第2章・否鳴ぎ
神代 才輝 (じんだい さいき)
12歳・小学6年
ポジションはサード。名前の由来は、母親いわく「あらゆる面で才能を発揮できるように」だそうだが、「輝」の字の違いから親の学のたかが知れる。
「さぁ〜て……じっくりお説教してあげますかね」
放課後の職員室。有田は孝太郎と才輝をイスに座らせてニヤリと笑う。
「とりあえず……掃除はやっとけ。律儀にやっとる奴らに迷惑だ」
「はい……」
「と、言いたいところだが……遠藤選手がいなくなったのはツライしなぁ……。掃除どころじゃないってのもわかる」
「だ、だろ! 先生もそう思うだろっ!? やっぱり中継で見たいよな!?」
孝太郎の目が輝く。
「いや、遠藤選手のいたチームが来年も優勝することに、5万円賭けてたんだ。まいったな〜賭けた途端に抜けるなっちゅう話だよ。オレの給料からすれば、5万円なんて大金だぜ?負けたら酒飲む金がなくなっちまう」
「は……」
「アイツがいれば次も余裕だと思ってたのによ〜」
「……オホン。有田先生?」
近くにいた別の教師が咳払いをする。
「ま、まぁそれは置いといて……」
置くんかい。
「その掃除の前、昼休みに屋上でバカデカイ声を出していたやつがいるんだが……」
「な、なんで俺だってわかったの!?」
「あ、お前だったのか。まだ誰とは知らなかったのに」
「孝太郎……バカ」
才輝がため息をつく。
「自分でバラすな……」
「わ、悪い、才輝! でも、大声出しちゃいけない、なんて決まりあったっけ?」
「……大声を出す出さない以前に、屋上は立ち入り禁止だろーが」
「あ! そういえば……」
孝太郎、必死になるほど自滅する小僧である……。
「それとさっきのセクハラ行為。これについてはみっちりと説教してやらんとな」
「次のターゲットは保険の伊藤先生、だっけ?」
孝太郎が反撃に出る。
「……まぁ、それも置いといて……」
それも置くんかい。
「お前ら、来月隣町の野球チームと試合するんだって?」
説教はどうした。説教は。……どうもツッコミが多くなるな……今回の私は。それぐらいいい加減な教師だ。
「ちゃんと練習やってんのか?」
「そう、それなんだよ先生!」
孝太郎が声を張り上げる。
「俺たち、いつも公園のグラウンドで練習してるんだけどさ、最近いっつも中学生の人たちが先に使ってて練習できないんだよ〜」
「あぁ? お前ら学校終わってすぐにグラウンド行ってるんだろ? 何で中学生が小学生のお前らよりも先に来れるんだ?中学生は授業終わるの遅いだろ」
「学校を自主早退しているんですよ。この間大声でそうしゃべっていました」
才輝が口をはさむ。
「自主早退って、ようするに学校サボって抜け出してるだけじゃねぇか。でも学校サボってでもやることが野球って……。健全なんだか健全じゃないんだか……」
「健全じゃありませんよ。どう見ても」
「ほう。根拠は? 見た目だけで判断するなよ?」
「その中学生たちが集まっている場所はグラウンドですけど、やっているのは野球じゃなくてタバコでしたから」
「なるほど。スゲーわかりやすい。さすが才輝」
素直に感心している。
「ねぇ先生! あいつらどうにかしてよ! あそこが使えないと他に練習するところないよ! この町狭いんだから!」
狭いとか言うな! ……広くはないのは確かだが。
「おいおいおいおい。オレは小学校の先生で、小学生を世話するのが仕事だ。中学生のことは中学校の先生に頼めってんだ」
「……良識のある大人として、未成年の喫煙に関して何も思いませんか?」
「いや、オレも中学生のころからタバコ吸ってたし」
「……オホン。有田先生……」
再び咳払いが聞こえる。が、今度の音の発信源は先ほどの教師ではなく、いつの間にか背後にいた校長先生だった。
「有田先生の中学時代の話、校長室でじっくり聞かせていただけませんかな?」
「や、やだなぁ校長先生。昨日テレビでやってたドラマのマネですよぉ……」
(ダメだ、この人……。)
それが、孝太郎と才輝の共通の感想だった。
サブタイトルは「むやなぎ」と読みます。




