ボロン討伐
目を覚ますと辺りはまだ薄暗かった。
部屋に戻ると気絶するようにベッドに倒れ込み、そのまま寝入ってしまった。
戻ってきたのは昼頃だったはず。今は日暮れ時なのか夜明け前なのか。
お腹に重みと温かさ。
毛布の不自然な膨らみに嫌な予感がしてめくりあげると、ノエルがベッドに潜り込んでいた。
「いやノエルさん、それはマズイでしょ・・・」
ノエルの好意はひしひしと感じている。
でもそれは、初恋に夢中になる女の子のような危うさを感じるのだ。
命を分けてもらったという負い目だってあるだろう。
ノエルには素敵な恋をして、幸せになってもらいたいのだ。
それは異性に向ける感情ではなく、家族に向ける感情に近い。
ノエルの柔らかそうな髪を撫でる。
見た目だけじゃなく、思考もおっさんになっているのかもしれないな。
日本人としての倫理観もあって、少なくともノエルが20歳になるまでは手を出すつもりはない。
つもりはないのだが・・・
脇腹に感じる柔らかな感触。
保つのかな・・・僕の理性・・・
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いつの間にか二度寝してしまったようで、再び目を覚ますと朝日が窓から差し込んでいた。
さっき起きた時は夜明け前だったようだ。
「おはようございますっ。ふふっ」
ノエルは既に目を覚ましていたようで、毛布から顔を半分出して、嬉しそうに挨拶をしてきた。
「おはよう、ノエルさん。さすがに同衾はマズイです。」
「約束」
「?」
「なんでも1つ言う事を聞いてくれるって約束。しましたよね?」
「う・・・」
・・・こんなしょうもない事企んでいたのか。
「それに、3日間も私を独りにしましたよね?」
ノエルがギュッとケイの服を握った。
「離れて寝ると安心できません・・・」
ぐぅ・・・罪悪感が・・・しょうもないなんて思ってごめんなさい。
「なので、しばらくは一緒に寝ます。それが私のお願いです」
「・・・ほどほどにお願いします」
長い睡眠でぼーっとした頭がすっきりしてくると、異常にお腹が減って何か食べたくなってきた。
そういえば、丸3日間、干し肉2切れしか食べていなかった。
朝一番で食堂へ。
うまいうまいとスープとパンを頬張るケイを見て気を良くしたのか、女将さんはおかわりをたくさん持ってきてくれた。
「そうだ、今日、ギルドに顔を出してほしいってカリーナさんが言ってましたよ」
牛乳に浸したパンをちびちび食べながらノエルが言った。
「昨日ろくに説明しなかったからなぁ。そういえば、昨日あの後大丈夫だった? あのギルド長、そうとう傲慢そうだったけど」
「全然大丈夫じゃなかったですよ。私、何を聞かれても『知りません』としか答えませんでしたし」
ノエルをキレさせるとか大したものだな、あのギルド長。
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~~ 前日:ニパドラギルド応接室 ~~
胃が痛い。
なぜうちのギルド長はこんなにバカなのだろうか。
隣のハーブ村のギルド長も、王都のギルド長もあんなにできる人なのに。
カリーナは給湯室でお茶を入れる前に、胃薬を口に放り込んで水で流し込んだ。
応接室の扉をノックして入室する。
「失礼しま・・・す」
上座にギルド長のボロンがドカッと座り、手前の席の後ろにノエル、アベル、ルーファスが立っていた。
なんでお前が上座に座ってるんだよ、お前が座る前に着席促せよ、もうやだ帰りたい。
「あの、座ってください。ほんとごめんなさい」
3人は私の困った様子を見て、素直に着席してくれた。
ほんとありがとうございます。
テーブルをお茶を置いて横に控える。
ボロンの後ろにはいつも従えている用事棒が2人。腕を組んで仁王立ちしている。
接待するのに威圧してどうするのバカなの?
