アリアの置き土産
朝食を終えて部屋に戻ろうとしたところで、宿の女将さんに声をかけられた。
「アベルさんとルーファスさんという方がお訪ねになってきてますよ」
2人は今日中に王都へ発たなければならないので、シスターアリアの討伐について話を聞きたいとの事だった。
カリーナさんにも説明しなければならないので、一緒にギルドへ行ってそこで話す事になった。
ルーファスさんのキラキラした眼差しもこれまでかな。話をすれば変な誤解も解けるでしょ。
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ギルドに到着すると、応接室に通されそうになったが、ノエルが嫌な顔をしたので、酒場の隅の席で話す事になった。
カリーナさんにはセキュリティに問題があると難色を示されたが、聞かれて困るような事もないし、こちらの方が気が楽だった。
「 ・・・——という感じです」
シスターアリアの討伐の経緯をざっくりと話す。
「「「「・・・・・・」」」」
全員絶句している。
それはそうだろう、剣の一振りもしていないのだ。
「・・・シスターアリアを閉じ込めて4日間も一緒にいたって事ですか?」
ルーファスが驚愕の表情で尋ねた。
「ですね」
あれ、失望されると思ったけど、むしろ目のキラキラが増したような・・・。
ルーファスはシスターアリアにのしかかられる体験をした。その絶望感、間近で感じた魔力の凄まじさは身に染みていた。アレと四日も狭い空間で一緒いるなど、正気の沙汰とは思えなかった。
「シスターアリアと4日間もキャッキャウフフして正気保てるのケイさんくらいですよ」
ノエルがジト目で言った。
な、なんかトゲありません? 独りにした事まだ怒ってます?
「そもそも、なぜケイには即死魔法が効かないんだ?」
アベルが疑問を口にした。
「体質としか。さっき説明した通り、シスターアリアの即死魔法って、相手の魔力を抜く魔法なんですよ。僕は魔力無いので、抜かれても平気みたいなんです。あれによく似た魔法を以前浴びた事がありまして、多分同じものなんじゃないかなと」
「そんな曖昧な憶測で僕を庇ったのか!?」
「いや、確信に近かったんです。あれなら大丈夫そうだなぁとウグッ!」
ノエルの肘が脇腹に刺さった。
「それは確信とは言いません」
「は・・・はい、すみません」
「ケイさん以外実行不可能ですね。魔力を完全に遮断し続けるバリアなんて誰にも張れませんし、張れたとしてもそんな高密度のバリアを4日間も維持するなんて不可能です。即死魔法を4日間浴び続けて平気なのもケイさんくらいですし」
ノエルが呆れ顔で言った。
カリーナが頭を抱えた。
「周知する意味がありません・・・」
「今までは討伐できる見込みすらなかったんだ。魔力を通さない檻に閉じ込め、即死魔法を使わせ続け、魔力を枯渇させる事ができれば討伐できると分かっただけでも前進だろう。まぁ、その手段は思いつかないがな」
「そうですね。要点だけまとめて、うまいこと処理しておきます」
「ご迷惑をおかけします」
カリーナさんには気苦労ばかりかけている気がするなぁ。頭が上がりません。
「話も聞けた事だし、我々は王都に発とうと思う。今回は助かった。ありがとう」
「あなたたちに救われた命です。この御恩はいつか必ず」
2人はそう言って席を立つと、ノエル、ケイと順に握手をしてギルドを後にした。
「そうだ、カリーナさん、シスターアリアが落とした鎌とティアラの鑑定ってお願いできますか?」
「! 鑑定させていただけるのでしたら、無料で引き受けますよ。初確認のアイテムは、データを取らせてもらうだけでも利益になりますので」
「それじゃ、お願いします」
ケイはシスターアリアの鎌とティアラを受付台に置いた。
「明日には鑑定結果が出ると思います。魔石の返却もその時ご一緒でいいですか?」
「はい、それでお願いします」
「それでは、魔素収斂の調査依頼は達成となっていますので、報酬がこちらになります。ノエルさんはこれで依頼5件達成になりますので、冒険者本登録となります。おめでとうございます」
ノエルは金貨の入った袋と鉄でできた冒険者タグを受け取った。
「あ、ありがとうございます」
しっぽがピンと立っている。可愛い。嬉しいと立つのかな?
