カンタナ遺跡
王都の北の山岳地帯にあるカンタナ遺跡。
ここを訪れる冒険者は多い。
この遺跡はモンスターの闊歩する迷宮、というわけではなく、絶景が拝める観光スポットである。
訪れる冒険者はもっぱら観光客の護衛である。
「ここがカンタナ遺跡だ。降りてくれ」
おっかなびっくり馬から降りる。
馬、高すぎて怖い。
馬に乗れないノエルとケイは、王都からは二人乗りさせてもらって、ここまで来ていた。
ノエルはミルフィの前に、ケイはクリスティナの後ろに。
密かに、美人と二人乗りできると喜んでたんだけど、実際走り出すと怖くてそれどころではなかった・・・。馬、不安定すぎです。
ミルフィの前に乗っていたノエルがスタッと軽快に馬から降りた。
ツカツカと寄って来て、不機嫌そうにケイを睨む。
「・・・随分と嬉しそうですね」
ノエルさん、今回は冤罪です。嬉しそうなのは馬から降りられたからです。
カンタナ遺跡は、岩山を人工的にくり抜いたような建造物で、入り口にはパルテノン神殿の柱のような彫刻が施されていた。
正直、遺跡よりも、遺跡前の広場から見える景色の方に圧倒された。
広場の先は断崖絶壁で、広大なパノラマが広がっていた。
北側には深く巨大な渓谷が広がり、南側は遠くに王都の城が見えた。
腰ほどの高さの転落防止用の柵が設置されてはいるが、背筋の凍る高さだ。
「すごい景色ですね」
「ああ、ここは普段は観光名所なんだ。あっちは悪魔の爪跡と呼ばれる渓谷、あっちには城が見える。今日は霞んでいて見えないが、条件が良ければパラレクス山も見えるぞ。ここの崖の高さは1000m近い。さすがの君でも落ちたら助からないからな」
「あははは・・・」
そういえば、ティナと初めて会ったの、崖から落ちた直後だったなぁ。
「この遺跡にモンスターなんて出た事はなかったんだがな」
クリスティナは遺跡を振り返ってため息をついた。
「凄まじい魔素濃度だな」
「僕だと中に入るのも難しそうです」
王都で合流したアベルとルーファスが遺跡の入り口を覗き込みながら呟いた。
まさか2人と1週間も経たずに再会するとは思わなかった。
今回の遺跡調査メンバーは、ティナ、ミルフィ、アベル、ルーファス、ノエル、ケイの6人。
アベルとルーファスは、アラタ村でシスターアリアと対峙した経験を買われて抜擢された。
大まかな作戦は、王都へ向かう馬車の中で、ケイの討伐談を参考に話し合って決めた。
遺跡へはティナ、ミルフィ、ケイの3人で突入。
シスターアリアを発見したら、まずクリスティナがシスターアリアの鎌を弾く。
物理攻撃の手段が無くなったところで、ケイがバリアで隔離する。
隔離に成功したら、後方支援のメンバーと合流。みんなで適当な魔獣を生け捕りにしてきて、シスターアリアの生贄に捧げ、無駄な魔力を使わせ続ける。といった具合だ。
ミルフィが突入班に入っている理由は、
「ケイさんがバリアに閉じ込めたら、近くでシスターアリア見れるんですよね! 絶対突入班やります! 何もできないアリアを煽り散らかしてやります!」
と、わがままを言ったからである。
「この遺跡の中って、どのくらいの広さなの?」
「大して広くはないぞ。迷宮ではなく神殿のような感じだな。部屋は20くらいしかない。ひと部屋ひと部屋は広いがな」
「あ、そうなんだ。てっきり何階層かあるのかと思ってた。それならすぐ見つかりそうだね」
「だからこその少数精鋭だ。こんな狭い遺跡の中でA級の2パーティー9名が行方不明なんだ。油断するなよ」
「クリスがいれば大丈夫でしょ。ヒーラーも控えてますし」
