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第五話「この狂った監獄へようこそ!」⑤

 それから、俺はひたすらに一心にウッド共を狩り続けた。

 もはや、手慣れたものだ。

 

 考えてみれば、この一ヶ月……休日も取ってない。

 

 いや、正確には取っているのだが。

 宿舎に籠もっていても暇だから、散歩に行く。

 

 ……ウッドが視界に入ると、どうにも殺る気スイッチが入ってしまって、気がつくとまさかり片手に、ウッドの死骸の山が出来てる……そんな調子だ。

 

 まぁ、戦場にお休みなんて無いからな。

 見渡す限りウッドだらけのこの戦場……夜ゆっくり寝れるだけマシと思っておこう。

 

 それにしても……今日、何匹のウッドを狩ったか、覚えていない。


 10は確実に超えた……。

 そこから、先はもうボーナスゲーム……と言うか、ノルマ10本とかまじヌリぃよ。

 

 ……不意に寒さを感じだす。

「火の魔石」の魔力が尽きたらしい。


 簡易ステータスを見ると、もはやMPも枯渇してしまったようだった。

 

 時刻は15時……そろそろ、日が傾き始める。

 北の大地は昼が短いのだ。

 

「やれやれ、そろそろ潮時かねぇ……」

 

 ここは大人しく、帰り支度を始めるとしよう。

 もちろん、終始背後の警戒は怠らない……いつでも斧を抜けるように。

 ……ウッドバスターに油断の二文字はない。


 MP枯渇で弱体化したところを狙われるとか……今まで、そんな事はなかったけれど。

 経験上、殺られる時は、いつもそんな時だ。

 

 油断大敵……死にたくなければ、油断するな。

 

 ウッドの死骸の数は……17か。

 雑魚ウッドはその倍くらい……。

 

「50には届かなかったか。まぁ、いい」

 

 なお、切り捨てたウッド共はそのまま放置だ。

 別にアイテムカードになる訳でもなし、何処かに運ぶとかそんなもん知らん。

 

 丸太は使いようによっては、武器にもなるけど、ウッド臭を嗅ぐと殺意が湧くようになってしまったので、そんなもん要らん。


 朝になれば、夜の間に誰かが回収してくれるらしく、いつも跡形も無くなってるから、放置で問題ないのだ。


樹木感知センスオブウッディー」 


 ……帰り際の討ち漏らしチェック……雪の下に小さな反応がいくつもある。

 

 なんて奴らだ……こんな一瞬で、もう次々と芽が出ているではないか。

 

「……よし、帰る前に少しでも潰そう!」


 ドカドカと新芽を片っ端から踏みにじる……二度と再生しないように念入りに踏みにじる!

 

「……この雑魚がっ! この雑魚がっ! くたばれぇええエイッ!」


 俺のジャンピング超スピンキックの前には、こんな雑魚ウッド……一方的な蹂躙にしかならない。


「……鏖殺おうさつは速やかに完了した」

  

 雪の白さと土の茶色……潰れた新芽の緑色の汁のコントラストがまるで、芸術作品のようだ。

 

 ああ、なんか身も心もスッキリ。


 だがしかし、今日も返り木をいくつも浴びたせいで、身体がウッドくせぇ……って、頭に木っ端が刺さってんじゃねぇか!

 

 どうやら、「士魂」が防いでくれたらしい……「士魂」が無かったら、即死だった。

 俺もつくづく運には恵まれているようだった。

 

「宿舎に帰ったら、風呂だ、風呂! そして、衣服も洗濯して、ウッド臭を消さねばならんなっ!」


 そして、今日もいつものように日が沈もうとしていた。

 一日の終りが近い黄昏時……日が沈む、けれども日はまた上る……。

 

 同じような毎日だけど、それなりに充実していた。

 

 ……宿舎に戻って、風呂に入って汗を流し、ウッドの死臭を消すべく丹念に石鹸で身体を磨く。

 

 うん、心持ちフローラルなマイボディ。

 ウッディーなのは嫌だからな……。

 

 洗濯をして、服や装備を部屋に干すと完全に身体からウッド臭がしなくなる……やはり、これでなくっちゃな。

 

 ちなみに、最初の頃、風呂はヒノキ風呂とかフザけた奴だったのだけど。

 ある日、その事に気付いて、ざっけんな! つって、斧で叩き壊したら、次の日には岩風呂になってた。

 

 姿は見えないのだけど、どうやらなかなか、気の利く設備業者がいるらしい……まったく、いちいち気が利いたところだ。

 

 そして、タンドリーチキンな夕飯を食って、シメのお茶漬けで腹を満たすと、18時を過ぎる。

 いつも通りのスケジュールだ……俺って完璧だな。

 

 消灯時間と決めている夜の22時まで、まだ4時間ほどあるが、寝るにはまだ早い……お次は待望のひよこちゃんタイムだ!

