冒険者登録
ハーブ村から乗り合い馬車に乗って3日目、ケイとノエルはハーブ村の西にある大きな町、ニパドラに到着した。
「足腰固まるし、お尻が痛い・・・」
「乗合馬車ってこんなに過酷なんですね・・・お尻が痛いです・・・」
2人は乗合所の近くにあったベンチに腰掛け、しばらく動けずにいた。
クッションありきの日本人ケイと、布団の住人だったノエルには、硬い荷台に座って丸一日振動に耐える乗り合い馬車は耐え難いものだった。
「まずは宿探そうか。しばらく滞在する事になるし、お金そこそこあるから、奮発して良い宿に泊まっちゃおう」
「そうですね。そうしましょう」
路銀はクリスティナから報酬として貰った銀貨に加え、カイルさんからも結構な額を援助してもらったので余裕があった。
「明日はいよいよ、冒険者登録ですね。だ、大丈夫でしょうか・・・」
「ノエルなら大丈夫」
国を跨いで旅をするなら冒険者登録か商人登録は必須という事で、2人で話し合った結果、この町でノエルに冒険者登録をしてもらう流れとなった。
ノエルの話によると、冒険者登録はまず仮登録という形になり、依頼を5件こなすと本登録となるとの事。仮登録は、登録したギルド以外では無効となる為、少なくとも5件は依頼をこなさないと町から動けないのだ。
ニパドラでの登録を決めた理由は、ハーブ村のギルドでは敵が強すぎてFランクの依頼が無いからだ。
ニパドラは、古戦場の跡地が近くにあり、アンデット系のモンスターが多く、神聖魔法が使えるノエルには有利だという理由もあった。
ケイは冒険者ノエルが雇っている荷物持ち《ポーター》という事にして誤魔化す予定だ。
ポーターは立派な職業。ヒモではない。決してヒモではないのだ。
2人は凝り固まった体のストレッチをした後、快適な宿を求めて歩き始めた。
「お部屋は一緒で。ベッドも1つでお願」
「ベッドは2つで! 2つある部屋でお願いします!」
浴場があるというお高めな宿を見つけ、宿泊手続きをしているとノエルがとんでもないことを口走りそうになった。
セキュリティ上、部屋は一緒という事で事前に決めていたが、一緒のベッドに寝る気だったとは思わなかった。
「野宿の時は同じテントで寝たんだからいいじゃないですかー」
ノエルが振り向いて不満げに口を尖らせた。
よくありません。
-----
翌日、ゆっくり朝食を済ませた後、まず武器屋に向かう事にした。
朝の混んでいる時間帯に冒険者ギルド行っても、ろくなことにならない気がしたからだ。
ニパドラは、想像していたよりずっと大きな町だった。
馬車が余裕ですれ違える広さのメイン通りにはお店がびっしりと並び、所々から良い匂いが漂ってきている。
高い建物も多く、時計塔や教会のような建物も見える。
「ずいぶん大きな町だね」
「王都が近いですからね。王都とフリューゲル領を行き来する際には、必ずこの町を通ります。ですから、人も多いですし、流通も盛んです」
「なるほどね」
メイン通りを歩いていると、武器屋はすぐに見つかった。
買うのは僕の武器だ。
登山用ナイフは持っているが、この辺りに出るのはアンデッド系という事で、リーチの短い武器は役に立ちそうもなかった。
武器屋に入ると頑固そうなオヤジさんが、
「いらっしゃい、好きに選んで」
と声を掛けてくれた。
魔力無しは追い出されるかも、なんて構えてしまったが、卑屈になりすぎているのかもしれない。
ノエルと相談しながら選んだ武器は・・・・棒。
1mくらいの木の棒で、握り部分に布が巻いてある。
日本だと「警杖」、某国民的RPGだと最弱武器として有名な「ひのきの棒」だろうか。
剣は歯の立て方が分からないし、メイスは僕には重かった。
もっと筋力付けねば・・・。
「私、ホーリーエンチャント使えますから。アンデッドには切るより鈍器です」
というノエルの勧めもあって、これに決めた。
会計の際に、
「剣を持ってきたら追い出そうと思っていた。身の丈に合った良い選択だ」
なんて言われてしまった。良い人だった。
次は雑貨店。
[アンデッド特化の化膿止め]を数本買った。
ノエル曰く、アンデッド討伐には必須とのこと。
店内を眺めていて気になったものがあった。
分厚い札のようなものに火のマークや雪の結晶のマークが書いてある。
何に似ているかといえば・・・細長いホッカイロ?
「この分厚い札みたいの、何?」
と、ノエルに聞いてみた。
「これは魔法札ですね。魔石を特殊加工した粉が入ってて、貼って真ん中の紙を引き抜くと発動します。火は魔獣の焼却処分、氷は可食部の冷凍なんかに使うことが多いみたいです」
「おお、便利。これなら僕でも使えるんじゃないか?」
「そうですね! 買っていきましょうか!」
という事で、火の魔法札を5枚も買ってしまった。
これで僕も魔法が使える!
