しばらく山籠もり
この黒い人、勝手にラスボス認定してしまったが、実際のところ何なのだろうか。
「ところで、君って何者なの? 僕には黒いモヤのように見えるんだけど、生き物なの?」
『一般的な生物ではないかな。同じような生物には会った事無いし、自分でもはっきりした事は分からない。たぶん、魔素が凝縮して意識を持った生命体、だと思う。結構長い事生きてるから、寿命があるのかも分からない』
どうやら魔王とかではないらしい。
「君の事は何と呼べば?」
『色々と呼び名はあるみたいだけど、正式な名前は無いから好きに呼んでくれていいよ』
「えーと・・・じゃあ、なんか魔王っぽいからマオで」
『マオ・・・。いいね、マオ。それを正式名称にするよ。ボクはマオ。』
適当に付けてしまったが、すごい気に入ったようだ。
『キミの名前は?』
名前を口にしようとして思いとどまった。こちらの世界で馴染みがあるとは思えず、悪目立ちしてしまうかもしれない。短くて発音しやすいイニシャルで通すことにした。
「ケイだよ。ケイって呼んでくれ」
『よろしくケイ』
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さて、元の世界に帰れないことが確定してしまった以上、こちらの世界で生きていくしかない。
とりあえず、山を下りて人里を目指そうか。人は一人では生きていけない動物なのだ。
マオに山を下りたいと提案したら、
『しばらく無理だよ。』
と返ってきた。
この山、雪深く、天気が荒れることも多いそうで、冬季に山を下りるのは自殺行為との事。
ちなみに、今は秋が終わったばかりだそうで、タイミングが悪すぎませんかね・・・。
『それに言葉も通じないだろうし。冬の間にこっちの言葉、教えてあげるよ』
そうだ、言葉の問題があった。
「マオとはなんで普通の話せてるの?」
『ボクの使っているのは念話だからね。音ではなく、イメージを直接送り合ってる感じ。言葉に聞こえてるとしたら、キミが自分の脳内で言語に変換してるんだと思うよ』
何それ、すごい便利。
「こっちの世界の人はみんな念話使えたりは・・・」
『しないよ』
しないのか。
『まぁ、時間はたっぷりあるんだ。ボクがちゃんと教えてあげるよ』
なんだか妙に張り切っているように見えますね、マオさん。
ペットに芸を仕込む感覚なのだろうか。
『教本もあるしね』
「なんで本があるの!?」
『昔、ヒト族から貰ったんだ』
「貰った? 奪ったの間違いでは?」
『失礼な。ちゃんと交渉して対価も払ったよ』
マオは宙を滑るように部屋の外へと出ると、出入り口からこっちこっちと手招きした。
おとなしく後を付いていく。
「その姿って人を真似てるんだよね?」
初見では一つ目の黒い塊だった事を思い出して、マオの後ろを歩きながら聞いてみた。
『キミがヒト族だったからね。こっちの方が話しやすいかと思って』
「どうせ化けるんだったら、綺麗な美女とかに化けてくれた方が嬉しいんだけど」
今は真っ黒な人型に丸い目があるだけ。子供の落書きのような姿だ。
『うーん、正直、ヒトの男女の差ってよく分からないんだよね。ましてや美女とか言われても』
「はぁ、マオにはがっかりだよ」
『ちょっと、そこに犬の絵描いてみて』
地面を指さす。
こっちにも犬っているのか、なんて思いつつ、落ちていた石で犬を描く。
『・・・こっちの世界の犬と、そっちの世界の犬はまったく別の生き物のようだ』
「ヘタクソですいません」
『その犬、モテモテの美犬にしてみて』
「・・・すみません、さっぱりわかりません」
『そういうことだよ』
・・・なるほど、別の生物の美醜なんてさっぱり分かりませんね。
今の真っ黒な人影のような姿は、マオさんなりにがんばって人に似せた姿なのか。
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「うっわ、何この金銀財宝!」
マオの後に付いて奥まった部屋に入ると、部屋の半分が金貨やら宝石やらで埋まっていた。
『それは前の住人の持ち物だね。欲しければ全部あげるよ』
「マジですかマオさん。これ一生左団扇なんじゃ」
『なんとなく意味は分かるけど、面白い表現だね』
「本当に貰っていいのか?」
『光物には興味ないから』
マオさん素敵です。結婚して。
「ところで、前の住人って?」
『ドラゴンだね。ボクがこの洞窟見つけて覗いた時に逃げてった』
ドラゴンいるのか・・・。そしてドラゴンも逃げ出すのか。
マオさん、パないです。
財宝部屋から続く部屋にはいくつかの本棚が乱雑に並んでいた。
収まっている本は1000冊を超えていそうだ。
「これ絶対本棚ごと奪ったでしょ」
『だからちゃんと交渉して貰ったものだってば』
「マオさん、本読むの?」
『一時期、ヒトの書物にハマっていた事があってね。時間はいくらでもあるから、いい退屈しのぎになるんだ。何度も読んでもう飽きてしまったけれど。・・・確かこの辺に絵付きの本があったはず』
マオは本棚から本を引っ張り出してはパラパラと中身を確かめ、いくつかの本を小脇に抱えた。
『発音を頭に直接叩き込んであげるから、しっかり覚えてね』
こちらを振り向き三日月型の口でにやりと嗤った。
「お手柔らかにお願いします。」
マオさん、その笑顔怖いです。