「それを油断と言うんだ。アベル、ルーファス、ノエルの3人は入り口で待機していてくれ。何かあったら知らせる。ここの遺跡なら大声で叫べば聞こえるだろう」
突入班の3人が装備を整えて、遺跡の前に立った。
クリスティナはいつもの軽鎧に長剣。
ケイは食料満載の登山用リュックに木の棒(二代目)。
ミルフィは動きやすいように改良された修道服。両手に1本ずつトゲ付きのメイスを持っていた。
「ミルフィさん・・・聖女というより蛮族っぽいですね」
「ケイさんのほうが余程ふざけた格好してますよ(にっこり)」
「まともなのは私だけか・・・」
3人は入り口の門をくぐった。
中に入ると、天井の高い広い廊下が伸びていて、左右に10個ずつ計20個、大きなアーチ型の入り口が規則的に並んでいた。
廊下の一番奥にもアーチ形の入り口が1つあった。
「まぁ、一番奥だろうな」
「ですよねぇ」
古往今来、ボスは一番奥と相場は決まっている。
「挟撃されると面倒だから、一応、手前から全部調べていこう」
一番手前の部屋に入ると中は体育館ほどもある空間で、何もなくガランとしていた。
壁も天井も白っぽい石灰岩で、標高が高い事もあって部屋の中はひんやりしていた。
一応、壁に抜け道がないか、1周回って調べたが、特に何もなかった。
「そういえば、ミルフィさんって、魔素濃くても平気なんですか? アベルさんは苦しそうにしてましたけど」
「ちょっと息苦しいくらいですね。私、魔力量多いので魔素圧耐性も高いんですよ。意外に思われるかもしれませんが、聖女になる前はA級冒険者だったんですよ」
トゲトゲのメイスを2本、軽々と担いでいる時点で、意外でもなんでもないです。
「私より、ケイさんの方がおかしいですよ。馬車で聞いた時は半信半疑でしたけど、ホントに平気なんですねぇ。その魔力量でこの魔素濃度の中を平気な顔して歩いているの、異様ですよ。不気味ですらあります」
「そ、そこまでですか・・・」
目立たないよう、魔素の濃い場所では苦しそうなフリとかした方がいいのだろうか。でも魔素が濃いか薄いかすら分からないので、フリもしようがない。
他の部屋も調べていくが、どこも同じような造りで何も見つからなかった。
ケイは何となく違和感を感じた。
アラタ村でシスターアリアを4日間も間近で観察した経験からすると、何か変だ。
「ティナ、シスターアリアって、魔力に貪欲というか、人だろうがモンスターだろうがガツガツ喰いたくてしょうがないって感じだったんだよ。こんな何もいないところに居座ってるとは思えないんだけど」
「ふむ。シスターアリアの可能性が高いとされた理由は、A級パーティーが2組も連絡すら無く消えた事と、この異常な魔素濃度だけだからな。別の何かか?」
「でも、これだけの魔素集めるモンスターって・・・ドラゴンが入れるような場所でもありませんし」
ミルフィが顎に指を当てながら言った。
一番奥の部屋を除いた全20室を調べ終えた。
「いよいよ本命だな。シスターアリアだといいんだが」
「そんなセリフを聞く日が来るとは思いませんでした」
3人は廊下から中を覗くが、最後の部屋は一段高くなっており、奥が見通せなかった。見えるのは、入り口から続く6段の石造り階段と、部屋の天井。
天井には天窓のような穴がいくつか開いていて、そこから光が差し込んでいた。
「仕方ない、入るか」
クリスティナを先頭に、ミルフィ、ケイと続く。
クリスティナが階段から顔を半分出して部屋の中を覗く。
「何かいます?」
ミルフィもクリスティナの後ろから顔を出した。
「奥に石の棺見たいなのがあるな。他には何もない。調べるしかないな」
3人は部屋の奥へと歩を進めた。




