chapter.4 希望の光
ショッピングセンターのフードコートで待っていた優也と安樹星来は、ラボでの用事を済ませた伊織が到着するなり、揃って伊織の襟首を掴んできた。
「どうなってんだアレ!!」
「もしかして、あのために出張ってたわけ!?」
興奮気味に鼻息を荒くする二人に、伊織はしどろもどろになって「落ち着いて、二人とも」と言うが、これが落ち着いていられるかとばかりに、二人は伊織をテーブル席に座らせた。
優也はバンッとスマホを伊織の真ん前に起き、表示されたナイトスカイとの契約発表ニュースを指差しながら「説明しろ」と語気を強める。
いつもは大人しい安樹もカッカしていて、やたらと椅子を伊織に近付けてくる。
昼時が迫ったショッピングセンターは人が多く、こうした話をするのはあまりよろしくないのではと伊織は思うのだが、優也も安樹もそれどころではないらしい。
喋るまで席を立たせないぞとばかりに両脇から挟み込んでくる。
「上の判断だから。僕がどうとか関係なくて、決定事項で」
「決定事項は分かったけど、伊織は納得してんのかって話!」
「それは」
「じゃあ何だよこの可愛い笑顔はよぉ~~~~!! 惚れるじゃん!!」
「ほ、惚れ……?」
「親友に惚れるとか、俺、男として終わってる……!! どぉしてくれるんだ!!」
「だ、大丈夫? 優也……」
大丈夫ではない。
両手で顔を隠すようにしておんおんと泣き真似をしている、その耳が真っ赤だった。
伊織はドン引きしたが、優也本人は本当に困っているらしい。
「な、なぎささんも美人過ぎて引くんだけど」
「あいつは喜んで撮影してたよ……。営業スマイルが得意らしい……」
なるほど、安樹はなぎさ推しなのかと伊織は勝手に理解した。
「あんまり大きい声では言えないけど、プロは表情を引き出すのが上手いっていうか……、声の掛け方でどんな表情が出てくるのか知っているというか、そういうやつだよ……」
あくまで発表のためのスチル撮影。エンジェルステラの戦闘衣装と、用意された衣装に着替えての二パターン。戦闘衣装でのスチルは室内での撮影だったが、もう一つの衣装での撮影は屋外だった。
「いつ海に行ったの?」
「えっと……先々週だったかな」
「めちゃくちゃ可愛い!! nannanの表紙になるって本当?」
「た、多分……?」
「買う! 絶対買う!!」
フリル多めのトップスとティアードスカート。踵の高いサンダルも初めてで、砂の上で歩くのが大変だった。大きめの麦わら帽子は風で飛んでしまいそうで、ずっと片手で押さえていた。それが可愛いとそのままスチルに採用されたのだから、全く分からないものである。
《魔法少女に全力で恋する夏》――ナイトスカイが提案してきたキャッチフレーズはとても恥ずかしくて、文字入り画像が送られてきた時には恥ずかしさで死ぬかと思ったくらいだ。
「誰がこんなので喜ぶんだと思ってたけど、結構喜ぶんだね……」
「そりゃあね! いやぁ、すげぇな、金の力って……!! これで画像の粗いスクショを無理矢理コピー機で拡大印刷して貼らなくて済む……」
「は? キモいんだけど」
優也がまどか推しだと知っている伊織は、ブルッと背中を震わせた。
まさか優也の部屋がそんなことになっているとは。知らない方が良かったのに。
「そのうち玩具とかも出るとか言ってたし、ガシャとか食玩とか出るかもだし、こんなに増えるとそれはそれで気持ち悪くない……?」
「いやいやいや……!! これはこれで良いと思うぜ。公式からの供給なら、何の躊躇もなく買える」
「そんなもんか……」
「そんなもんだよ、そんなもん!!」
複雑な気持ちで背中を丸める伊織をよそに、優也と安樹は何やらキャッキャと盛り上がっている。
「みんなが喜ぶならそれでいいんだけど、僕らは本来、そんなつもりで活動しているわけじゃなくて」
「それとこれは別だと思うよ」
自分のスマホを覗き込みながら、安樹が言った。
検索画面に並ぶ、エンジェルステラの記事。ビッグ案件、景気への起爆剤になるか、希望の光……やたらとスケールの大きな見出しが羅列されている。
「私達って、とても苦しい時代に生まれてきたじゃない? V2、緊急事態宣言、不景気、物価高、就職難……。どこにも希望が見いだせないなかで、未来に向けた希望っていうのかな、光なんだよね。期待しちゃってもいいって本気で思えるの、すごく、ありがたい……」
ふと、伊織の目に安樹の横顔が映り込んだ。
穏やかな顔。緩んだ口元。普段は強がっているクセに、寂しさを湛えた彼女が、滅多に見せない静かな笑顔。
「……安樹さんも、そんな顔するんだね」
何気なく、伊織は呟いた。
安樹の顔が、耳まで一気に赤くなる。
「えっ! ど、どんな」
「さっきみたいな顔」
「えっ、えっ!!」
さっきまでくっ付けていた椅子を、安樹星来は一気に伊織から引き離した。
「や、やだ! 円谷君何言って」
「ん? 伊織何かした?」
まどかの写真をググりながら、その可愛さについてブツブツ呟いていた優也も、安樹の声に気が付いて顔を上げている。
「いや、何もしてないけど」
「した! した!! へ、変なこと言った!!」
「言ってないよ。健太郎じゃないんだから」
「け、健太郎さんはどうでもよくて! やだっ! もう、無自覚……!!」
何がどう安樹の心を捉えてしまったのか、伊織には分からない。
が、優也はその何かに気付いたようで、二人の様子をニヤニヤと眺めるのだった。




