chapter.6 束の間の
悪びれる様子もなく、優也は集合時間から三十分以上送れてやってきた。
「ほらほら、お詫びお詫び」
持ってきたアイスはパピコーだった。
自分はコンビニ限定の北海道ミルクソフトを美味しそうに頬張って満面の笑み。伊織は微妙な気持ちになりながらもパピコーを受け取り、その半分をベンチの隣に座る安樹に渡した。
「え! あ、ありがとう」
二つ入りのパピコーはお得だし、シェアするには丁度良い。が、優也の食べている北海道ミルクソフトに比べるとだいぶ安い。お詫びとしてはどうなのかと首を捻る伊織とは対照的に、安樹星来はパピコーを両手で大事そうに持ってご機嫌だった。
「上手くやった?」
「えっ」
「二人きりで色々喋ったんだろ」
安樹に何やらコソコソ耳打ちする優也に対して不信感を抱きつつ、伊織はパピコーを頬張った。
徐々に日差しが強くなり、日なたでは汗が滲み始める頃、ペットボトルも丁度空になったところだったので、ありがたくいただくことにする。
いつもはのどかと、半分こ。昔から変わらないコーヒー味が一番美味しい。
「またバズってたな」
優也はもうちょい横にずれろと手で合図して、無理矢理伊織の隣に腰を下ろした。
狭い。
仕方なく伊織は安樹側に少し腰をずらした。すると安樹はワッと小さい声を出して、慌てて身体半分ほど左にずれた。
「バズってたのは僕じゃないし。勝手に盛り上がってるだけだし」
「だとしてもだよ。話題の中心に常にいる感じなんだろ? 面白そうではあるけどな」
「優也は他人事だから」
「関係ねぇもん。大変だな当事者は」
ケラケラと小気味よく笑う優也の声が、今日は不快ではなかった。
全部秘密にしていた頃は、その反応に一喜一憂していたのに。
「偽者の中から、いもしない本物を探そうとしてるナイトスカイの方が大変だと思うよ。無駄なことはやめろって教えてあげなくちゃとは思うけど」
「お前、どこまでも良いやつだな」
「良いやつっていうか……無駄なお金使わなくても良いんじゃないかなって。そんなことより、被害者団体に寄付するとか、基金作るとか、できることはいっぱいありそうなのに」
「うわー真面目ぇ」
優也は分かりやすく棒読みで応えた。
フフッと口角を上げ、伊織はゆっくりとパピコーを味わった。
「相談するの、苦手なんだ」
「知ってる」
「優也に言って良かった」
「はは。任せろ」
こんなに心強いことはない。
本当は正面切って感謝を伝えたいのに、安樹が隣にいる手前、気恥ずかしくてできなくて。そんな伊織を優也は分かって、肩に腕を回してトントンと軽快に叩いてくるのだ。
「上の人に怒られなかった?」
「大丈夫。それどころじゃないって感じかも知れないけど」
「それどころじゃない?」
「詳しくは言えないけど、もっと色々ヤバいことになってきてて」
溶けてきたパピコーを啜ると、伊織はふうっと息を吐いた。
「守秘義務?」
「そんな感じ。あとは、健太郎がちょっとね……」
「健太郎って、あの変態サラリーマン……」
「健太郎さんがどうかしたの?」
大人しくパピコーを啜っていた安樹が、ぐいっと前のめりになって伊織に尋ねてきた。
「色々込み入った事情があって、あの様子じゃあ、しばらくは無理かもなって……」
「マジか」
「うん」
親子連れや小学生の姿が少しずつ見えてきた公園で、直接的な言葉はマズい。優也は気を利かせて、そこから先の言葉を飲み込んでくれたようだ。
「僕がワガママで動かなかった時はあいつが全部してくれたから、次は僕が動かなくちゃ」
「……大変そうだな」
「うん」
そうやって三人ベンチに座りアイスを味わっていたところで、伊織の左腕に鈍い振動。
《ステラ・ウォッチ》の文字盤を確認、ウッと眉を顰める伊織を優也と安樹が覗き込む。
「北側――小学校の方角だ」
「マジかよ」
「行くの?」
「行くよ」
パピコーの空をパッケージにねじ込んでバッグに突っ込み、伊織はすっくと立ち上がった。
「えっと……あった、公衆トイレ。あそこから飛ぶ」
「飛ぶ?」
「あ~、井上君は知らないよね。円谷君、瞬間移動するんだよ」
「瞬間移動!?」
「突然消えるを目撃されたら困るから、トイレなんでしょ? ここじゃ誰が見てるか分からないから」
なんでも知ってるなと優也が目を丸くするのを尻目に「終わったら戻る」と駆け出す伊織。
「無理するなよ!」
その背中に優也が投げかけた他愛ない言葉が嬉しくて、伊織は思わず頬を緩めた。
任せろとガッツポーズをかまし、ウォッチの盤面を確認する。
《【要注意】V波異常値》
「異常値……?」
嫌な予感がする。
ラボで更科に言われた言葉が頭を過った。
――『V波の増幅は何かの予兆かも知れない』
何も、起きなければ良いが。
伊織は大急ぎでトイレに駆け込み、誰もいないことを確認してから左腕を突き上げた。
「チェンジ・ステラ・ストリーム……!!」
目映い光が伊織を包む。
光の粒子に溶け込んだ伊織は、不安を抱いたまま現場へと急行する――……




