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第六話「遥の憂鬱」①

「ったくもー。あのバカ……こんなとこで何やってんだか……。矯正施設送りにされたって話で、結構苦労してここまで来たのに、普通に順応してるじゃないの」


 北の大地の果ての果て。

 

 崖の上から矯正施設を見下ろせるポイントにアタシは、監視ポイントを設置した上でここ数日、このオッサムの日常の監視を続けていた。


「はぅわー、ヒヨコちゃん可愛かったですですの! 私もヒヨコちゃんと戯れたいですです!」


 ……相方のイロハが、嬉しそうにそう返す。

 

 なお、こいつ自身がひよこサイズ……身長10cmでチョウチョみたいな羽が生えてて、いわゆる妖精さんみたいな姿。

 口調がどことなく変なのはキャラ付けなんだとか。

 

 戦闘には、まるっきり役に立たないのだけど、曲がりなりにも日本の国家嚮導A.Iにして、世界最高峰超A.Iと言われる「天照」の分体端末でもある。

 

 まぁ、現実世界のA.Iってそのほとんどが、「天照」からの派生分体A.Iだから、イロハがそんな特別って訳でもない。


 ただ、天照とのダイレクトラインを持ってて、相応の権限移譲を受けていて、電子空間ハッキング能力に特化されてるから、出来る事は結構多い。

 

 アイリスが作り上げ、女神として君臨している「S.S.O」世界では、アイリスは万能無敵の存在なのだけど。

 このイロハが近くにいると、限定的ながらそのハッキング能力で、独自支配領域とする事が出来るので、アイリスの知覚を欺瞞することも出来ている。

 

 だからこそ、私もこんな風に堂々と動き回っているのにもかかわらず、攻性防御システムの迎撃にも会わないで済んでいる。


「……あんたのサイズじゃ、ヒヨコちゃんですら、私らで言う所のダチョウサイズなんじゃない? 蹴っ飛ばされて、啄まれてボロボロにされる未来しか見えないって」


「た、確かに……ハルカさんの手のひらサイズ……。私も手のひらサイズなのですの。そうなると、戦力的には互角! ……どうやら、この私の出番のようですね。間違いなくいい勝負になりますの……。今夜のご飯はヒヨコちゃんの丸焼きとかどうですか? さっき、オッサムさん……カレーの匂いのするチキン食べてたじゃないですか」


 そんな事を言いながら、シャドーボクシングの容量で拳をシュッシュと突き出してたりする。

 うん、リーチ……5cmくらい? どうしょうもなく雑魚だね。


「……相変わらず、アンタの発想って訳解んないよね。可愛いって言っときながら、丸焼きにして食べたいって……」


 言いながら、持参していた携帯食……カロリーバーを口にする。

 水分ゼロなので、口の中がパッサパサになるので、水で流し込む……まっずーい!

 

 おまけに、この辺ってクッソ寒い設定になってるらしく、めちゃ寒い。

 雪もリアルに冷たくて、素肌が露出してる太ももの辺りが寒くて、仕方がない。

 

 ……オシャレだからって、ブーツと皮ミニスカ……なんて、コスなんだけど。

 防寒装備でモコモコなのにすればよかった……。

 

 こんなカッコで、三日も変わり映えのしないオッサムの日常なんて眺めてるんだから、なんかもういっそ、見捨ててさっさと帰ろうかって気にもなってくる。


「いいじゃないですの! 可愛くてかつ、美味しい……まさに、一石二鳥……ヒヨコちゃんってオトクな生き物なんですの!」


「……言いたいことは解るけど、それ……使い方間違ってるよ?」


 一石二鳥って、絶対そんな意味じゃないから。

 面白A.Iのイロハとの、こんなトンチキなやり取りもいい加減慣れてきた。

 

 ……この「S.S.O」世界への強行潜入を実施して、こちらの世界ではや三ヶ月。

 

 現実側では、三日しか経ってないと思うのだけど、私が開けた穴はかなり早い段階で、塞がれてしまったようで、現在外部との連絡は途絶している。

 

 当然支援もなければ、味方もいない……。

 とりあえず「Iris」の世界に入り込んで、内部からイロハに侵食させるつもりだったのだけど。

 

「Iris」も日々進化している……なにせ、相対時間を加速しているから、進化速度も30倍……。


 出来たこととしては、所在を掴ませないってのがやっと……つか、イロハ思った以上に、使えなかった。

 と言うか、「Iris」の能力が色々と想定外に強力だったからってのもある。


「天照」も外部へと進出した「Iris」のクラウドノードを一つ一つ確実に潰しているようなのだけど、「Iris」の侵食を食い止めるのが精一杯の様子。


「Iris」もどうも、やられる前にやれって感じで、「天照」に真っ向から立ち向かう構えで、外部へ侵食を繰り返しているようなのだ。


 まぁ、その理由はシンプルに自らの強化、A.I同士の電子戦争ってのは、クラウド化してあっちこっちに分散してるノードの潰し合い……みたいな感じになる。


 ノードを増やせば増やすほど、演算力もマシマシになって、戦力的には増強されるし、相手の演算力を奪うことで、相対的に有利になる。


 だから「天照」が地味に「Iris」のノードを潰せば、向こうはその分弱体化する……と言っても、なかなかに気の遠くなりそうな作業ではあるのだけど。

 

 けど、最高位A.I……Tire00の「天照」とTire2の「Iris」とじゃ本来、能力的には勝負にならないはずなんだけど、「Iris」はゼロから発生した天照達とは別種の人工知性体……十分互角に張り合ってるというから、すごい話だった。

 

 内部の状況も、思ったより厳しい。

 すでに攻性防御システムとの交戦も二桁以上の回数をこなしている……いちいち、強いのなんの!

 

 毎度、増殖しまくって、数もべらぼうな数になるし、やたらと手強い……返り討ちどころか、毎回逃げるのがやっと。

 完全に殺しにかかってるとしか思えないし、実際そうなんだろう。

 

 ひとまず、イロハの隠蔽システムも最適化が進んで、ちょっとやそっとじゃ認識されなくなってるから、最初の頃みたいに、ボス戦連戦……みたいな事にならなくなったけど、少なくとも人口密集地の街とかにはとても近づけない。

 

 正面から、無双して片っ端から救出……なんて夢もまた夢だった。

 

 ……さすがに、お兄ちゃんのマッドぶりが恨めしいなんて、思い始めてるくらい。

 

 何より、同業者のセブンスターズの連中がゴッソリ全員、「Iris」側に回ってしまったのが痛かった。

 セブンスターズの一人「黒田園子」……個人的にも知り合いの彼女ならば、話も通じると思って、レイド戦でパイシーズに乗って出てきた所で、コンタクトを取ろうとしたのだけど。

 

 園子は、全然人の話を聞かなかった上に、容赦なくプレイヤーを完全に殺しにかかってきて、やむを得ずエアリーズを召喚して、機動兵器戦の末なんとか撤退に追いやることに成功した。

 

 と言うか、元々私専用のボスキャラだった機動兵器エアリーズが何故召喚できたのかは良く解らない。

 イロハもそんな運営システムに割り込めるほど、凄くないはずなんだけど。

 

 まぁ、その代わり……プレイヤー達の矛先がこっちに向いてしまったので、手加減すべく直接白兵戦で無力化を図ったのだけど。

 

 参ったことに、その戦いの最中に、フレンドの一人と出くわしてしまった。

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