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見覚えのない宙(ソラ)の下で  作者: 旅行ねこ
第一章

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しばらく山籠もり

 この黒い人、勝手にラスボス認定してしまったが、実際のところ何なのだろうか。


「ところで、君って何者なの? 僕には黒いモヤのように見えるんだけど、生き物なの?」

『一般的な生物ではないかな。同じような生物には会った事無いし、自分でもはっきりした事は分からない。たぶん、魔素が凝縮して意識を持った生命体、だと思う。結構長い事生きてるから、寿命があるのかも分からない』


 どうやら魔王とかではないらしい。


「君の事は何と呼べば?」

『色々と呼び名はあるみたいだけど、正式な名前は無いから好きに呼んでくれていいよ』

「えーと・・・じゃあ、なんか魔王っぽいからマオで」

『マオ・・・。いいね、マオ。それを正式名称にするよ。ボクはマオ。』

適当に付けてしまったが、すごい気に入ったようだ。


『キミの名前は?』

名前を口にしようとして思いとどまった。こちらの世界で馴染みがあるとは思えず、悪目立ちしてしまうかもしれない。短くて発音しやすいイニシャルで通すことにした。

「ケイだよ。ケイって呼んでくれ」

『よろしくケイ』



-----


 さて、元の世界に帰れないことが確定してしまった以上、こちらの世界で生きていくしかない。

 とりあえず、山を下りて人里を目指そうか。人は一人では生きていけない動物なのだ。


 マオに山を下りたいと提案したら、

『しばらく無理だよ。』

と返ってきた。


 この山、雪深く、天気が荒れることも多いそうで、冬季に山を下りるのは自殺行為との事。

 ちなみに、今は秋が終わったばかりだそうで、タイミングが悪すぎませんかね・・・。


『それに言葉も通じないだろうし。冬の間にこっちの言葉、教えてあげるよ』

 そうだ、言葉の問題があった。


「マオとはなんで普通の話せてるの?」

『ボクの使っているのは念話だからね。音ではなく、イメージを直接送り合ってる感じ。言葉に聞こえてるとしたら、キミが自分の脳内で言語に変換してるんだと思うよ』

何それ、すごい便利。


「こっちの世界の人はみんな念話使えたりは・・・」

『しないよ』

しないのか。


『まぁ、時間はたっぷりあるんだ。ボクがちゃんと教えてあげるよ』


 なんだか妙に張り切っているように見えますね、マオさん。

 ペットに芸を仕込む感覚なのだろうか。


『教本もあるしね』

「なんで本があるの!?」

『昔、ヒト族から貰ったんだ』

「貰った? 奪ったの間違いでは?」

『失礼な。ちゃんと交渉して対価も払ったよ』



 マオは宙を滑るように部屋の外へと出ると、出入り口からこっちこっちと手招きした。

 おとなしく後を付いていく。


「その姿って人を真似てるんだよね?」

 初見では一つ目の黒い塊だった事を思い出して、マオの後ろを歩きながら聞いてみた。

『キミがヒト族だったからね。こっちの方が話しやすいかと思って』

「どうせ化けるんだったら、綺麗な美女とかに化けてくれた方が嬉しいんだけど」

今は真っ黒な人型に丸い目があるだけ。子供の落書きのような姿だ。


『うーん、正直、ヒトの男女の差ってよく分からないんだよね。ましてや美女とか言われても』

「はぁ、マオにはがっかりだよ」

『ちょっと、そこに犬の絵描いてみて』

 地面を指さす。


 こっちにも犬っているのか、なんて思いつつ、落ちていた石で犬を描く。


『・・・こっちの世界の犬と、そっちの世界の犬はまったく別の生き物のようだ』

「ヘタクソですいません」

『その犬、モテモテの美犬にしてみて』

「・・・すみません、さっぱりわかりません」

『そういうことだよ』

・・・なるほど、別の生物の美醜なんてさっぱり分かりませんね。


 今の真っ黒な人影のような姿は、マオさんなりにがんばって人に似せた姿なのか。



-----


「うっわ、何この金銀財宝!」


 マオの後に付いて奥まった部屋に入ると、部屋の半分が金貨やら宝石やらで埋まっていた。


『それは前の住人の持ち物だね。欲しければ全部あげるよ』

「マジですかマオさん。これ一生左団扇なんじゃ」

『なんとなく意味は分かるけど、面白い表現だね』

「本当に貰っていいのか?」

『光物には興味ないから』

マオさん素敵です。結婚して。


「ところで、前の住人って?」

『ドラゴンだね。ボクがこの洞窟見つけて覗いた時に逃げてった』

ドラゴンいるのか・・・。そしてドラゴンも逃げ出すのか。

マオさん、パないです。



 財宝部屋から続く部屋にはいくつかの本棚が乱雑に並んでいた。

 収まっている本は1000冊を超えていそうだ。


「これ絶対本棚ごと奪ったでしょ」

『だからちゃんと交渉して貰ったものだってば』

「マオさん、本読むの?」

『一時期、ヒトの書物にハマっていた事があってね。時間はいくらでもあるから、いい退屈しのぎになるんだ。何度も読んでもう飽きてしまったけれど。・・・確かこの辺に絵付きの本があったはず』


 マオは本棚から本を引っ張り出してはパラパラと中身を確かめ、いくつかの本を小脇に抱えた。


『発音を頭に直接叩き込んであげるから、しっかり覚えてね』

こちらを振り向き三日月型の口でにやりと嗤った。


「お手柔らかにお願いします。」

マオさん、その笑顔怖いです。


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