食料調達
バリアという防御手段を手に入れたケイは、さっそく食料調達の為に外へ出た。
小脇には、無駄に豪華なハードカバーの動植物図鑑。マオ所蔵の本の中から見つけたものだ。
この本、絵が繊細でとても見やすいのだが、重くてかさばるのが難点だった。フィールドワークには致命的に向いていなかった。
当然、文字は読めなかったが、「有毒」「可食」の2単語だけは教えてもらった。今日のところはそれで十分だろう。
道中、バリアを張ったまま移動してみたのだが、思わぬ問題が発覚した。
まず、外の音が聞こえにくい。慣れないフィールドを歩いている時に音が聞こえないというのは非常に不安だった。落石や動物の気配に気付くのも遅れてしまうだろう。
そして、風の抵抗をもろに受ける。足場の悪い斜面で強風でも吹けば簡単に滑落してしまうだろう。
さらに致命的だったのは、このバリア、曇るのだ。しばらく歩いて中の温度が上がってくると、結露で真っ白になり、何も見えなくなってしまった。
結果、バリアの常時展開は諦めて、危険が迫った際に展開する事にした。肉食獣の奇襲でも受けたらひとたまりもないだろうが、バリアを張ったまま歩く方がよほど危険を感じた。
雪に覆われた洞窟の周りには、ほとんど植物が生えていなかった。
標高が下れば何かあるかもと、山を下ってみると小さな湖があった。流入する川が見当たらないので、雪解け水が溜まった湖だろう。
不思議な事に、この寒さにも関わらず大半は凍結していなかった。微かに硫黄のような臭いがしたので、どこかに温泉が湧き出ていて水温を上げているのかもしれない。
湖畔に沿って歩いていると、緑色の草が群生している場所を見つけた。この辺りだけ雪が無いのは、地熱で溶けているからだろう。
こごみのような植物を見つけ、図鑑で調べてみると「可食」とあったので、いくつか摘み取った。
この群生地には、こんな時期にも関わらず、綺麗な花がぽつぽつと咲いていた。
花の色は半透明で、まるで雪の結晶のような芸術的な花だった。日本でこんな花は見た事も聞いた事も無く、ここが別世界である事を実感した。
そういえばニリンソウって食えたなと思い出し、この花も食べられないかと図鑑で調べてみたが、残念ながらこの花は載っていなかった。
ふいに湖の中ほどで魚が跳ねた。
(魚がいるのか!)
この日、一番の発見だった。魚が捕れれば食生活が劇的に賑やかになるだろう。
釣り竿でも自作してみようかと考えてた最中、すごいアイデアを思いついた。
(バリア張ったまま潜れるんじゃないか?)
バリアが空気を通さないなら、空気を確保したまま湖の中を安全に探索できるはずだ。
(天才か!)
自分の才能が怖い。
早速バリアを展開し、まだ見ぬ湖底の世界に期待を膨らませながら、勢いよく湖へと飛び込んだ。
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(うん、そりゃこうなるよねー・・・。知ってた)
知ってたらこんな間抜けな事にはなっていない。
現在、ケイはバリアに包まれたまま、湖面の真ん中をプカプカ漂流中だ。
当然のことだが、人を包み込むほどの空気を伴って水中に沈むことなど不可能だった。そんなことができたら、世の中にある船は全部沈んでしまう。
「浮力ってすごいなぁ・・・」
遠い目をして呟く。
バリアを解除して泳いで戻る事はできそうだったが、何が潜んでいるかも分からない異世界の湖となると話は別で、結局、風に吹かれて対岸に辿り着くまで小一時間、虚無な時間を過ごすこととなった。
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自分の間抜けさにぐんにょりしながら洞窟に戻ってくると、入り口の脇に巨大なヤギのような生き物の死骸が転がっていた。
『やぁ、お帰り』
マオが入り口でずっと待っていたようだ。顔が真っ黒なので表情は無いのだが、ドヤ顔をしているのは間違いない。
『こんなものでいいかな?』
「ありがとう。すごく助かるよ。僕と違ってマオさんは有能っすね」
『まあね!』
当然、血抜きなんてしてないよね・・・。もう心臓止まってるし、今から血抜きするは無理だろうなぁ。




