魔石マニア
「話を進めましょうか」
ケイが静かに言った。
「すまない、取り乱した」
「取り乱しました」
クリスティナとミルフィがタグとブローチをそれぞれ身に着け直した。
クリスティナが軽く咳ばらいをした後、仕切り直す。
「まず確認だ。シスターアリアが討伐されたという情報が入ったのだが、その討伐者がノエルという事で間違いないか?」
「ちょっと違いますね。討伐されたのは確かですけど、討伐者はケイさんです。私ではありません」
「ケイが倒したのか!?」
クリスティナが驚きの声を上げた。
「え゛・・・、その魔力量でシスターアリアに挑んだんですか!? 名前だけじゃなく、頭もおかしいですよ!?」
この聖女、ちょいちょい失礼だよね。
「失礼ですが、冒険者ランクは?」
いや、今のに比べたら全然失礼ではないよ。
「冒険者ではなくポーターです」
「ポーター? ポーターがシスターアリアを倒したというのはさすがに信じられませんね。そうだ、魔石は回収できたんですか?」
「できましたよ」
ケイはリュックから濃紫色の大きな魔石を取り出した。
「これがシスターアリアの魔石です。他にも鎌とティアラを・・・」
「あなた! 今、リュックから直接出しましたよね!? リュック直入れとかアホですか! せめて布巻けよ、お願いだから! 傷ついたらどうするんですか!」
ミルフィが突然、人が変わったように激怒した。
えぇ・・・。
「あの・・・さ、触ってもいいですか?」
今度は、ずいっと体を乗り出して媚びるような声で聞いてきた。
情緒不安定なの?
「・・・いいですけど」
ミルフィは震える両手で魔石を持ち、うっとりと眺めている。
あ、頬擦りを始めた。
「あー、すまんな。ミルフィは重度の魔石マニアでな。周りが見えなくなる」
「・・・みたいですね」
「いくらですか」
「え?」
「これ、いくらなら譲ってくれますか!」
正直、重いし、持て余していたので譲ってもいいのだけど、いくらで売ればいいものか。
ノエルを見る。
「ケイさんのものですから、好きにしてください」
なぜかノエルが顔を覆って下を向いてしまった。
「(きゃー! 言っちゃいました! 言っちゃいました!)」
この子もどっかおかしいよね、時々。
魔石の価格については、ギルドの鑑定士から、最低でも金貨200枚、オークションにかければ1000枚を超える可能性すらあると言われた。
「金貨50枚でどうですか!」
「いやシスターアリアの魔石なら最低でも200だろう。諦めろ」
さすティナ、目利きばっちりです。
ミルフィは魔石をペロっと舐めた。
「あ、唾つけちゃいました」
「リアルに唾をつけるな!」
クリスティナがミルフィの後頭部をはたいた。
「お願いします! 私財だと50枚が限界なんです。国庫に手を付けると教皇がうるさいんです!」
うるさいで済ますなよ教皇、横領罪だよねそれ・・・。
「おっぱい! おっぱいも付けますから!」
「お前・・・仮にも聖女だろ・・・」
ティナがドン引きしている。
「ダメですからね。」
ノエルが微笑みながら鎌をケイの首にかける。
その鎌、切れないけど見た目が怖いんでホントやめてください。
魔石については実際持て余しているわけだし、オークションなんかに出して悪趣味な金持ちの手に渡るよりも、本当に欲しい人の手に渡った方がいいだろう。
「50枚でいいですよ。おっぱいは無しで。命が惜しいので」
ケイは苦笑しながら言った。
「!! ありがとうございます! あなたがメシアでしたか!」
ミルフィはケイに正面から抱き着くと、ケイの頭を胸に抱え込んだ。
うわ、修道服で体のラインが見えなかったけど、この子、すごい着痩せするタイプだ。
「だめです! 無しっていいましたよね!!」
ノエルがミルフィを引っ張って全力で引きはがしにかかった。
