カリーナの憂鬱
日が落ちる前にニパドラギルドに戻ってくることができた。
中に入ると、受付の前には5人程の列が出来ていた。
達成報告の冒険者で混む時間帯だったか。
ノエルと一緒に、カリーナさんが受付している列の最後方に並んだ。
「おい、前のってポーターか?」
「ポーターにしても弱すぎでしょ、保護者じゃないの? それか奴隷?」
一足違いで後ろに並んだ男女の2人組からバカにするような声が聞こえた。
この程度の声を気にしていたら魔力ゼロはやっていけない。
「それにしても木の棒って。お似合いだけど」
「女の子はすごい杖持ってるのにね。やっぱ奴隷じゃない?」
ケイはまったく気にしていなかったのだが、隣にいるノエルはどんどん不機嫌になっていた。
あ、ノエルさん、猫耳がイカ耳になってますよ。
「(ノエル、怒ってくれるのは嬉しいけど、気にしてたらキリが無いから。落ち着いてね)」
「・・・」
ノエルは一瞬ケイを睨むと、腕を組んで、思い切り体をくっつけてきた。
後ろの2人が静かになった。絶句しているようだ。
「(ちょ、ノエルさん!? そういうの、トラブルにしかならないから!)」
「(知りません!)」
ノエルの全力のしがみつきにケイは引き離す事もできず、そのまま受付の列が進むのを待つしかなかった。
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「お待たせしました。お次の方どう・・・ぞ?」
カリーナさんが絶句している。
そりゃそうだ、おっさんと美少女が腕組んでギルド窓口に来たらそうなる。
「依頼、達成しました」
「え・・・あ、ノエルさん!? 依頼達成できたんですか!?」
美人は驚いた顔も可愛い。
なぜか隣で受領処理をしていた黒髪の受付嬢まで手を止めて驚いている。
「はい、達成できました」
ノエルが依頼票を提出した。
「お怪我されてないですか?」
「無傷で倒せましたよ」
「スケルトン10体全部倒せたんですか?」
「10体じゃないです」
「あ、なんだ。残念ですが、10体全部倒さないと依頼達成には・・・」
「11体いました」
「・・・・」
「これが討伐証明の魔石です」
ノエルが魔石が入った小袋を提出する。
「す、すごいですね。Fランクモンスターのスケルトンとはいえソロで10匹はベテランの域ですよ・・・。それから、討伐数1割の増減は、誤差扱いで追加報酬は無いんです。ごめんなさい」
カリーナが申し訳なさそうに答えた。
「いえ、問題ありません」
ノエルにとって大事なのは依頼を達成して仮免を卒業する事であり、何の問題もなかった。
「それでは確認させてもらいますね」
カリーナが袋を逆さにし、ザラッと出てきた魔石を見て固まった。
「・・・あの、この大きいのスケルトン・ナイトだったりします?」
カリーナが指差したのは、11ある魔石の中で、1つだけ飛び抜けて大きな魔石。
あ、多分、二刀流のしぶとかった奴の魔石だ。
「えっと、1匹だけ二刀流のスケルトンがいて、多分それのだと思いますけど、種類は分からないです」
机上知識が豊富なノエルでも、可愛げのないスケルトンには興味がないようで、種類までは分からないようだ。
「二刀流って・・・キラースケルトンですか!?」
カリーナが立ち上がって叫んだ。
「ふぇっ?」
ノエルが驚いて耳を倒した。
「すみません、ちょっと別室まで来てもらえますか。後ろの方は大変申し訳ありませんが、別の列に並び直してください」
後ろには例の2人組しかいなかった。
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胃が痛い。
無謀な新人冒険者を送り出して、心配で胃がキリキリしていた所に、ランク設定の大幅な誤認の疑いが発覚した。
その新人冒険者が無傷で生還してくれた事は嬉しかったが、その冒険者に斡旋した依頼がよりにもよって難度Cランク相当の可能性。
新人を死地に向かわせておいて、何が「無事のお帰りを・・・」だ。偽善にもほどがある。
しかも応接室はクソギルド長がくだらない接待に使っていて、職員の休憩室で対応しなきゃならないなんて・・・もうやだ。
「申し訳ありません、応接室は現在埋まっておりまして、こちらで対応させてください」
「はい、大丈夫ですよ。何か問題がありましたか?」
ノエルが不安げにカリーナを見上げた。
「キラースケルトンは討伐ランクでいうとCランクになります。Fランクの依頼で出てきていいモンスターじゃないんです。所属冒険者の命に関わる問題ですから、急ぎ魔石の詳細鑑定をしております。少々お待ちください。今、お茶を入れてきますので」
