白い悪魔の倒し方
~~ 3日前:魔素収斂中心部 ~~
アベルとルーファスの離脱を確認したケイは、バリア内に一緒に閉じ込めてしまった白い悪魔の背中を見て戦慄した。
さすがに無茶だったか・・・。
シスターアリアがギュルンと首を180℃回転させた。
真っ黒なまん丸の目と至近距離で目が合う。
超怖いんですけど、どんなホラーだよ!
シスターアリアが口から黒い霧を吐き出す。
その霧がケイの体を包み込んだ。
うわ、キモチワルッ!
即死魔法と思われるこの霧だが、ケイには同じような体験をした覚えがあった。マオに初めて会った日、マオが魔力を抜く実験と称して放った黒い霧だ。
ケイを包んでいた黒い霧をシスターアリアが吸い寄せて飲み込む。
特に何も起きなかった。
「やっぱり、同じやつだったか・・・」
ケイはほっと胸を撫でおろした。
アレと同じ黒い霧であれば自分には無害なのは実証済みだ。
マオはあれで魔力を全部抜き取ると言っていた。シスターアリアは抜き取った霧を飲み込んでいるので、相手の魔力を奪い取っているのだろう。
シスターアリアは何度も黒い霧を浴びせてきた。
見ていて気分の良いものではないが、特に害は無い。
10回くらい繰り返してもまだやめない。あまりおつむが良い方ではないらしい。
アリアさん、よく見ると可愛らしい黒いティアラを付けてるんですね。
なんて観察する余裕すら出てきた。
黒い霧が効かないのは良かったのだが、それより問題だったのは、バリアの外を徘徊していたスケルトンだった。
バリアの外側に群がり、バリアをカリカリと引っ掻いている。全部で10匹ほど。
そうだ、このバリア、スケルトンホイホイだったのを忘れていた。まずい、詰んだかも。
シスターアリアは20回くらい黒い霧攻撃をした後、ようやく攻撃をやめた。
シスターアリアは黒い霧で死なないことにいら立ったようにケイに覆いかぶさり、引っ掻くような攻撃をしてきた。
「うわっ、こわ、怖いって!」
ケイは慌てて引き離そうとしたが、その手にはまったく手ごたえが無く、空を切るばかりだった。
シスターアリアの引っ搔きも空を切るばかりで、ケイにはなんのダメージもなかった。
物理攻撃が通らないのはお互い様なのね・・・。
シスターアリアは首を後ろに仰け反らせると、アベルに弾かれた鎌へと目をやった。
そのまま手を鎌へ向かってギュインと伸ばした。
その手はバリアの内壁にぶつかり、ゴスッという音が響いた。
あ、今のすごい痛そう。
シスターアリアは仰け反って逆さになっていた首をギュルンと180℃回転させると、次いで体も180℃回転させて四つん這いになった。
その動き、怖いから止めてください。
鎌の方へ寄り、バリアの内側をカリカリと引っ掻いている。
物理攻撃するにはあの鎌が必要なのだろう。
アベルの槍を掴んで投げ飛ばしていたので、魔槍とか魔剣とか、魔力がらみの武器は掴めるのかもしれない。
ちなみに我が聖剣スケルトンクラッシャーは、ノエルを抱えた時に放り投げたので、その辺に転がっているはずだ。エンチャントが切れているのでただの棒だけど。
シスターアリアは鎌が手に入らないと見ると、再び黒い霧攻撃をしてきた。
行動がループするのか・・・。頭の悪いハムスターみたいだ。
そんなシスターアリア観察をしている間に、バリアの外に群がるスケルトンは20匹以上になっていた。ゾンビっぽいのも若干混じっている。
いよいよバリア解除できなくなってきたな・・・。
打つ手なくバリアに籠城している内に、完全に日も落ちて夜になってしまった。
ちなみに小さな空気穴を2ヵ所開けているので、酸欠の恐れはない。
夜になってもアリアさんが白くぼんやり光っているので真っ暗ではないのだが、その光にスケルトンやらゾンビやらが照らし出されるのでむしろ怖い。
バリアを張った時に、シスターアリアも閉じ込められるように最大サイズで展開したので、バリア内は3畳ほど広さがあった。
マオ製バリアは変形はできるが、一度張ったらサイズの変更はできない。魔力を物質化しているので、一度展開すると面積が変えられないのだ。
もし小さく張っていたらと思うとぞっとする。
幽霊じみた怪物と一晩中密着し続けるのは御免だった。
一睡もする事ができずに夜が明けた。
状況が安定しているとはいえ、幽霊もどきと一緒に閉じ込められ、外でスケルトンがカリカリしている状態で眠れるほど神経は太くない。
バリアの外側のスケルトンとゾンビの総数は30匹ほどになっていた。
100匹以上に囲まれている事も覚悟していたので、想定よりはマシだった。
朝日に照らされたシスターアリアは、姿が少し透けているように見えた。
最初は逆光のせいでそう見えるのかと思っていた。
しかし、しばらく眺めていて、前日より確実に姿が薄くなっている事を確信した。
くっきりと見えていたシスターアリアの背後の景色が少し透けて見えるのだ。
一晩中黒い霧を吐き続けていたのが原因だろうか。
黒い霧で魔力を奪う事が食事だとすると、今は絶食している状態だ。
もしかして、このまま閉じ込めて魔力供給を絶てば、消滅させる事ができたりしないだろうか。
だが、問題もある。
閉じ込められて餓死するのは自分も同じだ。
要はどっちが先に餓死するかの我慢比べだ。
背負っていたリュックの中身を漁る。
リュックは登山用の大型のものではなく、討伐の際に最低限を持ち運ぶ為の小型のリュックだ。
干し肉が2切れあった。これ、非常用に入れたのではなく、ノエルに見つかるのが恥ずかしくて隠してたやつだ。硬くて、筋ばってて、塩味が薄くて、血の味がする。要するに、クソマズイ。
そして、水。 ・・・が無い!