なんて喜んでしまったが、これよく考えたらガストーチ(携帯用バーナー)持ち歩いてるのとなんら変わらない事に気付いてしまった。
現代科学って魔法と変わらないよね、ほんと。
-----
日も高くなってきた頃に、冒険者ギルドへ。
ギルドの建物の外観はハーブ村とほとんど一緒だった。
一目で分かるよう、外観を統一しているのかもしれない。
中に入ると、人はまばらで受付もガランとしていた。
併設されている酒場には、もう依頼を終えたのか、早めのランチをしているのか、3つのテーブルが埋まっていた。
ノエルが緊張した面持ちで受付に向かう。
「あ、あの、冒険者登録をお願いしますっ」
「はい、かしこまりました」
受付にいたのは人当たりの良さそうな女性で、年齢は25歳くらい。ウェーブのかかった柔らかそうなブロンドを肩の上あたりで揃えていた。
名札には「カリーナ」と書かれていた。
なぜ冒険者ギルドの受付嬢は美人しかいないのだろうか。
「魔法職ですね。冒険者の仕事についてはご理解されていますか?」
「はい、おばあさまがB級冒険者でしたので」
え、エレナさんって冒険者だったの? 物腰の柔らかそうなザ・おばあちゃんって感じだったけど。しかもB級って結構すごいのでは?
「それなら問題ありませんね」
カリーナさんはふわりと笑った。完璧な営業スマイル、100点です。
「えっと、後ろの方はお父様ですか?」
・・・後ろを向くが誰もいない。
「?」
「?」
カリーナさんが不思議な顔でこちらを見ている。ぽかんとした顔も可愛い。
・・・って、僕か! 今は見た目がおっさんなの忘れてた!
「この方はお父様ではありません。恋びt」
「ポーターです! この子に雇われたポーターです!」
ざわざわ・・・
「(おい、保護者じゃなかったみたいだぞ)」
「(登録前にポーターとかどこぞのお嬢様か?)」
なんでギルドの酒場にいる冒険者って必ず聞き耳立ててるの!? もう衝立とか立てた方がいいよ!?
「そうでしたか、失礼しました。それではこちらに必要事項をご記入ください」
ノエルは用紙とペンを受け取ると、カリカリと記入を始めた。
カリカリカリカリ・・・・
「ケイさん」
ノエルが用紙に目を落としたまま、無表情で呼びかけてきた。
分からないところでもあったかな?
カリカリカリカリ・・・・
だが、手は止まっておらず、ペンを走らせている。
「鼻の下伸びてますよ大概にしてくださいね」
カリカリカリカリ・・・・
「ご、ごめんなさい・・・」
無表情無感情で怒られるのってこんなに怖いのか・・・
「書けました」
ノエルが用紙を提出する。
「ありがとうございます」
カリーナさんがふわりと笑う。ノエルさんの方が可愛いです。ノエルさんの方が可愛いです。
「確認しますね・・・・・・・え、回復魔法使えるんですか!? あっ!」
書類に目を通していたカリーナは驚きで声を上げてしまい、直後に失態に気付いた。
ざわざわ・・・
「(おい、今回復魔法って言わなかったか?)」
「(さすがに虚偽だろ)」
「(本当だったら早い者勝ちだぞ、お前声かけて来いよ)」
ポーションの無い世界、怪我の多い冒険者にとって、回復魔法はとんでもなく貴重だ。
大怪我をして、治してもらった身として、それは痛いほど分かる。
「あ、違った! 神聖魔法でした! ごめんなさいっ!」
カリーナは慌てて訂正した。
ざわざわ・・・
「(なんだ、神聖魔法か)」
「(いや、でもなんか怪しくないか?)」
カリーナは胸の前で小さく手を合わせ、両目をつぶって無音で「ごめんなさい」と口を動かした。
美人がそれやったらズルいでしょ。可愛すぎて何でも許sドスッ!
ノエルの肘がケイの脇腹に刺さった。
え、なんで考えてる事分かるのノエルさん・・・
「あはは、回復魔法なんて使えませんよ。使えたらとっくにC級にはなってますよ」
「そうよね。(ほんとごめんなさい!) はい、これ、F!級!の仮ライセンスです!」
F級を強調していたけど、誤魔化せたかは微妙な感じであった。
ちなみに、仮ライセンス証はタグではなく、カードのようなものだった。
「仮ライセンスの制度もご存知ですか?」
「はい、依頼5回達成で仮が取れるんですよね」
「その通りです。期待していますので、がんばってください!(ほんっとごめんなさい!)」
カリーナは最後まで謝り通しだった。




