chapter.3 岸社長からのアプローチ
「金儲けの手段としてV2を利用しようとするなんてヤツが存在するとしたら、最悪どころじゃないな」
健太郎の表情は暗かった。
「まぁ、金儲けならまだマシだよ。一番厄介なのは、金が絡まないパターン……」
話の最後に、三ツ浦は不穏な事を言い出した。
「金儲けじゃないとしたら、何のため?」
「円谷君にはまだ難しいかも知れないが、いろんな考えの人間が、この世には存在するんだよ。……っと、所長のお出ましだ」
パーティションの向こう側で、挨拶を交わすような声。カツンカツンと小気味よく響く音が少しずつ近付いてくる。
「珍しいな。朝から」
「おはようございます、所長」
「緑川さん、おはようございます」
「おはようございます」
パーティションの内側に現れた緑川は、少し嬉しそうに笑みを零したが、それでいてピリピリとした空気を崩そうとはしなかった。
「昨日の今日であちこち大騒ぎだ。予想はしていたが、ここまでとは。今回の契約に絡んだ企業の株価はストップ高だろうな」
「予想では、今季最大の上げ幅が期待できそうって話。俺も買っとくんだった」
「……インサイダー取引で本業が懲戒免職になるだろう? そういうのはやめてもらいたいものだな」
「冗談通じねぇな、女史は」
難しい話をして睨み合う緑川と健太郎。
何の話をしているんだと、飛び交う専門用語に伊織は何度か首を傾げた。
「ところで、まどかとなぎさに、大事な話がある」
「大事な話……?」
「スク水案件なら喜んで承りますが」
「水着のことは頭から抹消しろ、渚」
緑川は舌打ちをして健太郎を睨み付けた。
「ナイトスカイ・エンターテインメントの岸社長からお呼びが掛かった。お高いお店でのお食事会だそうだ。大急ぎで黒髪バージョンを実装しなければならなくなった。衣装とヘアメイク案は赤井と御園に頼んである。館花にバージョン追加を指示した」
「お食事会?」
「黒髪? 変身前を偽装するってことか?」
目を丸くする伊織と健太郎。
三ツ浦はほほうと感嘆の声を上げている。
「岸という男、契約だけでは我慢できなかったか」
「残念ですが、三ツ浦先生、その通りです。金は出したのだから、拒否はできないだろうとばかりに詰め寄られました。当人達は未成年ですから、食事会はなるべく早い時間にとお願いしましたが、それでも夜七時。終わりは九時頃となるでしょう。今までどうにか誤魔化してきましたが、円谷少年のご両親にどう説明するべきか……」
――エンジェルステラのことは、誰にも話してはならない。そういう約束。
うっかり安樹星来にバレ、優也にバラしてしまったが、伊織の家族は未だに、彼がエンジェルステラのまどかであることを知らないのだ。
「あぁ……だったら、俺が一肌脱ぎますよ」
健太郎がニッと不敵な笑みを浮かべながら、緑川と三ツ浦の会話に割って入った。
「どういうことだね、渚君」
「三ツ浦さんもご存じだと思うんですけど、俺の上司、こいつの父親で」
「ほう……」
「俺、色々あって今休職中なんですが、キュアキュアStoreで伊織とバッタリ会って、『課長の息子だろ? スマホの待ち受けで見たぞ』って俺が声を掛けたことにしたらどうかと。そんでキュアキュアの話で盛り上がって意気投合して、『俺んちに来ないか? 飯食わせてコレクションも見せてやる、家にはちゃんと送ってやるから安心しろ』って流れになった〜ってことにしたら……自然じゃないすかね」
なるほどと感嘆しつつ、「強引だな」「確かに」と、緑川と三ツ浦は頷き合っているようだ。
「けど、それって微妙じゃない? 父さんに変な疑いを掛けられたりしたら……」
「変な疑いって何だよ」
「……確かに。何だろ」
伊織の父良悟は確かに健太郎の上司。そして、健太郎がキュアキュア好きなことも知っている。これを利用しない手はないというのは、分からないではないが……
「課長のLINKは知ってるから、俺が連絡しとく。伊織、お前良い感じで話し合わせろよ」「う、うん……」
無理矢理話をまとめられた気がしなくもない。
困ったなと首に手を当てる伊織に、緑川が一枚の紙を差し出してきた。
「念のため、渡しておく。岸社長の経歴と人物像のメモだ。相手は大手芸能プロダクションの社長……。話も上手い。当日は私と三ツ浦先生も同席する。ナイトスカイ側には君達の素性に関する質問はNGだと念を押しているが、相手がどう出てくるかは分からない。余計なことは喋らないよう、今から警戒しておけ」
面倒くさいことになったなと、伊織は心の中で呟いた。
応援してくれる人達に本物を届けるための契約、ということには納得していたが、こうして戦闘以外の面倒事が増えることに対しては、どうしても抵抗がある。
「やっぱり水着になってくれとか言われませんよね……」
「それはない。安心しなさい」
「白ビキニ、喜んで着ますよって伝えなくちゃな……」
「水着はない」
ふざけているのか真面目なのか。
健太郎はギリギリまで、水着の話をするのだった。
お読み頂きありがとうございます!
ご感想、リアクション、評価★★★★★、ブックマーク、レビューなどお気軽にどうぞ!
11月の文学フリマ東京に出店いたします……!
会場では無料配布のチラシなどもありますので、是非受け取ってくださいね!!
そしてそして、5月の文フリ東京で頒布していたエンジェルステラグッズは、BOOTHでも入手出来ます……!
ページ下部の【天屋本舗】のリンクから飛んでみてくださいね!
第二十八回書き出し祭りに参加しています。
第一会場にいるので、当ててくださいね……!!
https://ncode.syosetu.com/n4890mk/
シルバーウィーク中、あと一回更新できるかな。
分かりませんが、書けたら……!
次はいよいよ100話目です!!!!
今後も毎週少しずつではありますが更新していきますので、お付き合いいただきますと幸いです……!!




