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第3章・決起


有田 衛 (ありた まもる)

27歳・小学校教諭

元々は高校の教諭だったが、「性に合う」の理由から転勤。タバコは一時控えていたが、最近また吸い始めた。

 翌日。相変わらず元気のないまま、孝太郎は登校していた。


「弓場君、おはよう」


「あー……おはよ……美春」


「テンション低いわね〜。大丈夫?」


 昨日の剣幕はどこへやら。日が経つとあっという間に忘れ去られるのが子供のケンカである。


「いつまで落ち込んでるのよ。未練がましい」


 美春も、普段は親切な女の子である。


「うっせぇなぁ……」


「なによそれ。せっかく心配してあげてるのに」


「お前なんかに心配されたくない……」


「……っこのっ!」


 ……すぐに再発するのも、子供のケンカである。


「井原さん、孝太郎、おはよう」


 才輝がタイミングよく現れる。


「あ、神代君、おはよう」


「おはよ……才輝……」


「神代君、コイツどうにかならない?」


 そう言って美春は孝太郎の頭を小突く。


「無理もないさ。結局昨日もグラウンドが使えなかったしな」


「あの中学生達さえいなけりゃ……ホームランカッ飛ばして少しはストレス発散できるのに……」


「フン。ブツブツ言ってないで、ガツンとやっつけちゃえばいいのよ。男らしく」


 美春が拳を振り上げながら言う。


「そりゃお前みたいに異常な怪力がありゃあそうしてるけどさぁ……」


「だれが異常な怪力よ!」


「うっせぇぇ! ああぁもうとびてぇぇぇぇぇぇっ!」


 キレた。


「……うるさい……」


「ちくしょう! いいよ、やってやるよ! 今日、中学生追い払ってやる!」


 

「ああー、それじゃあ給食を食べる前にひとつ言っておきたいことがある」


 4時間目の授業が終わり、給食の時間に有田が教壇に立つ。


「最近、男子の素行が悪いっつー意見が多いので、今日から男子にはあるスローガンを掲げてもらう」


「スローガン……?」


「ズバリ、『大人になるな、紳士になれ』だ! どうだ、なかなか渋いだろう」


「意味不明です」


 また何かふざけたことをやらかすつもりだ。


「と・に・か・く。いいかぁ? 男子。まず挨拶する時はシルクハットを取って『ごきげんよう』」


「シルクハットなんてもってませーん」


「常に洗いざらしのハンカチーフを持ち歩け」


「ハンカ……え? 何?」


「そしてテーブルマナーは完璧に」


「先生。とりあえずお手本見せてください」


「……男ならワイルドに喰え!」


 どっちだ。イメージだけで紳士を語るな。


「すみません。結局何がしたいのかよくわからないんですけど」


「おう、そうか。ただの遊びだから本気で考えるな」


 最初からだれも本気にしていないが。


「まぁ、いいや。そんじゃいただきまーす」


「いただきまーす」


 ……このクラスはいつもこんな感じだ。


「……先生」


「ん? どーした孝太郎」


 孝太郎が有田の隣に立つ。いつになく真剣な、思いつめた表情だ。


「オレ、今日中学生たちやっつける」


「そうか、じゃあフェンシングで決闘を申し込め。あるいはボクシングだ」


 パンをかじりながら答える。


「マジメに聞いてよ!」


「マジメだっつーの。いいかぁ? まだガキンチョのお前らが中学生とまともにケンカしたって勝てるわけねーだろーが(中学生もまだガキだけど)。ちゃんとしたスポーツだったら、少しは勝ち目があるかもしれねぇだろ。少しは」


 そこを繰り返すな。


「……なんでフェンシングなの?」


「英国紳士っぽいだろ。なんとなく」


「……もういいよ!」


 孝太郎は自分の席に戻って行く。


「……熱いねぇ……。まったくガキは熱血で……って熱っ! 熱い、このスープ、メチャクチャ熱いぞ!?」


 ガシャーン。


「あー、先生がスープこぼした!」


 この騒ぎに目もくれず、孝太郎は黙々と食べ続けた。

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