モテないよ。
洞窟の周りの地面がちらほらと見え始め、湖まで下ると雪の面積の方が少なくなってきた。
季節はすっかり春だ。
近日中に山を下りる決断をした。洞窟生活にも慣れて、マオと過ごすのも楽しくなっていたのだが、死ぬまでここに引きこもっているわけにもいかない。
『そんなに急がなくてもいいのに。あと100年くらいここにいたら?』
人間、そんなに長く生きられないんです。
ケイは困った顔をしつつも、友人に引き留めてもらった事を嬉しく思っていた。
-----
さて、山を下りるにあたって、ぜひとも持っていきたいのが財宝部屋のお宝。
売れば一生贅沢できるかもしれない。
「マオさん、マオさん、マジックバッグ的な物って無い?」
『マジックバッグって何だい?』
「見た目以上に大量に物が入る鞄。四次元ポケットでも可」
『キミのいた世界にはそんな便利な物があるのかい?』
「いや、無いけど。」
『無いのかよ。こっちにも無いよ』
え・・・、マジックバッグ、無いの?
所蔵の書物を読んだり、マオとの会話の中で判明した事がある。この世界はいわゆる異世界ファンタジーの世界に酷似しているようなのだが、ファンタジー世界にあって当然の物が無かったりする。
今のマジックバッグ然り。
他に痛いところだとポーションが無いらしい。回復魔法はあるにはあるが、使える者が非常に少なく、効果も低いとの事。切り傷くらいならすぐに治せる世界かと思っていたら甘い考えだったようだ。
マジックバッグが無いとなると、山のような財宝を持ち運ぶ手段がない。
人里に辿り着くまでの日数が分からない以上、水と食料は持てるだけ持っていきたい。
動植物図鑑は絶対に持っていく。重くてかさばるが、洞窟生活で大変お世話になった心のバイブルなのだ。
あれもこれもとリュックに詰め込んでいたら、宝石類なんて持っていく余裕が無くなってしまった。
まあよく考えてみれば、ザコが金銀財宝抱えて歩いていたらカモネギでしかない。盗賊に襲われて命ごと奪われるのがオチだ。
高名そうな長剣も持っていこうかと思ったが、剣なんて振った事はないし、これもトラブルの元にしかならなそうだったのでやめた。
なるべく高価そうな宝石と金貨をいくつか、荷物の隙間にねじ込む程度に留めた。どのくらいの価値になるのかは分からないが、当面の生活資金には十分だろう。
お宝売っぱらっての左団扇生活は頓挫したが、金銭面で困ったら戻ってくれば何とかなるという心の余裕はできた。
実家が金持ちだと安心感が違う。
『下山のルートだけど、山の北側に深い渓谷があっただろう。あの渓谷はお城がある町のすぐそばまで繋がってるよ。迷わないし、お城行くなら最短ルートだね』
「渓谷にそって歩いていけばいいのか。分かりやすくていいね」
『ただし、この山から冷たい強風が吹き下ろしているから、渓谷内は常に暴風だし、岩も脆くなっていて簡単に崩れる。ヒトどころか獣ですら近づかない』
「ダメじゃん」
『あとは南側を下っていくしかないよ。森を突っ切る事になる。道しるべになるようなものはないけど、南に歩き続ければ小さな街道にぶつかるはず。その街道を西に行ったところに、たしかヒトの町があったよ』
「ルートが大雑把すぎて不安しかないけど、南に行ってみるよ。どれくらいで街道に出られるか分かる?」
『ヒトの移動速度がさっぱり分からないから見当もつかない』
そりゃそうか。マオさん飛べるみたいだし、鳥に駅まで徒歩何分か聞いたって絶対わかんないよね。
『そうだケイ、山を下りて人里に住むにあたって、1つ重要な事を伝えていなかった。キミにとって、とても悲しいお知らせだから、引き返すなら今だよ』
「引き返すって何さ。悲しいお知らせは元の世界に戻れない事だけで十分なんだけど」
『以前話したと思うけど、この世界のあらゆる生物は魔力を持っていて、基本的に魔力量が多い個体ほど強いんだ』
「ああ」
『魔力量は強さのバロメーターになるから、生物は魔力量をアピールするよう進化してきた。相手の魔力を感じ取る感覚も進化した。相手の強さが分かれば無駄な戦いを避けられるからね』
地球の生物も、闘う前に体の大きさや力の強さをアピールして勝敗を決めるものが多いから、その理屈はよくわかる。
『進化の上で、強い個体ほどモテるのは自然の摂理。この世界ではヒトは元より獣からミジンコに至るまで、魔力量の多い個体ほどモテる』
ミジンコいるのか。
『つまり、魔力量が皆無のキミは、この世界では絶望的にモテない』
「モテないの!?」
『モテない。』
ウソでしょ異世界でモテないヤツって聞いたことないよ!?
「馬車を襲っていた盗賊をやっつけてお姫様に惚れられたりは!?」
『ないね。そもそも王族の馬車を襲う盗賊なんていないよ。リスク高すぎるだろう』
「魔物に襲われていた女騎士を助けて惚れられたりは!?」
『ないね。そもそもキミより弱い騎士なんていないよ。職業選択完全に間違ってる』
「無条件にフェンリルに懐かれたりは!?」
『ないね。フェンリルにメリット無いでしょ』
「・・・ガッデム!!」
『なんか、ごめんね。』




