第1章・高鳴り
弓場 孝太郎 (ゆんば こうたろう)
12歳・小学6年
絵に描いたような野球少年。希望ポジションはピッチャーだが、制球力がメチャクチャなため外野をやらされている。
「とびてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
やかましいっ!と、思わず言いたくなるほど大声で叫んでいるのは、今回の主人公の一人・弓場 孝太郎。小学6年生。
「はいはい、学校の屋上でとびてぇー、なんて言わない。自殺志願者と間違えられるぞ」
諭すように言ったのは、同じく6年生の神代 才輝だ。
昼休み、二人は小学校の屋上にいる。孝太郎はフェンスの金網をつかんでもう一度叫ぶ。
「とびてぇぇぇぇぇっ!アメリカにとびてぇぇよぉぉぉ!」
「何故?」
才輝の問いに、涙でぐしゃぐしゃになった顔が振り向く。
「遠藤選手だよぉ! とうとうメジャーにいっちまったんだよおぉぉ〜!」
「ああ、お前の好きな野球の人か。メジャーって、ファンなら嬉しいことじゃねえか?」
「そりゃそうだけどよ〜……中継でプレー見れる機会がほとんどなくなるだろうがよ〜!」
会話を聞いて分かる通り、孝太郎は大の野球好きだ。
「確かにな…。せいぜいスポーツニュースぐらいだな。見れるのは」
「ちっくしょぉぉ〜…とびて〜! アメリカにとんで生で見てえよ〜!」
その時、キーンコーン、カーンコーンと、チャイムがなる。昼休みの終わりを告げるチャイムだ。
「ほら、掃除の時間だ。オレは校庭掃除だから先に行くぞ」
「う〜……」
才輝は、孝太郎とは対照的に冷静で大人びた性格だ。顔つきもよく、女子によくモテる。そんな彼が感情優先の孝太郎と仲良くしていられるのは、傍から見ると奇異に見えるが、当の才輝本人はけっこう楽しんでいたりする。
孝太郎と才輝。これにもう一人加えたトリオが、この物語の主人公である。
午後の掃除と授業が終わり、HRを始めるために日直が担任の教師を呼びに行っている。その間も、孝太郎は悲しみにくれていた。(さすがに教室で泣いてはいなかったが)机に伏せてうなだれる孝太郎の頭を、誰かが叩く。
「んあ……?」
孝太郎が顔をあげると、同じクラスの井原 美春 だった。
「美春……? なに……?」
「なに、じゃないでしょ! なんで掃除に来なかったのよ!」
美春は気が強い女の子で、孝太郎と同じ教室掃除担当だ。
「掃除どころじゃなかったんだ……うるさいなぁ……」
「なによ、その言い方! 全然反省してないじゃない!」
「……孝太郎、お前まだ悲しんでたのか」
孝太郎の劣勢を見て、才輝が援護に入る。
「悲しむって、なにがあったの?」
才輝が出てきたので、他の女子も話題に入ってくる。
「コイツは、大事な人が遠くに行ってしまって悲しんでたんだ」
「へぇ……」
数人の女子が同情と好奇の目で孝太郎を見る。が、美春は騙されない。
「そんなの、掃除をサボる理由にならないわ。……どうせロクな人じゃないでしょ、あんたの大事な人なんて。」
「なにぃ……?」
孝太郎が立ち上がって美春を睨む。
「バカにすんなよ! 男のあこがれを!」
「なによ、あたしより背が低いくせに!」
(はじまった……)
こうなると、才輝でも手がつけられない。
「お前が高すぎるんだよ! オトコオンナ!」
「どこがよ! ちゃんとした女の子でしょ!」
「へ〜そうです……かぁ!」
「キャァ!?」
孝太郎は勢いよく美春のスカートをめくった。
「このバカ!」バシッ!
美春が顔を真っ赤にして拳を振るった。
「いでっ! グーで殴るか!? 普通……」
「最低! 変態!」
「いや〜いい音したなぁ、井原。また威力があがったんじゃないか?」
教室に大人の声が入って来た。
「先生! 今、弓場くんが……」
「孝太郎〜どうせスカートめくるなら、保険の伊藤先生のやってくれないか? 俺がやったらマズイからな」
このふざけた発言をした教師が、孝太郎たちの担任・有田である。




