災害:魔素収斂
「君、ランクは?」
「え、僕ですか? ランクは無いです。ポーターです。冒険者はこの子」
後ろからノエルの両肩に手を置く。
犬耳獣人の視線がノエルに移る。
「ランクは?」
「F、カッコ仮。です。」
犬耳獣人がシディアを睨みつけた。
「あー・・・カリーナの気持ちがよく分かった。これ、どう説明すればいいの?」
シディアは頭に手を当て天を仰いだ。
「えーっと、新人ですけど、スケルトンの討伐数、討伐速度は目を見張るものがあります」
「スケルトン討伐が今回の主軸とはいえ、スケルトンだけではな・・・」
「ソロでのキラースケルトン討伐記録もあります」
「なんだと?」
獣人の目の色が変わった。
後ろに控えていた3人のうちの1人がツカツカとケイの前に歩み出た。
ダークグリーンのボブカットの少年で、歳は15、6才くらいに見える。
「お前が有望新人に寄生してるポーターとやらか」
切れ長の目で睨みつけられる。
ここのところ出回ってる噂を聞いたのだろう。
噂なんて無視しておけばいいと思っていたけど、直接問い詰められた時の対応は考えていなかった。どうしたものか。
「誤解ですよ」
「フン、魔力がまったく感じられないな。その魔力量で専属ポーターとは、誤解とは思えないがな」
この子、正義感強いんだろうなぁ。誤解とはいえ、ノエルを助けようとしてくれてるのは分かるから、あまり強く言いたくないし、どうしたものか・・・。
あ、ノエルの耳がイカ耳になってる・・・抑えて、抑えて。
「待て、ルーファス」
思わぬ所からの助け舟。犬耳獣人さんだった。
「黒目、黒髪の魔力ゼロ・・・もしや、あなたはケイという名では?」
「え? はい、その通りですけど・・・」
犬耳獣人に知り合いはいなかったはず・・・
「やはりそうか。私はアベル。クリスから話は聞いている。クリスとはよくパーティーを組む仲なんだ」
「クリス? ・・・あ、クリスティナか!」
「クリスからはフリューゲル方面への遠征で会う事があったら力になるよう言われている」
アベルが右手を差し出した。
「あ、はい。よろしくお願いします」
ケイがその手を握った。
「ルーファス、さがれ。クリスの恩人だぞ」
「う・・・出過ぎたマネをしました。失礼しました」
ルーファスは気まずげにアベルへ向けて頭を下げた。
「謝る相手を間違っているぞ」
「ぐ・・・先ほどは大変失礼いたしました」
ルーファスは納得のいっていない様子ではあったが、こちらを向いて頭を下げた。
「いえ、こちらも誤解を受けやすい状況なのは理解してますので、気にしないでください」
傍から見たら寄生してるようにしか見えないですよね、ほんと。
でも魔力量の規定により冒険者になれないので、この形にするしかないんです。
「しかし、クリスはケイの事を自分と大して年齢の変わらない男性と言っていたが、だいぶ話が違うな」
アベルはクリスティナに教えてもらっていた人物像との違いに戸惑っていた。
「まぁ、クリスの非常識はいつもの事か」
違うんです。非常識なのは僕の方なんです。僕が非常識に年取ったんです。
袖を引っ張られる感触がして振り向くと、いつの間にか隣にシディアさんが来ていた。
「ごめんね、悪い噂が出回ってるのは把握してるんだけど、噂なんかは私たちではどうしようもなくて・・・」
トラブルになりそうなのを見かねて、仲裁しに出てきてくれたのだろう。
「いえ、放置しているのは自分たちも同じですので。わざわざありがとうございます」
「なんか私が手籠めにされたとかいう噂まであるんだけど?」
「あははは・・・ご迷惑お掛けしてます」
笑うしかない。
シディアはつまんでいた袖を強く引っ張り、ケイの耳に口を寄せて囁いた。
「ホントに手籠めにしてみる?」
「!?」
シディアはいたずらっぽくウインクして受付に戻っていった。
あの人、ほんとウインク上手いなぁ。
「・・・ああやって手玉に取るんですね・・・勉強になります」
隣ではノエルが嫉妬する事も忘れて、しきりに感心していた。
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時間が惜しいという事で、馬車で移動しながら説明を受ける事になった。
Fランク(仮)のノエルと魔力無しポーターが役に立つとは思われていないようだったが、討伐が無理なら住民の避難誘導をやって欲しいとの事で同行する事になった。
今回の討伐参加者は、王都ギルドから派遣されてきた4名。
シェパード耳のアベル、Aランク。
緑髪の少年ルーファス、Bランク。
神官のおじさん2人、Cランク。
緊急招集された神聖魔法使いマイク、Dランク。
ノエル、Fランク(仮)。
ケイ、ポーター。
以上、7名だった。
現在、2頭立ての荷馬車に2組に分かれて現場に向かって全力で駆けている。
ケイの乗った馬車の荷台には、ノエルとアベルが同乗していた。
アベルが状況の説明を始めた。
「ニパドラの南、馬車で3時間程のアラタ村で魔素収斂の発生が確認された。規模はM5。早急に散らす必要がある」
「魔素収斂って何ですか?」
「アンデッド系モンスターが多い場所で稀に起こる現象だ。何らかの原因で周りより魔素の濃い場所が出来ると、そこにアンデッドが集まってきて魔素がどんどん濃くなる。するとそこに強力なアンデッドが生まれ、さらに魔素が濃くなり、よりアンデッドが集まってくるという悪循環が発生する。規模が大きくなってくると、レイスやらリッチやらの最上位モンスターまで現れて手が付けられなくなる。対処法は、規模が大きくなる前にアンデッドを減らす事だ」
風が強く、聞き取りにくいので、アベルは大声で叫ぶように説明した。
「規模M5というのは?」
「規模はM1~M7で表される。数字が大きいほど魔素が濃い」
ガコンッと荷台が大きく揺れる。気を付けないと舌を噛みそうだ。
「斥候からの報告では、確認されているモンスターは大半がスケルトン。数は300ほど。他はゴースト、ワイト、ゾンビ、グール、スケルトン・ナイト。出現が予想されるのはレイスまでだ」
「今の人数でそれだけの数を相手にするんですか?」
「いや、今いるメンバーは先遣隊だ。明日、本格的に招集をかける。王都からも応援が来るはずだ。魔素収斂は一刻も早く中心部のアンデッドの数を減らす事が重要だ。今集まれるメンバーで減らせるだけ減らす。M6まで成長してしまったら洒落にならない」
途中、たくさんの人を乗せた馬車とすれ違った。
先ほどから何度か同じような馬車を見ている。
おそらく、現場から避難している人たちだろう。
「正直な話、君たちはどこまで戦える?」
ノエルがこちらを見つめる。
能力を隠していたのは、煩わしいパーティー勧誘を避けるためだ。今の状況で隠す必要はない。
コクリと頷く。
「私、回復魔法使えます」
「何!? 本当か、それは心強い!」
「僕はスケルトンを引き付けるバリアを張れます」
「なんだと!?」
「これです」
右手の周りにバリアを展開する。
「これを体の周りに展開できます」
「! パラレクスベアをタンクしたやつか! クリスが楽しそうに話していたぞ」
「それから、バリアを展開していない時はスケルトンから攻撃を受けません。魔力が無いので見えないみたいです。スケルトンでは実証済みですが、他のアンデッドに通用するかは分かりません」
「ははは、それはすごいな! なるほどスケルトンスレイヤーか。君たちがいてくれてよかった。やれる事が増えそうだ」
2台の馬車は滑るようにアラタ村へ向かって疾走した。