「いやぁ、シスターアリアを倒したんだって? 世界初らしいじゃないか。いやぁ、素晴らしいね。私も鼻が高いよ」
あごひげを撫でながら、ニヤニヤと語る。
3人ともガン無視。それはそうでしょう、階段でのやり取りを見たら当然そうなる。
ノエルさんに至ってはイカ耳でそっぽを向いている。
「おい、お前はもう下がっていいぞ」
しっしと追い払われる。
はぁ、フォローするのも無理か。
カリーナはゲンナリした顔で部屋を出た。
(ノエルさん、アベルさん、ルーファスさん、バカの相手をさせてごめんなさい)
カリーナは心の中で深く謝った。
受付に戻るとシディアが心配そうに声をかけてくれた。
「お疲れ様。大丈夫だった?」
「全然大丈夫じゃないわよ。なんであんなのがギルド長なの・・・」
「ほんとそれ」
「ケイさんは帰ったの?」
ノエルさんを待っているかと思ったが、姿が見えなかった。
「すぐ寝たいって帰ってったわ。4日間寝てないんだって」
「4日!? え、もしかして2人を逃がしてからずっと1人で戦ってたって事!? 魔素収斂の中心部で!?」
「そうみたい。しかも相手はシスターアリア。すごいよねぇ」
「そんな英雄を追い払ったのか、あのバカ」
「ほんとに」
「はぁ・・・」
カリーナは深いため息を吐いた。
茶菓子でも持って様子を見に行くかとタイミングを計っていると、紫色の魔石の鑑定をおこなっていた鑑定士が早々に戻ってきた。
「鑑定不能。前例の無いものは同定のしようがない」
「お疲れ様」
「疲れるのはこれからだ。明日までに各種測定全部終わらせなきゃならん。徹夜は確定だな」
「それは本当にお疲れ様ね」
「なぁに、シスターアリアの魔石のベースデータを発表できるんだ。研究者冥利に尽きるね」
鑑定士が獰猛そうな笑みを浮かべながら、中指で眼鏡をクイッと押し上げた。
研究者気質ですねぇ。なんでうちのギルドは優秀な人多いのにトップがアレなんだろう・・・。
ドカッドタンッ!
応接室の方から大きな物音が聞こえた。
シディアと目を合わせる。
「「はぁ・・・」」
二人揃って大きなため息をついた。
あのメンツに限って何かあるとは思えない。痛い目を見ているとしたらこっち側だ。
シディアと二人で階段の方に向かうと、アベルさん、ルーファスさん、ノエルさんが不機嫌そうに下りてきた。
「ボロンが大変失礼をいたしました」
「失礼いたしました」
二人で頭を下げる。
「君たちが頭を下げる必要はない。でかいの二人、肩を脱臼している」
アベルはそれだけ言うと、ルーファスと共にギルドの出口へと向かった。
後に続くノエルにカリーナが声をかける。
「あの、魔石の返却もありますので、明日ケイさんと一緒に顔を出してもらえると助かります」
「わかりました」
ノエルは視線も合わせずそれだけ言うとギルドを出て行った。
ノエルさんキレさせるとか何言ったのよ、あのバカ。
しばらくすると、真っ赤な顔をしたボロンが受付前にやってきた。
「なんて失礼な奴らだ! お前が埋めておけ!」
そう言うと、討伐詳細の用紙をバンッと受付台に叩きつけ、ドカドカと二階へと戻っていった。
だから失礼なのはお前の方だ。
討伐詳細の用紙にはほぼ何も書かれていなかった。
「はぁ、これどうすりゃいいのよ・・・」
途方に暮れていると、シディアが横から用紙を引ったくり、何やら書き込み始めた。
『シスターアリア討伐確実!! 討伐方法:兵糧攻め? 備考:ニパドラギルド長のボロンが討伐者を罵倒。独断で追い出した為、討伐詳細は不明。なお、討伐者を激怒させた為、貴重な討伐方法は聞き出せない可能性大』
「いや、そんな報告書、ボロンが通すわけ・・・」
シディアは報告書を折り曲げてくるくる丸めると、小さな筒に入れ、ギルド本部から預かっている魔鳩に括り付けて、窓から解き放った。
得意顔でクルリと振り向いたシディアに、ギルド内から拍手喝采が浴びせられた。
魔鳩は大型の伝書鳩で、遠距離通信手段として重宝されている鳥だ。数が少なく貴重なため、運用方法は厳格に定められており、間違っても受付嬢が独断で飛ばしていいものではない。
「あなたのそういとこ大好きだわ。もし問題になってクビになったら一緒に辞めてあげる」
「その時は、一緒にケーキ屋でも開こうか」
拍手はいつまでも鳴りやまなかった。




