付与バリアの使い方
仮登録が終わったあと、ノエルとケイはFの刻印のある依頼ボードの前で依頼票を眺めていた。
「あ、スケルトン10体っていうのがあります! これにしましょう! 近場ですし」
「スケルトンって弱いの?」
「アンデッド系では弱い部類ですね。F級だとスケルトンか、ゴーストか、ゾンビの討伐になると思います」
「スケルトンかゴーストで、5件終わらせてしまいましょう」
「ゾンビは嫌なの?」
個人的には、アメリカ人が大好きなゾンビも1度見てみたい。
「アンデッド系の討伐証明って、魔石なんですよ。部位だと欠けている個体もいますし、ゴーストなんて実体ないですから。アンデッド系の魔石は何の価値もないクズ魔石なので、討伐証明にちょうどいいんです」
「なるほど、それで?」
「ゾンビの魔石って、腐った死体から引っこ抜くんですけど、やりたいですか?」
「スケルトンかゴーストで行こう!」
「行きましょー」
「こちらの依頼を受けます」
ノエルがスケルトン10体討伐の依頼票を受付に提示した。
提示された依頼票をみて、カリーナは表情を曇らせた。
「スケルトン10体ですか・・・正直、お勧めできません。こちらの依頼は3人以上のパーティー向けなんです。10体となると、囲まれる危険もありますから。初めての討伐で、ましてやソロで行かれるのであれば、もっと低難度のものをお勧めします。朝一でくれば、割の良い依頼もありますので・・・」
時間が時間なだけに、簡単な依頼は売り切れていたようだ。
これは難易度高めの依頼らしい。
どうする? とノエルへ視線を向ける。
「あの、仮登録で任務失敗した場合はどうなるのでしょうか?」
「通常の任務失敗と同じ扱いで、違約金が発生し、失敗の記録が残ります。本登録の依頼5件達成という条件には影響ありません」
「それなら受けたいです。受けさせてください」
「・・・わかりました。初任務だと無茶をしがちです。無理だと思ったら、必ず逃げてきてくださいね」
カリーナさんは困った顔をしながらも了承してくれた。
「それでは、無事のお帰りをお待ちしています」
カリーナは新人冒険者と強そうには見えないポーターの二人組を、心配そうな顔で見送った。
「お気の毒様。無謀な新人、しかも年若い女の子とくると胸が痛むわね。それに隣の、何あれ?」
隣で暇そうにしていた同僚が声をかけてきた。
「ははは・・・・はぁ」
力なく笑うしか無かった。
金持ちのボンボン新人が、ポーターと称した強力な助っ人を雇ってキャリーしてもらう事案はあったりするだが、先ほどのポーターは驚くほど魔力を感じなかった。
本当にただのポーターという事もないだろう。近場のスケルトン討伐なんかにポーターは連れて行かない。持ってもらう荷物が無いからだ。
親子ほど年が離れていたので恋人では無さそうだし、男の方が隷属させている感じでもなかった。
むしろ女の子の方がグイグイいってたような?
なんとも不思議な組み合わせだった。
あの子は十中八九、依頼を失敗してしまうだろう。
魔物討伐というのは数が1体増えるごとに難易度が跳ね上がっていく。
1匹を3人で囲むのと、3人が10匹に囲まれるのではまるで話が違うのだ。
少人数で多数を討伐するには、経験と技術がいるのだ。
ましてやソロで10匹となると、ベテランの域だ。
失敗しても、生きて帰って来れば、それは経験となる。
そう、生きて帰って来てさえくれれば。
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依頼に指定されていたスケルトン討伐の場所は、歩いて1時間ほどの場所にある墓地だった。
「随分町から離れたところに墓地があるんだね」
「この辺りはアンデッドが湧きやすい土地なので、町の近くに墓地は作れない決まりになっているんです」
・・・それじゃ墓参りも命がけだなぁ。
墓地に向かう道中、ケイはノエルにスケルトンとの戦い方を教えてもらっていた。
ノエルは実戦経験はなかったが、本の虫だった事と、おばあさんから冒険譚を聞くのが好きだった事もあって、知識は豊富だった。
「スケルトンは、動きが遅くて非力っぽく見えますが、普通の人よりずっと力が強いので注意してください」
「筋肉無いくせに力強いのか・・・」
「魔法で動いてるモンスターですからね。ケイさんの武器にはホーリーエンチャントをかけますから、2、3回攻撃すれば倒せると思います!」
先生、助かります。頭が上がりません。
「あとは、普段のろのろしていても、敵を捕捉すると急に素早く動くので、初撃入れた後に油断すると危険です」
「初撃後、油断禁物と」
「武器を持っている個体がいたら近づかないでください。私が遠距離から倒しますので」
「バリア張るから大丈夫だよ。引き付けるから、その間に攻撃してくれた方が安全じゃないかな」
「そうでした、ケイさんはバリア張れるんでした。それではタンク役をお願いします!」
タンク役というのは、攻撃を引き付ける役割のことだ。
バリアの話が出て、ケイは試してみたい事があったのを思い出した。
「そうだノエル、試してみたい事があったんだ。ノエルにバリア張ってみていい?」
「え、あれ自分以外にも張れるんですか!?」
「うん、張れる。・・・らしい」
マオからバリアを伝授してもらった時に、そんな話を聞いていた。
確か、相手に触れていればいいんだっけ。
ノエルの肩に触れてバリアを発動させると、ノエルの周りに球形のバリアが展開された。
「うわ、すごいですね!」
ノエルが興味深そうに内側からペタペタ触っている。
ノエルに張られたバリアを変形させてみようとしたが、うんともすんとも言わなかった。
どうやら自分から離れたら制御はできないようだ。
「その状態で魔法って使える?」
「やってみます。 ・・・ホーリーレイ! あれ?」
ノエルは杖を構えて魔法を放ったが、バリアの内側にぶつかって即消滅した。
バリアを張ったまま魔法が使えれば無敵砲台の出来上がりだったのだが、そんなうまい話は無かった。
今度はケイ自身にバリアを張ってみる。
「あ、消えましたね」
ノエルに張っていたバリアが消滅した。
これもマオに言われていた通り、バリアの複数展開はできないようだ。
もう一度ノエルに触れて、ノエルにバリアを張る。
「最後の実験。そのまま歩いて、僕から離れていってもらえる?」
他の人に張ったバリアは離れたら消えると言われていたので、有効範囲を知っておきたかった。
ノエルがてくてくと先に進んでいく。
30mほど離れたところでバリアが消えた。
一緒に戦闘している最中なら問題無い距離だろう。不意に消えるという事は無さそうだ。
触れないと張れない、自分と同時には張れないという点では使い勝手悪いけど、いざというときに守る手段としては使えそうだ。
立ち止まったノエルに小走りで追いつく。
「離れると消えちゃうんですね」
「そうだね。使い方は確認できた。行こうか」
「・・・・」
ノエルがジト目している。
「ん? 何?」
「いざという時、自分を疎かにしても私を守ろうとか思ってませんか?」
・・・この子、なんで考えてる事分かるの?
「ケイさん、もう一度いいますけど、自分を犠牲にして私を守るのはやめてください。守ってもらえるのは嬉しいです。でもそれは、自分自身も守れる事前提でお願いします」
「はい、わかりました。約束します」
「もう、本当に分かってますか?」
そう言うと、ノエルはケイの腕取って歩き始めた。




