指名依頼?
「あははは、あなた、最高!」
翌日も混雑を避けて遅めの時間にギルドに顔を出すと、いきなり受付嬢のシディアさんに肩を組まれた。名前はさっき、名札で確認した。
「あのカリーナが会議で涙目になっててさぁ、あんなの初めて見た!」
バンバンとケイの肩を叩く。
シディアさんは黒髪セミロング前髪パッツンのナイスバディなお姉さん。
なぜギルドの受付嬢は美人しかいないのか。
カリーナさんより一つ二つ年下な感じで、一見大人しそうに見える人だけど、こんな奔放な人だったんですね・・・。
「あなた、キラースケルトン2時間タンクしたんだって? ポーターなのに。あはは、ポーターなのに!」
シディアさんはツボに入ったらしく、お腹を抱えて爆笑している。
一見バカにされているようにも見えるが、全く悪い気はしない。悪意が一切感じられないからだろう。
「もう、会議中に笑いこらえるの大変だったんだからね!」
あの、受付並んでますけど、仕事しなくていいんすか?
「これからも応援してるから! あ、私のとこには並ばないでね! 絶対カリーナのとこで!」
そう言うとウィンクして受付に帰って行った。
あんなウィンク上手い人、初めて見た。
あ、カリーナさんにバインダーでバシバシ叩かれている。自業自得ですね。
「・・・胸ですか、やっぱり」
ひっ・・・
ノエルが胸に両手を当て、猫耳をイカ耳にして氷点下の視線で睨んでいた。
-----
「あ、ほら、スケルトン5体ってのがあるよ、あれにしよう、ね」
「そうですね」
ノエルはスパッと依頼票を取るとツカツカと受付に向かってしまった。
いや、さっきのは僕悪くないよね・・・鼻の下は伸びてた気はするけど・・・
「ノエルさん、おはようございます。スケルトン5体ですね。ノエルさんなら問題ないですね。受領いたします」
カリーナさんは昨日のことなどなかったかのように完璧な営業スマイルで受付を始めた。
さすが、プロですね。
隣ではシディアさんが自分の担当の受付をしているにも関わらず、満面の笑みでこちらに向かって手をひらひら振っている。
全然プロじゃないですね・・・
苦笑いで軽く会釈だけした。受付中のコワモテ冒険者がすごい睨んでて怖いんです。
「あの、昨日は迷惑をかけてしまったみたいで・・・」
ノエルが申し訳なさそうにカリーナに声をかけた。
「いえいえ、迷惑をかけてしまったのはこちらですから。無事のお帰りをお待ちしています」
自分の受付の列を捌き終わったシディアがカリーナの肩を突きながら言った。
「仮登録2件目にして、カリーナ様から『問題無い』発言が飛び出すとは、大型新人だねぇ」
「キラースケルトン無傷で倒せる人にスケルトン5体で何と言えと?」
「違いない」
シディアはクククと楽しそうに笑った。
-----
「はい、確かに5体分確認しました。お疲れさまでした」
今回はノエルが5体全部倒したので、スケルトンクラッシャー(木の棒)の出番は無かった。
スケルトンクラッシャー(木の棒)で倒してしまうと、ノエルの何もしてない感が半端じゃないらしい。
エンチャントしてくれているので、何もしてないどころか、半分以上ノエルのおかげなんだけど・・・。
「昨日のキラースケルトンの件ですが、現場でキラースケルトンの骨が確認できました。正式に討伐完了と認められましたので、討伐報酬と慰謝料を手形にて発行いたします。手形は本来Cランク以上の冒険者が利用できるものですが、今回は額が額なだけに、特別扱いとさせていただきます。手形は本人のみ利用可能で、世界中どこのギルドでも換金できます。ギルド提携の宿であれば、手形で直接支払いも可能ですので、ぜひご利用ください」
そう言うと、紋様の入った小切手のようなものを渡された。
そういえば、ティナが手形で報酬を貰っていた。手形ってそういうものだったのか。
確かに、高ランク冒険者が、いちいち現金で報酬を貰っていたらかさばってしかたない。おそらくあの紋様で本人確認ができる仕組みなのだろう。本人しか利用できないなら盗まれる心配もない。
-----
スケルトン討伐だけで4回の討伐依頼をこなし、ノエルの(仮)が取れるまで残り1回となった。
討伐に関しては怪我をする要素もないので順調そのものだったのだけど・・・。
「いたいけな少女に危険な仕事をさせて、自分は荷物持ちだけをしているクズがいる」
「弱みを握って隷属させているって話だ。可哀そうに」
「プロの詐欺師らしい。キラースケルトンの討伐を捏造して大金をせしめたとか」
「カリーナさんを脅して泣かせた事があるらしい」
「イケメン冒険者を歯牙にもかけないあのシディアさんを手籠めにしたらしい」
なんて根も葉も無い噂が出回っているようで、居心地が悪くなっていた。
・・・いや、微妙に真実も混じってるので、根くらいはあるのか。
悪目立ちしていたという自覚もあるし。
「もうとっとと正式な冒険者になって、王都に向かいましょう!」
ノエルも同情の目が向けられたり、パーティーに誘われる事が多くなり、うんざりしているようだ。
そんなこんなで最後のスケルトン討伐依頼を受けるべく、朝の遅い時間にギルドに入った。
すると、この時間いつもは静かなギルド内が何やらざわついていた。
受付で話しているシェパードみたいな犬耳の獣人男性が原因のようだ。
対応しているのはシディアさんだ。
犬耳獣人さんは大柄で体格が良く、端正な顔立ちをしていた。黒交じり茶色の短髪もシェパードっぽい。手には槍を持っている。パーティーメンバーと思われる3人が後ろに控えていた。
「至急、Dランク以上の神聖魔法の使い手を全員集めて欲しい。王都ギルドからの特別依頼だ。緊急性はレッド」
「今の時間、ほとんどの冒険者は出払っています。該当する冒険者で現在連絡の取れる者は1人しかいません」
「ランクは?」
「Dです」
「・・・いないよりはマシか。仕方ない、その1人でいいから呼び出してくれ。報酬はAランク依頼相当払う」
「わかりました」
テキパキとした対応。
シディアさんって、真面目に仕事してるとすごいできる人っぽいんだよなぁ。真面目にやれば、だけど。
バチッとシディアさんと目が合った。
「あ! もう1人いた! あれ、スケルトンスレイヤーです!」
人を指差してアレとか言わないでください。




