S級聖女ケイ
「ご足労ありがとうございます。応接室の方へご案内します」
呼び出しを受けてノエルと共にギルドを訪れると、ニコニコ顔のシディアさんが出迎えてくれた。
「今日はえらくご機嫌ですね。応接室って言うと、あのギルド長さんと面会するんですか?」
「いえいえ、ボロンは現在ガステリア王国のギルド本部に呼び出されておりまして、多分、二度と帰ってこないと思います♪」
「それでご機嫌なんですか」
「それだけじゃないですよ。今応接室にすごい方が2名もケイさんをお待ちしておりまして、ケイさんの腰を抜かす姿が楽しみで楽しみで」
「・・・帰っていいっすか?」
「ダメです♪ 二名様、ご案内します」
「失礼いたいします」
扉をノックして扉を開けたシディアさんに促され、ノエルを先頭に応接室に入る。
応接室のソファに座っていたのは、修道服を着たおとなしそうな女性と・・・
「あ、ティナ!? ・・・・あ。」
思わず声が出てしまった。そうだ、今の姿、ティナには分からないんだった。
クリスティナは馴れ馴れしく声をかけた男を睨んだ。
シディアを含めた全員がギョッとした顔でケイを見ている。
「貴殿にティナ呼びされる覚えは・・・ん? もしや、ケイの身内の方か?」
親戚のおじさんかなんかと勘違いされている。
「い、いえ・・・ケイです。お久しぶりです、クリスティナさん」
「? いやいや、何を言っている? ケイとは歳が違うだろう。それに骨折もしていないし。ああ、ケイと同名の親戚の方という事かな。魔力が無いのは遺伝だったか」
そういえば骨折の件もあったなぁ。
「あの、ケイ本人です。わけあって、ちょっと年取りました。あははは・・・」
「・・・・・・」
これ、どう言えば信じてもらえるんだろう。
「・・・フェリカ村で会った少年の名前は?」
「パルクですね」
クリスティナは勢いよくソファから立ち上がった。
「本当にあのケイなのか!? 別れてからひと月くらいしか経ってないだろう・・・。何があったらそうなるんだ?」
あ、ノエルが落ち込んだ顔をしている。好きでやった事だから、ノエルが責任感じる必要なんて一切ないんだけどなぁ。
ケイはノエルのネコ耳の横を優しく撫でた。
「その話は追々・・・。クリスティナさんはどうしてここに?」
「ティナで構わないぞ。さっきは別人だと思ったからな。君がここに来たという事はシスターアリア討伐に絡んでいるのか? まぁ長くなりそうだから座って話そう」
ティナに促されて、ノエルと一緒に向かいの席に座った。
前に座っている修道服を着た栗毛の美人がすごい睨んでくる。
え、なんで? 初対面・・・ですよね?