「討伐ポイントがすごいことになってますので、あと護衛依頼を2件こなすだけでEランクになれますよ」
「・・・シスターアリアを倒したのはケイさんですし、実力に見合ったランクアップをしていきます」
「良い判断だと思います。討伐ポイント、ほんとにすごいことになってまして・・・、賢明なノエルさんで良かったです」
「えへへ」
うちの猫が謙虚で可愛い。娘が褒められるとこんな気持ちになるのかな。いやこっちで結婚できるかも怪しいんだけど。
「それから、シスターアリアの討伐報酬なのですが、ギルド本部との連絡・調整が必要でして、お渡しできるのが1週間後となってしまいます。申し訳ありません」
一週間後か・・・。ノエルが本登録できたらすぐに王都に出発する予定だったけど・・・。
どうする? とノエルを見る。
「1週間、のんびりしましょう。少し疲れました」
「そうしようか」
確かにここ数日は色々ありすぎて疲れた。依頼を受けずにのんびり過ごすのも悪くないだろう。
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「あの様子だと、すぐ旅立っちゃいそうだね」
シディアが寂しそうに呟いた。
「そうね、元々居着く感じではなかったけど」
私だって寂しい。
「それにしても、ノエルちゃんの討伐ポイントってば・・・あははは、本登録時に2万越えって前代未聞でしょ」
「前代未聞どころか、未来永劫、更新されないわよ」
ノエルさんの現在の討伐ポイント20210。ちなみにAランク昇格条件の1つが討伐ポイント20000だ。
「新人がキラスケだけでもすごいのに、最高ポイントの討伐不能レベル倒した上にソロボーナスまで付いちゃって・・・ひひひっ、確かに未来永劫残るわね、この記録。あはははは」
いや笑い事ではない。登録時の担当者名に私の名前が載っているのだ。
「あー、でもどっか行っちゃうのかー。寂しくなるわー」
シディアが机に突っ伏した。
「ほんとにね」
私も机に突っ伏したい気分だった。
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翌日、鎌とティアラの鑑定結果を聞きにギルドに顔を出した。
目の下に隈のできている鑑定担当の人から説明を受けた。徹夜続きだったりするのだろうか。
「鎌はSSSランク。最高ランクです。値段は付けられません。売るとしたらオークションになります。いくらになるか見当もつきません」
え・・・そんな高価なもの引きずっちゃったよ・・・
「魔法武器で、通常時はまったく切れませんが、魔力を通すと武器になります。自己修復あり。武器としての評価はA+です」
どおりで、僕が持ってても全然切れなかったわけだ。刃の部分を握っても切れなかったので、鞘にも入れずに持ち歩いていた。
「杖としての効果も高く、魔力伝導S+、魔力増幅S、S+は最高評価です」
「魔力伝導ってなんですか?」
「魔力の通りやすさですね。これが低いと、魔力の消費量が多くなってしまいます。例えば、伝導C、増幅Aの杖は、魔法の威力は上がりますが、魔力消費量が多くなります。伝導A以上だと、杖を使った方が消費量が少なくなります」
「なるほど」
杖としての方が優秀なのかな、この鎌。
「ノエル、使う?」
「え、いいんですか?」
良いも何も、魔力の無い僕では草刈りにすら使えない。
それに、体の小さなシスターアリアが使っていた武器なので、ノエルに丁度いいサイズなのだ。
「ど、どうでしょうか」
アリアの鎌を構えたノエルが緊張気味に聞いていた。
「おお、意外と似合ってる!」
銀髪、ネコミミ、魔法少女、キバ、に加えて死神の鎌。何役乗せる気だこの子。
「ティアラの方もSSSランク。SSSの中でも上澄みです。即死抵抗S、魔素圧耐性S+、精神攻撃無効、呪い無効。ちょっととんでもないですね」
「!!!」
受付台に置かれたティアラをひったくるように受け取ると、急いでノエルの頭に乗せた。
「な、なんですか?」
突然の行動に驚くノエル。
「呪い無効ってことは、寿命、減らないんじゃないか?」
「あ!!」
「どう? 減ってない感じする!?」
「わ、分からないです。普段も減ってる感じはしないので・・・」
効果を確かめるには長期的な経過観察が必要そうだった。
「で、でも、もしかしたらこれで寿命減らないかもしれないんですね。それなら、ずっとケイさんと同じ寿命のままってことですねっ! えへへ」
うん、その通りなんだけど、そんなことで満足しないでね。ノエルには呪いを解いて、寿命返してもらって、長生きしてもらわないと困るんだから。
「鎌、ティアラとも現時点ではユニークアイテムなので、所有者登録ができます。手数料金貨1枚と高額ですが、盗難・紛失があった場合、見つかれば無条件で所有者の手元に戻ります。登録者以外が所持していた場合は犯罪に問われる事になります。ただし、2つ目が見つかってユニークアイテムでなくなった時点で登録は解除となり、登録料は戻りません」
「ぜひお願いします。登録者は両方ノエルで」
「わかりました。シスターアリアの討伐報酬から引いておきますね」
思いがけず、ノエルの寿命が減り続ける問題が解決したかもしれない。
ありがとう、アリアさん。不気味なんて思ってごめん、あなたは天使だった!
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3日後。
2人の女性が馬に乗ってニパドラに到着した。
一人は軽鎧を身に着けた金髪の女性。
もう一人は修道服を着た栗毛の女性だった。
「ここがニパドラだ。シスターアリア討伐者はまだこの町にいるらしい」
「会うのが楽しみですね」
栗毛の女性が髪をかき上げながら言った。
「しかし、皇国の聖女様ともあろう方が護衛も連れず単独騎乗とは。相変わらず非常識だな。普通は馬車では?」
「馬車では速度が遅すぎます。護衛もあなたがいれば必要ないでしょう。それにあなたに常識云々言われたくありません。クリスティナ・エスクート様?」
「冗談でもその呼び方はやめてくれ。今はただのクリスティナだ」