あれ、なんで水無いんだ!?
ああ、そうだ、重かったから馬車の荷台に置いてったんだ!
水が無いのはマズイ。
昨日から飲まず食わず。すでに喉がカラカラだった。
水・・・水がほしい。
しかし、無い物は無い。
やる事もない。
できるのはアリアさんの観察くらいだ。
シスターアリアの行動パターンは昨日と変わりなく、黒い霧(無効)、引っ掻き(無意味)、武器回収チャレンジ(無理)を繰り返している。
黒い目から流れ出しているどろどろの涙は、物理的接触が出来ないのでただ不気味なだけで意味はなかった。
頭に乗せている小さな黒いティアラには触れる事ができた。
触るとものすごく嫌がる。
退屈しのぎにちょっかいを出していたが、虐めてるみたいでだんだん可愛そうになってきたのでやめた。
2日目の夜を迎えた。
バリアの外側のスケルトンは30匹ほどから増えていない。
魔素収斂自体は収まったのかもしれない。
中心部のアンデッドはあらかたシスターアリアが平らげていたし、アリアさん自体の魔力はバリアで閉じ込めている。
考えてみれば、中心部に魔素が集まる要素がない。
喉の渇きがヤバイ。
2日間、水を飲まないだけでこんなにも辛いものなのか。
干し肉には手を付けていない。喉の渇きに比べたら、空腹なんてどうでもいいレベルだった。
とにかく水、水が飲みたい。挫けそうだ。
バリアを解除して逃げる事も考えたが、何度シミュレートしてみても、スケルトンに掴まれてボコられるか、シスターアリアに鎌を回収されて刺殺される未来しか見えなかった。
3日目。
雨! 雨! あ・め!
神様! ありがとう! 以前、いたら殺してやるって悪態ついた事あったけど撤回します!
球形バリアの上部を陥没させて水を溜める。溜まったら穴を開けて口に流し込む。
水がこんなに美味いとは。
喉の渇きが癒えると、急激にお腹が減ってきた。
マズイ干し肉を齧ったら、ものすごく美味しかった。血の味すらうま味に感じる。マズイなんて言ってごめん、なんとかゴートさん。
シスターアリアも大分薄くなって、透過50%くらいになってきた。
これは勝ちが見えてきたんじゃないか?
余裕ができたので、ちょっと実験をしてみた。
シスターアリアの目の前のバリアに拳大の穴を開けてみた。
すると、シスターアリアはその穴から黒い霧を吐き出し、外側にいたスケルトンから魔力を奪うとその霧を飲み込んだ。
スケルトンはただの骨となって崩れ落ちた。
シスターアリアの体が若干濃くなった気がする。
やはり、魔力を摂取して生きてるようだ。
これで、シスターアリアを利用して、外側のスケルトン&ゾンビを始末する算段が付いた。
アリアさんが回復してしまうデメリットはあるが、うまく調整すれば両方片付けられるかもしれない。
4日目。
眠気が限界だ。夜中に何度か意識が落ちた気がするが、熟睡できるほど神経は太くない。
徹夜続きでハイになった頭のおかげか、スケルトンを片付ける良いアイデアを思い付いた。
早速実践。
ますバリアに穴を開ける。
腹ペコのアリアさんが黒い霧を吐き出し、スケルトンが黒い霧に包まれた。
ここでバリアを閉じる。
黒い霧はシスターアリアに吸収される事無く霧散し、スケルトンは崩れ落ちた。
おお、大成功。
スケルトンが片付いた上に、シスターアリアも回復した様子はない。むしろ弱ったように見える。
スケルトンの魔力どころか吐き出した霧も回収できないので、魔力の消費が激しいのかもしれない。
同じことを何度繰り返してもアリアさんは学習しないので、見る見るうちにスケルトンが減っていった。
アリアさん、おつむが弱くて助かります。なんか不憫にすら思えてきた。
繰り返す事30数回。バリアの外のスケルトン&ゾンビはついに全滅した。
シスターアリアも透過75%くらいまで薄くなり、消える寸前といった感じだ。
パニックにでも陥ったのか、狂ったようにケイに向かって黒い霧を吐き出し続けてきた。
そしてついにガス欠したかのように黒い霧が吐き出せなくなると、シスターアリアは一瞬光った後に掻き消えるように消滅した。
後には大きな濃紫色の魔石と、小さな黒いティアラが残されていた。




