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見覚えのない宙(ソラ)の下で  作者: 旅行ねこ
第二章

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ボロン討伐

 目を覚ますと辺りはまだ薄暗かった。


 部屋に戻ると気絶するようにベッドに倒れ込み、そのまま寝入ってしまった。

 戻ってきたのは昼頃だったはず。今は日暮れ時なのか夜明け前なのか。


 お腹に重みと温かさ。

 毛布の不自然な膨らみに嫌な予感がしてめくりあげると、ノエルがベッドに潜り込んでいた。

「いやノエルさん、それはマズイでしょ・・・」


 ノエルの好意はひしひしと感じている。

 でもそれは、初恋に夢中になる女の子のような危うさを感じるのだ。

 命を分けてもらったという負い目だってあるだろう。


 ノエルには素敵な恋をして、幸せになってもらいたいのだ。

 それは異性に向ける感情ではなく、家族に向ける感情に近い。

 ノエルの柔らかそうな髪を撫でる。

 見た目だけじゃなく、思考もおっさんになっているのかもしれないな。


 日本人としての倫理観もあって、少なくともノエルが20歳になるまでは手を出すつもりはない。


 つもりはないのだが・・・


 脇腹に感じる柔らかな感触。


 保《も》つのかな・・・僕の理性・・・



-----


 いつの間にか二度寝してしまったようで、再び目を覚ますと朝日が窓から差し込んでいた。

 さっき起きた時は夜明け前だったようだ。


「おはようございますっ。ふふっ」


 ノエルは既に目を覚ましていたようで、毛布から顔を半分出して、嬉しそうに挨拶をしてきた。


「おはよう、ノエルさん。さすがに同衾はマズイです。」

「約束」

「?」

「なんでも1つ言う事を聞いてくれるって約束。しましたよね?」

「う・・・」

・・・こんなしょうもない事企んでいたのか。


「それに、3日間も私を独りにしましたよね?」


 ノエルがギュッとケイの服を握った。


「離れて寝ると安心できません・・・」


 ぐぅ・・・罪悪感が・・・しょうもないなんて思ってごめんなさい。


「なので、しばらくは一緒に寝ます。それが私のお願いです」

「・・・ほどほどにお願いします」



 長い睡眠でぼーっとした頭がすっきりしてくると、異常にお腹が減って何か食べたくなってきた。

 そういえば、丸3日間、干し肉2切れしか食べていなかった。



 朝一番で食堂へ。


 うまいうまいとスープとパンを頬張るケイを見て気を良くしたのか、女将さんはおかわりをたくさん持ってきてくれた。


「そうだ、今日、ギルドに顔を出してほしいってカリーナさんが言ってましたよ」

牛乳に浸したパンをちびちび食べながらノエルが言った。


「昨日ろくに説明しなかったからなぁ。そういえば、昨日あの後大丈夫だった? あのギルド長、そうとう傲慢そうだったけど」


「全然大丈夫じゃなかったですよ。私、何を聞かれても『知りません』としか答えませんでしたし」


 ノエルをキレさせるとか大したものだな、あのギルド長。



-----


~~ 前日:ニパドラギルド応接室 ~~


 胃が痛い。

 なぜうちのギルド長はこんなにバカなのだろうか。

 隣のハーブ村のギルド長も、王都のギルド長もあんなにできる人なのに。


 カリーナは給湯室でお茶を入れる前に、胃薬を口に放り込んで水で流し込んだ。



 応接室の扉をノックして入室する。

「失礼しま・・・す」


 上座にギルド長のボロンがドカッと座り、手前の席の後ろにノエル、アベル、ルーファスが立っていた。


 なんでお前が上座に座ってるんだよ、お前が座る前に着席促せよ、もうやだ帰りたい。


「あの、座ってください。ほんとごめんなさい」


 3人は私の困った様子を見て、素直に着席してくれた。

 ほんとありがとうございます。


 テーブルをお茶を置いて横に控える。


 ボロンの後ろにはいつも従えている用事棒が2人。腕を組んで仁王立ちしている。

 接待するのに威圧してどうするのバカなの?