「話が全っ然進まんな・・・」
クリスティが疲れたように呟いた。
「興奮してしまい、申し訳ありませんでした。話を戻します。ポーターのケイさんが倒したという事は、シスターアリアは神聖魔法で倒したわけではないんですね」
「そうですね。結論だけいうと、エネルギーを枯渇させたというか、餓死させた感じですね」
「が、餓死? シスターアリアって餓死するんですか!? でも、それだと話が変わってきちゃいますね・・・。討伐者が神聖魔法使いという情報だったので、てっきり神聖魔法で倒したのかと」
「神聖魔法じゃないとマズイんですか?」
「私の国では神聖魔法が信仰の対象なので、神聖魔法でシスターアリアを倒せるとなると箔が付くんですよ。それに私も神聖魔法はちょっとしたものなので、私でも倒せるなら外交にも有利ですし、ふっかけて外貨を稼げるなぁと」
いろいろぶっちゃけたぞ、この人。
「残念ながら、神聖魔法のしの字も使ってません」
「がーん」
がーんって口に出して言う人、初めて見た。
「クリスティナ様はミルフィさんの護衛でついてきたんですか?」
「いや、護衛はついでだ。私は、シスターアリア討伐者に遺跡調査の同行を頼みに来たんだ」
仲良さそうだから護衛してきたのだと思っていたけど、別件があったようだ。
「王都の近くにある遺跡で異常な魔力が発生していてな。調査に向かったAランクパーティー2組が帰ってきていないんだ。魔素の濃さからシスターアリアの可能性が疑われている。アラタ村での発生と時期が重なるのが気がかりだが、そもそもシスターアリアがユニークモンスターなのか種族なのかすら分かってないからな」
うぇ、アレっていっぱいいるかもしれないのか・・・。
「ケイ、もし、もう一度シスターアリアを倒せと言われたらできるか?」
「うーん、準備さえしっかりしていけば、いけるかな・・・」
「何が必要だ? 何でも揃えるぞ。武器・防具も最高級品を用意する」
「武器も防具もいらない。必要なのは4日分の食料。それから水」
「防具すらいらないってお前・・・、本当は何と戦ったんだ?」
「シスターアリアを素手ですか。クリスよりぶっ飛んでる人を初めて見ました」
2人して白い目で見てくるけど、実際、武器と防具より、過ごしやすい部屋着と暇つぶしの本でもあった方が助かるんです。
「一緒に来てもらえるか?」
「もちろん。ティナの頼みなら断れないよ」
「もちろん私も行きますよ! 3年前の借りを返してやります!」
ミルフィも行く気満々だった。
「3年前になんかあったんですか?」
「うちの国にもシスターアリアが出現しまして、国の威信をかけて1000人単位の大規模神聖魔法を打ち込んでやったんです。そしたら、全・部・吸・収しやがったんですっ! んで望遠鏡で確認したら高笑いしてやがったんですよ!」
ギリギリと歯ぎしりするミルフィ。
そういえば、こっちでも高笑いしてたな・・・アリアさん結構煽るよね。
「お前、外遊中だろう? 何かあったらどうするつもりだ?」
「影武者連れてきてるので大丈夫です。何かあっても聖女なんて代替わりすればいいだけですし」
自由すぎるでしょこの聖女。
話は終わったとばかりにクリスティナがソファーから腰を上げた。
「必要な物は王都で揃えよう。ケイは馬には乗れるか?」
「乗れない」
「それなら2頭立ての馬車を借りて一緒に帰ろう。途中で馬を変えて夜通し走れば1日半で着けるだろう。馬車の中でシスターアリア討伐について詳しく聞かせてくれ。いつ発てる?」
「荷物が少ないからすぐにでも。シスターアリアの討伐報酬待ちしてたんだけど、行方不明者がいるなら急がないとね」
「悪いな。往復の費用は報酬に上乗せしておく。悪いがすぐ準備してくれ」
「わかった」
こうして慌ただしくニパドラを後にする事となった。