カリーナは給湯室に入ると、お茶を入れる前に常備されている胃薬を口に放り込み、水と一緒にゴクリと飲み込んだ。
キラースケルトンは新人が倒せるようなモンスターではない。
耐久力は低いが、攻撃力が異常に高い。
自らが傷つくのを全く意に介さず、苛烈な攻撃をしてくる。
倒すには、遠距離から高火力魔法で一気に焼くか、一流のタンクで受けて一斉攻撃するかだ。
後衛職がソロで倒せる相手ではないのだ。
一緒にいるポーターも役に立つとは思えない。魔力量が低すぎる。
何かの間違いだとは思うけど・・・
カリーナは入れてきたお茶を二人の前に置いた。
「もう少々お待ちください。その間、討伐の詳細を伺っても・・・」
「あ、あの、実は二刀流のスケルトンって、ホーリーレイで倒したんです。ですから、Cランクモンスターという事は無いと思います」
ノエルが割り込むように説明した。
「! そうですか。それならキラーではないですね」
カリーナはホッと胸を撫でおろした。
ホーリーレイは初級魔法だ。いくら耐久力が低いキラースケルトンとはいえ、ホーリーレイで倒せるような相手ではない。
「スケルトン・ナイトかもしれませんね。そちらは難度Eランク相当になります。スケルトンよりずっと強いですが、ホーリレイで充分に倒せる強さです」
「あ、それなら、きっとそっちですね!」
「そうですね。ただ、ナイトが二刀流だったという報告はないので、詳しくお話を聞かせてもらえると・・・」
コンコン・・・
返事を待たずにドアがわずかに開き、さっきまで隣で受付をしていたシディアがちょいちょいと手招きした。
結果が出たようだ。
2人に会釈して立ち上がり、ドアに近づく。
「(キラー丸確。ご愁傷様)」
シディアはそう耳打ちすると、ニコニコしながら私の肩にポンと手を置いた。
頭が真っ白になった。いや、ありえないでしょう。
「あ、やっぱり間違いだったみたいですね」
シディアのニコニコ顔をみて誤解したのだろう。
違うんです。アイツは人の不幸が楽しくてしょうがないんです。今度ケーキ奢らせてやる。
カリーナは沈痛な面持ちで2人の前に座ると、深々と頭を下げた。
「キラースケルトンで間違いありませんでした。大変申し訳ありませんでした」
「あ、あの、ケガもしていませんし、無事に倒せたので。問題ありませんよ」
何この子、天使?
「そう言っていただけると、大変ありがたいです。ランクの大幅な誤認に関しては当ギルドの責任ですので、徹底調査の上、原因究明と再発防止に努めます。ノエル様には慰謝料として相応額を支払わせていただきますので、ご容赦ください」
「はい、それで結構です」
「ノエルさん、優しくて本当に助かります。無理難題を吹っ掛けてくる方も多くて・・・」
身体要求してくる奴とかザラなんです。
「現地調査もしなければならないので、追加報酬と慰謝料に関しては後日でもよろしいでしょうか」
「はい、少なくとも仮が取れるまではこの町にいますので」
「ありがとうございます。それでは、キラースケルトン討伐の詳細を今伺ってもよろしいですか?」
「はい、いいですよ」
報告書作成のため、用紙とペンを準備する。
「発生場所は近郊の墓地で・・・ホーリーレイで倒したんですよね。何発くらい撃ち込みましたか?」
「30回くらいですかね?」
「30!? ソロ討伐ですよね!? その間、キラースケルトンの攻撃はどうやって防いだんですか?」
「あ、ソロではなくてですね、ケイさん・・・こちらのポーターの方が、ずっとバリア張ってタンクしてくれました」
ノエルがケイの腕を両手で掴みながら言った。
ケイに目を向ける。
え、ポーターだよね? なんでタンクしてるの?
あとバリアってなに?
「ずっとというとどのくらい?」
「2時間くらいです」
「2時間!?」
「私、魔力枯渇しちゃって、回復に努めてたので・・・」
「・・・・・」
魔力枯渇した魔法職が自然回復するまでタンクし続けるパーティーなんてあるの?
しかも相手キラースケルトンでしょ!?
「・・・あの、ケイさん、で、よろしいでしょうか?」
「はい」
「冒険者ではないんですよね?」
「はい、この魔力量なので、冒険者にはなれなくて・・・。でもスケルトンにだけは強い体質みたいです」
スケルトンに強い体質ってなに?
「ケイさんは、スケルトンスレイヤーなんです!」
ノエルが誇らしげに胸を張った。
これ、報告書になんて書けばいいの?
カリーナの胃がまたキリキリと痛んだ。