 

「ひよこちゃーん! ひよこちゃーん! はっぴーもふもふ、もっふもふー」


 作詞、作曲俺「LOVER HIYOKOCYAN!」を口ずさみながら、ひよこちゃんルームの扉を開けると、部屋の中は今日もひよこちゃんでいっぱいだった!

 

 ピヨピヨと言う鳴き声が一斉に重なって、もう訳が解らない。


 速やかに扉をピシャリと閉めると、中はとっても暑苦しい。

 ヒヨコちゃんは寒がりだからな……俺もここではタンクトップと短パン、サンダル履きと言うワイルドなスタイルだ。

 

 ここに来るまでが思い切り屋外なので、このスタイルではなかなか寒いのだが、そんなものはひよこちゃんへの愛と根性で華麗にスルーだ!

 

 まぁ、ここでの作業自体は大したもんじゃない。

 朝晩、二回……ひよこちゃんにご飯をあげて、水飲み場に水を補充する。

 

 そして、オス、メスを判別して、オスゾーンと、メスゾーンへと選別していくのだ。


 最初は、訳が解らなかったけど……慣れると、もう顔を見るだけで解る。

 オスのほうがちょっとだけ、逞しい顔をしてるんだよな。

 

 まぁ、この作業は暇な時に程度だから、いつも適当な所でやめる。


 雨や雪の日は、ウッド狩りも休みだから、一日中ヒヨコちゃんタイム。

 なんと素晴らしい。

 

 なお、どれだけ選別してもヒヨコちゃんは一向に減る気配がない。

 

 割と際限なくヒヨコちゃんはいるからな……無限ヒヨコちゃんってやつだ。


 ……最高である。

 

 選別作業が一段落すると、今度は俺の癒やしタイム。

 ごろりとヒヨコちゃんルームの藁の上に横になると、見る間にヒヨコちゃんが群がってきて、俺の体の上に乗っかってくる。

 

「うわぁ……ひよこちゃん、可愛いなぁ……ふふふ」


 ふわふわでホカホカな黄色い毛玉。

 くちばしであちこちついばまれるけど、ほどよい刺激と言ったところで、別に痛くもない。

 

 そういや、バタムおばさんは何処に行ったんだろ? 今日は見かけなかったけど……。

 

「……って、おばさんまた壁に引っかかって動けなくなってるよ」

 

 バタムさん……ヒヨコちゃんルームの壁に向かって、一生懸命足踏みをしている所だった。


 ロジャーさんやバタムさんは、決められた動きしか出来ないと言う奇病に冒されている可哀想な人達なのだと言う事に俺は気が付いていた。

 

 考えてみれば、こんな感じの人って帝都にもいた。

 

 巡回パトロールの衛兵さんとか、下手にうっかりぶつかったりすると、後々用水路に落ちてしまったり、壁に当たって動けなくなったりするのだ。

 

 まぁ、そんな人たちを見たら、黙って助けるってのも不文律だったからな。

 

 ここには、そんな親切な人なんて他にいないから、俺が直接助けてあげるのが常である。

 

「よっこらせっと」


 バタムおばさんの背中を押して、向きを変えるとゴリゴリと壁に身体をこすり付けながら、ヒヨコちゃんルームを出ていく。

 

「うーむ、いつからハマってたんだろ? まぁ、いつも朝多目に餌あげてるから、ヒヨコちゃんに問題がなければ、別にいいんだがね」


 ちなみに、バタムさんは会話パターンが貧相で「今日はいい天気ね」「ヒヨコちゃんってとっても可愛いのよ」「今日の晩御飯、なにがいいかしら?」……この三つしか無いらしい。

 

 まぁ、どうでもいい人だし、会話にならないって始めから諦めてれば、さしたる問題もない。

 

 ……なんか、そこはかとなく違和感があるんだけど。

 ここで、こう言うのを気にしてたら、駄目駄目。

 

 俺は、トリデ=オッサム。

 

 人類の領域を蝕む、悪しき生物ヒノキとスギを狩り尽くすべく、ぶっ殺しまくって、合間にヒヨコちゃんと戯れ、癒されることを生業としている紳士的な紳士だ。

 

 なんか、色々大事な事を忘れつつあるような気もするけど。

 きっと忘れて良い記憶なんだろう……今、俺はそれなりに充実しているのだ。

 

 ……俺の戦いはこれからだっ!

地味に伸びてたので、続きアップ。(笑)

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