういうところが人気らしくて。基本的に動画は全く上げていない。ネットからの拾い画じゃなくて、実際近くでまどかを撮影しているような写真ばかり上げているから、ある程度フォロワーが付いてるって感じだね」
館花は淡々と説明してくれるが、伊織はどうにも納得出来なかった。
フォロワーは数万人。メディア欄には生成AIで加工したような、まどかとなぎさっぽい顔をした女の子の画像が沢山貼り付けてある。
戦闘用のコスチュームを着ていないだけで、ピンク髪のツインテールや金髪のポニーテールはそのままに、ファッション誌で見るような流行の服や水着を着ているのが実に滑稽だ。
どこからどう見ても偽者だし、特にまどか風の女の子の異性を挑発するようなポーズは、伊織が看過できるものではなかった。
「キモ」
「あはは。でしょ」
「第一、まどかはこんな顔してない」
「そう思うよね~! 本物のまどかちゃんの方が何万倍も可愛いもの」
頬を膨らます伊織を見て、御園がケラケラと笑った。
「残念ながら、世の中の殆どの人は、まどかちゃんとなぎさちゃんの顔、しっかり見たことがないんだよ」
「御園さん、それは言い過ぎ」
「いや、言い過ぎじゃないよ、円谷君」
今度は館花が口を挟んだ。
「世の中に出回っているエンジェルステラの姿を捉えた動画や写真、よく見るとかなり遠くから撮影されたものばかりってことに、気付いてなかった? しかも戦闘中はかなりの速度で動き回っているから、ピントを合わせにくい。日中帯よりも夕方以降に撮影されることが多かったから、鮮明じゃないんだよ」
「……なるほど。言われてみれば」
「だから、特徴さえ捉えていれば、それっぽく見えてしまう。コスプレにしても生成AI画像にしても、そういう状態だから騙される人は騙されるのかも知れない」
それでも変身後の自分とは違う顔にしか見えないなと、伊織はまた顔を渋らせた。
「このアカウントが動画を上げないのは、恐らく動きで偽者だと直ぐにバレてしまうから。動きにはその人の特徴が出るから、上げないのはある意味賢明だね。二人の人気にあやかってそれなりに数字を伸ばしてきたみたいだから、一瞬本物だと信じて、ナイトスカイも面談することにしたのかも知れない。けど、実はこのアカウント、致命的なミスをしてるんだ。ここで特定班が動く」
館花は首を傾げる伊織に分かりやすく説明しながら、用意していたYouTuneのショート動画を再生させた。
《【客観的な事実】ナイトスカイが面談を断った!?【って何】》
《今話題のエンジェルステラ一億円問題!
ナイトスカイとの面談確定を高らかに宣言していたとあるアカウントによる暴露が物議を醸している。
ナイトスカイ側がほのめかす「客観的な事実」について、特定班が突き止めた真実とは――》
《【時刻】が鍵!!》
《日々V2モンスターと戦うエンジェルステラのまどかとなぎさ。
彼女達がもし仮にナイトスカイ側に接触を試みようとするならば、恐らくは、何もない静かな時間を利用するに違いない。普段の書き込みも同じはずだ。
だとしたら、このアカウントの投稿時刻はどうだろう――》
《五月○日午後六時三十八分
「今日もおつかれさま♡
一日頑張ったみんなに、なぎさから笑顔のプレゼント♡♡♡」》
《――これは、エンジェルステラの二人が○○県の団地で蜥蜴型のV2モンスターと戦っていた時刻。
戦闘中にこのような書き込みをするとは通常考えにくい》
《botの可能性は?
万が一botであるならば、戦闘中のポストも可能。だが、判定ツールによって、このアカウントはbotではないと確認されている。同じ時間帯にリプも送っていることを考えると、予約ポストだと弁明するのは難しい。
ナイトスカイはこうした過去の書き込みも参考に、一件一件偽アカウントを潰していると考えられる》
《「本物のまどかとなぎさに、こんな余裕はない」「画像は生成AIでは?」「そもそもSNSを利用していない可能性」など、様々な憶測が飛び交うが、少なくとも命を懸けて戦う彼女達が書き込むには不自然な時刻であることは事実》
《現在、SNS上にはエンジェルステラのまどか・なぎさ本人を騙るアカウントが大量に存在しているが、本当にこの中に本物が紛れているのかどうか。
そもそもこんな状態で、本当にエンジェルステラ本人から接触があると、ナイトスカイ側は思っているのかどうか。その真の目的は別のところに……?》
《続報を待て!!》
再生回数が既に百万回を超えていることに、伊織はゾッとした。
「概ね、この動画の通りだと思うんだけど、ナイトスカイ側がエンジェルステラの活動の記録と一つ一つ照らし合わせて面談を申し込んだり断ったりしているらしいんだよね。その過程で出てくる結論は『SNS上に本物のエンジェルステラはいない』になるはずなんだけど、それでもここまで引っ張ってくるのがね……」
「で、今日のこれ見て」
御園が差し出したスマホの画面。ナイトスカイ・エンターテインメントの岸社長の公式アカウントの今朝のポストはこんな内容だった。
《「本物である証を持って、ナイトスカイ・エンターテインメントに是非ご連絡ください」とお願いしたのですが、残念ながら無関係の方々からの連絡が後を絶ちません。
客観的な事実をもって本物ではないと判明した場合は、確定していた面談日程をキャンセルさせていただくことになります。
本物のエンジェルステラのお二人からのご連絡をお待ちしております。》
一億円支援のポストを引用する形で投稿されたそれは、短時間にもかかわらず一気に拡散していたようだ。コメントは勿論、いいねもリポストもインプレッションもどんどん増えている。
「僕らが接触してくれると本気で思っているみたいな書き方だよね……」
「問題はここから先の話」
御園はスマホを引っ込めて、キッと表情を険しくした。
「まどかちゃんの耳にも入れて置いた方が良いと思うから喋るけど、実はね、ラボにナイトスカイ側から接触があったの」