「(ティナって何、ティナって・・・。私がクリスって呼び捨てにするのに何年かかったと・・・。何なの、この冴えないおっさん!)」
なんかぶつぶつ言ってて怖い。
横からノエルが袖を引っ張ってきた。
「(ケイさん、村まで案内してもらったとは聞いてましたけど、ちょっと気安すぎませんか?)」
ジト目で睨んでくる。
「すまないが二人のお茶も頼めるかな」
ケイが2人から集中砲火を浴びているのには気付かず、クリスティナはシディアにお茶を頼んだ。
「あ、はい! 失礼しました。すぐに入れてきます。(あのクリスティナ様をティナ呼びとか、こっちが腰抜かしたわ!)」
シディアは、弾かれたように部屋を出て行った。
「私は神聖ナユタ皇国で聖女を勤めさせてもらっています、ミルフィと申します。以後お見知りおきを」
栗毛の女性が優しく微笑んだ。
まさに聖女の微笑みだった。
「ミルフィとは古い仲でな。会う頻度こそ多くはないのだが、馬が合うので仲良くささせてもらっている。見た目通りの性格じゃないから気を付けろ」
「ふふふ、何のことやら」
うん、なんだろう。見た目は清楚なのに毒がありそうな気がする、ミルフィさん。
「ご丁寧にどうも。ケイと言います」
「ケイさんですか。素敵な名前ですね。犬みたいで」
「あはは、よく言われます」
やっぱり毒あるよね、この人。
「・・・・」
「・・・・」
クリスティナとノエルは気まずげに目を逸らした。
そういえば、ここにいる全員から犬認定されている。
そんな犬っぽいのか、こっちの世界だと。
「ノエルです。クリスティナ様には以前、吸血鬼の呪いに関わる依頼でお世話になりました。その節はありがとうございました」
ノエルが深々と頭を下げた。
「ん? ・・・ノエルってノエル・フリューゲル嬢か! いや、見違えたぞ。呪いは解決できたのだな。よかった。あの時は何の力になれず、すまなかった」
「いいえ、クリスティナ様には本当に優しくしてもらって感謝しています」
「そういえば、ノエルは回復魔法が使えたな。それでケイの腕が治っていたのか」
「そういうこと」
右手を曲げ伸ばしして完治をアピールする。
「回復魔法が使えるなんて、私よりずっと聖女っぽいですね。その死神みたいな鎌もあざとくいて素敵です。ギャップ萌えします」
え、今あざといって言わなかった?
きっと空耳だなという事にして、聖女と言えば回復職のイメージがあったので率直に聞いてみた。
「聖女って回復魔法使えないんですか?」
「使えませんよ。聖女なんてただの肩書ですし。この服もコスプレです、コスプレ」
「猫かぶるの5分も保たんのか・・・」
クリスティナが呆れたように呟いた。
「それで、ケイはなんで見た目が変わってるんだ?」
当然の疑問だよね。
ノエルが気に病むからむやみに話したくはないのだけど、以前の自分を知っているクリスティナには話さないわけにはいかないだろう。
ノエルに視線を送る。
コクリと頷いてくれた。
ティナと別れてから寿命を分けるに至ったまでを、ざっくり話す事にした。
「 ・・・——という訳で、半ば騙す感じでノエルに寿命の半分を渡したんです」
「・・・寿命を・・・半分?」
「・・・・・・半分って」
あ、さすがに呆れられてますかね・・・
「うぅ・・・君、本当に良い奴だな・・・私なんて、何も出来なかった・・・いや、何もしなかったのに・・・うぅぅ・・・」
「・・・うわぁぁぁぁ、冴えないおっさんとか思ってごめんなさい! あなたの方が私よりずっと聖女にふさわしいですぅぅぅ」
2人してガチ泣き!? あと冴えないおっさんて思われてた!
ノエルがクリスティナにおずおずとハンカチを差し出した。
「あ、あの、どうぞ」
「うぅ・・・ありがとう、普段ハンカチなんて使う機会がないので助かる」
「うぐっ、ぐすっ、私はウソ泣き用にハンカチは常備しているのですが、ぐすっ、ガチで使う機会があるとは思いませんでした」
え、いまウソ泣き用って言ったよ!?
クリスティナが金色の冒険者タグを外してケイの前に差し出した。
「このタグは君にこそふさわしい。S級だなんて驕っていた自分が恥ずかしい」
「こちらもどうぞ。聖女の証のブローチです。あなたこそ聖女にふさわしい」
ミルフィもブローチを外して差し出した。
いやいやいやいや、これ人に渡しちゃダメなやつでしょ。タグに『クリスティナ』って名前彫ってあるし! あ、ブローチにも『ミルフィ』って入ってる!
「お待たせしました。お茶をお持ち・・・え・・・」
この後、ニパドラギルド内ではケイがS級のクリスティナと聖女ミルフィをガチ泣きさせた上、S級の金タグと聖女のブローチを献上させていたと噂が広がり、ケイは畏怖の対象となった。




