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見覚えのない宙(ソラ)の下で  作者: 旅行ねこ
第二章

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英雄帰還

 ケイは右手に死神の鎌、左手に魔石、頭にティアラを乗せて麦畑の中をヨタヨタと歩いていた。

 黒いティアラは触ったら呪われそうで気味が悪かったが、よく考えたらバリア内でさんざん触ってたなと思い出し、持って帰ることにした。


(眠い・・・あと喉乾いた・・・眠い・・・これ、ニパドラまで歩いて帰るのか? しんどい・・・)


 こういう強敵を倒したら、主人公は気絶していいんじゃなかったか。

 ああ、そういえば自分は主人公って柄ではなかった。戦ってないし。


 アベルさんは確か周囲を封鎖すると言ってたし、ニパドラまで誰ともすれ違わない可能性も高い。


「はぁ・・・」

ケイは盛大にため息をついた。



-----


 ピクッ

 ノエルのネコ耳が弾かれたように立ちあがり、麦畑へと続く農道の方を向いた。


((カラカラカラ・・・))

 その耳が微かに金属の棒を引きずるような音を捕らえた。

 目をじっと凝らす。

 陽炎の中に小さな人影が動いているのを見つけた。


(!!)

 ノエルは持っていた杖を放り投げると、規制線の黄色い帯をくぐり抜け、全速力で駆けだした。


「!? おい! 中に入るな!」


 無人の民家の軒下に腰を下ろしていたルーファスが、慌てて止めようと立ち上がる。


 その声に気付いた屋根の上の見張り役が、走っていくノエルの方へ慌てて双眼鏡を向けた。

「ぜ、前方に人影! 何か持っています! アンデッドではないようです!」


「なんだと!?」

ルーファスが見張り役を見上げて驚きの声を上げた。


「何かあったか!」

民家内で部下と今後の方針を話し合っていたアベルが、騒ぎを聞いて外へ飛び出してきた。

 アベルの目が、規制線の向こう側を駆けていく少女の背中と、その先の小さな人影を捉えた。


「・・・まさか・・・ありえん」


 アベルの視力は21.0相当。

 その人影が誰なのかハッキリと視認していた。



-----


 カラカラカラ・・・


 ケイは麦畑を抜けて農道に出ると、鎌を担いでいるのも億劫《おっくう》になり、柄の先を持って引きずって歩いていた。


(3徹の目に太陽が眩しすぎる・・・)

日差しが目に入るのを避けるため、下を向いてとぼとぼ歩を進める。


「 ——っ!」

遠くから名前を呼ばれたような気がした。

ゆっくり顔を上げる。


「ケイさんっ!!」

ノエルが全速力で駆けこんできた。

「うわっ!」

ケイは鎌と魔石を放り投げると、飛び付いてきたノエルを抱きとめた。

しかし、勢いは殺せず、ノエルを抱いたまま尻もちをついた。


「ケイさんっ!! ケイさんっ!! ケイさんっ!! うわぁぁぁぁぁぁん」

ノエルはケイにしがみついたまま号泣を始めてしまった。


 うぐ・・・ノエルを号泣させたの・・・2度目・・・


「ごめん、心配かけた」

「ホントですよぉ! ぐずっ、なんで独りにするんですかぁ! ずっと一緒にいるって言ったじゃないですか! もう独りは嫌なんです!! わぁぁぁぁぁん」


 ノエルが泣きながら頭をグリグリと押し付けてくる。

 ケイは申し開きする言葉も見つからず、ノエルが泣き止むまで頭を撫でてやる事しかできなかった。



 アベルとルーファスが、頃合いを見計らって二人の元に歩み寄った。

「驚いたぞ。まさかあの状況から生還するとはな。シスターアリアからよく逃げ切れたな」

「倒せましたよ」

「・・・・・・何をだ?」

「シスターアリア」

足元に転がっていた紫色の大きな魔石を拾って見せた。


「・・・倒・・・バカな・・・あれを倒せるはずが・・・いやしかし・・・」

アベルはケイの言葉と魔石の存在に困惑していた。


「4日もかかっちゃいましたけど、あ、鎌も持ってきました」

引きずってきた鎌を指差す。


「4日も闘って倒したのか!? シスターアリアを!? え、だって魔力ぜんぜん・・・ポーターだろ!?」

ルーファスも盛大に混乱していた。


 あ、確かに4日もかかって倒したって言うと、すごい武勇伝っぽいですね。違うんです。やってたのはただの飲まず食わずザ・ガマンです。


「確認してくる。ちょっと待っててくれ」

そう言うと、アベルは魔素収斂の中心部へと駆けていった。


「あ、そうそう、これももらってきたんだ」


 ケイは自分の頭に乗せていた黒いティアラをルーファスに見せた。


「それ・・・まさかシスターアリアのティアラか!?」

「そうだよ」


 しがみ付いて離れないノエルの頭に乗せてやる。

「ほら、ノエル。ノエルの白い髪に黒いティアラはすごく似合うよ」


 ノエルが胸にうずめていた顔を上げ、上目遣いで睨みながら言った。

「そんなもので誤魔化されませんよ」

「う・・・」

 光り物でご機嫌取りとか安易でした、すみません。



「そのティアラ、王妃のティアラより価値あると思うぞ・・・」


 ルーファスは、信じがたい価値の贈り物でご機嫌をとろうとする男と、まったく靡《なび》かない女を見て戦慄していた。



-----


「あ、あの、シスターアリアをどうやって倒したんですか! 聞かせてください!」

村の入り口まで戻って馬車の荷台に乗り込むと、ルーファスが目をキラキラさせながら詰め寄ってきた。


 なんか性格変わってませんかルーファスさん。


「う、うん、実際大したことはしてなかったんだ。それよりまずは寝させてもらっていいかな。四日間寝てなくて・・・」

「あ! それなら、ここ、ここです!」

ノエルが自分の太ももをバンバン叩いた。


 見た目おっさんが15才の子に膝枕してもらうのはどうなの、とも思ったが、ノエルの顔を見ると断る気にはなれなかった。


 ケイはノエルに膝枕をしてもらうと、すぐに眠りに落ちた。


「シスターアリア相手に大したことなかったって・・・」

ルーファスは感激に震えていた。ちなみに、ケイが言ったのは、『大したこと『して』なかった』である。



「ノエル、来るときに言った事は完全に間違いだった。こんな人は見た事がない。僕の見る目が無かった」

「うふふ、ケイさんはすごいんです。パラレクスの悪神にも勝った事があるんですよ」

ノエルは愛おしそうにケイの髪を撫でた。


「パラレ・・・本当か!?」

「本当です」

ちなみに勝ったというのはケイのウソで、実際には養われていた身である。


「そんなすごい人だったのか・・・」

「はい、ケイさんはすごいんですっ」

ノエルが得意顔で言った。


「ノエルはケイとはどういう関係なんだ?」

「えーっと・・・将来を誓い合った仲ですね。キスも済ませてます」

「・・・く、詳しく聞いても?」

ルーファスが興味津々といった感じで身を乗り出した。



「・・・大した奴だ」

御者台から振り向いたアベルが、ノエルの膝で寝息を立てているケイを見て呟いた。



 ノエルの、ケイを過大評価した上に事実を大分捻じ曲げた惚気《のろけ》話は、ニパドラに着くまで続いた。


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