「いやぁ、シスターアリアを倒したんだって? 世界初らしいじゃないか。いやぁ、素晴らしいね。私も鼻が高いよ」


 あごひげを撫でながら、ニヤニヤと語る。


 3人ともガン無視。それはそうでしょう、階段でのやり取りを見たら当然そうなる。

 ノエルさんに至ってはイカ耳でそっぽを向いている。


「おい、お前はもう下がっていいぞ」

しっしと追い払われる。


 はぁ、フォローするのも無理か。


 カリーナはゲンナリした顔で部屋を出た。


(ノエルさん、アベルさん、ルーファスさん、バカの相手をさせてごめんなさい)

カリーナは心の中で深く謝った。


 受付に戻るとシディアが心配そうに声をかけてくれた。

「お疲れ様。大丈夫だった?」

「全然大丈夫じゃないわよ。なんであんなのがギルド長なの・・・」

「ほんとそれ」

「ケイさんは帰ったの?」

 ノエルさんを待っているかと思ったが、姿が見えなかった。


「すぐ寝たいって帰ってったわ。4日間寝てないんだって」

「4日!? え、もしかして2人を逃がしてからずっと1人で戦ってたって事!? 魔素収斂の中心部で!?」

「そうみたい。しかも相手はシスターアリア。すごいよねぇ」

「そんな英雄を追い払ったのか、あのバカ」

「ほんとに」

「はぁ・・・」

カリーナは深いため息を吐いた。


 茶菓子でも持って様子を見に行くかとタイミングを計っていると、紫色の魔石の鑑定をおこなっていた鑑定士が早々に戻ってきた。

「鑑定不能。前例の無いものは同定のしようがない」

「お疲れ様」

「疲れるのはこれからだ。明日までに各種測定全部終わらせなきゃならん。徹夜は確定だな」

「それは本当にお疲れ様ね」

「なぁに、シスターアリアの魔石のベースデータを発表できるんだ。研究者冥利に尽きるね」

鑑定士が獰猛そうな笑みを浮かべながら、中指で眼鏡をクイッと押し上げた。


 研究者気質ですねぇ。なんでうちのギルドは優秀な人多いのにトップがアレなんだろう・・・。


ドカッドタンッ!


 応接室の方から大きな物音が聞こえた。


 シディアと目を合わせる。

「「はぁ・・・」」

 二人揃って大きなため息をついた。


 あのメンツに限って何かあるとは思えない。痛い目を見ているとしたらこっち側だ。


 シディアと二人で階段の方に向かうと、アベルさん、ルーファスさん、ノエルさんが不機嫌そうに下りてきた。


「ボロンが大変失礼をいたしました」

「失礼いたしました」

二人で頭を下げる。


「君たちが頭を下げる必要はない。でかいの二人、肩を脱臼している」

アベルはそれだけ言うと、ルーファスと共にギルドの出口へと向かった。


 後に続くノエルにカリーナが声をかける。

「あの、魔石の返却もありますので、明日ケイさんと一緒に顔を出してもらえると助かります」

「わかりました」

ノエルは視線も合わせずそれだけ言うとギルドを出て行った。


 ノエルさんキレさせるとか何言ったのよ、あのバカ。



 しばらくすると、真っ赤な顔をしたボロンが受付前にやってきた。

「なんて失礼な奴らだ! お前が埋めておけ!」

そう言うと、討伐詳細の用紙をバンッと受付台に叩きつけ、ドカドカと二階へと戻っていった。


 だから失礼なのはお前の方だ。


 討伐詳細の用紙にはほぼ何も書かれていなかった。

「はぁ、これどうすりゃいいのよ・・・」


 途方に暮れていると、シディアが横から用紙を引ったくり、何やら書き込み始めた。


『シスターアリア討伐確実!! 討伐方法:兵糧攻め? 備考:ニパドラギルド長のボロンが討伐者を罵倒。独断で追い出した為、討伐詳細は不明。なお、討伐者を激怒させた為、貴重な討伐方法は聞き出せない可能性大』


「いや、そんな報告書、ボロンが通すわけ・・・」


 シディアは報告書を折り曲げてくるくる丸めると、小さな筒に入れ、ギルド本部から預かっている魔鳩に括り付けて、窓から解き放った。


 得意顔でクルリと振り向いたシディアに、ギルド内から拍手喝采が浴びせられた。


 魔鳩は大型の伝書鳩で、遠距離通信手段として重宝されている鳥だ。数が少なく貴重なため、運用方法は厳格に定められており、間違っても受付嬢が独断で飛ばしていいものではない。


「あなたのそういとこ大好きだわ。もし問題になってクビになったら一緒に辞めてあげる」

「その時は、一緒にケーキ屋でも開こうか」


 拍手はいつまでも鳴りやまなかった。


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