年取りました
(うーん、実際に鏡で見ると結構へこむなぁ)
ケイは屋敷の浴室の丸鏡に映る自分を見てショックを受けていた。
肌にツヤが無く、顔の印影が濃くなっていて、白髪もちらほら。
どう見ても30代半ば。
とても実年齢22歳には見えない。
異世界に来て若返る話はよく聞くけど、年取ったのは自分くらいなのではと苦笑してしまった。
(こんな情けない顔、ノエルには絶対見せられないな)
ノエルは14歳。いや、今日で15歳か。しかも女の子でもっとひどい状態だったのだ。
ケイは両手で頬を叩くと気持ちを切り替えた。
浴室を出ると、エレナに髪を切ってもらったノエルが恥ずかしそうに待ち構えていた。
「あ、あの、どうでしょうか?」
肩口で切りそろえられた銀髪、さらさらの前髪にふわふわの猫耳。
「いや、びっくりするくらい可愛いよ。ほんと、びっくり」
語彙の少ない自分が恨めしい。
「え、えへへ・・・」
ノエルがふにゃりと笑った。
うん、自分が加齢したことなんてどうでもいいな、ほんと。
ケイは心からそう思った。
-----
ミラビリスの行方を探すにあたり、まずはカイルさんに真祖ミラビリスの書いた本を見せてみた。
以前ははぐらかされたが、呪いをかけた人物が確定され、解く手段があると分かれば誤魔化す事はしないだろう。
「こんな本が存在していたとは・・・」
カイルは驚いた顔をした。
フリューゲル家の禁書庫でもこの本は見たことがないという話だった。
呪いを受けた(申し込んだ?)当時のフリューゲルさんが醜聞が悪くて処分してしまったのだろう。
得た能力が回復魔法だった事を考えると、大事な人の命に関わるような切羽詰まった事情があったのかもしれないが、それでも許されるような事ではない。
「真祖ミラビリスの存在は知っていたんですか?」
「知ってはいた。だが、フリューゲル家は、ミラビリスも呪いの被害者の一人だと考えていた。200年程前に死亡したとされているからね」
死亡・・・いやそんなはずはない。呪いは継続しているのだから。
200年間消息の分からない人物を探すのか・・・。捜索はそう簡単な話では無さそうだ。
「それなら、当然、今どこにいるかなんて事は・・・」
「分からない。何の力にもなれず情けないよ。元・領主が聞いてあきれる。君はこんなにもノエルの力になってくれているのに。本当に情けない」
「そんな事はありませんよ。ノエルはお二人にずっと感謝していましたよ。話していればわかります」
「うぅぅ・・・」
カイルさん、ノエルが若返ってからずっと泣きっぱなしだ。
ミラビリスの死亡した場所は、ガステリア魔法王国となっているそうだ。
他に手がかりがない以上、その王国で痕跡を探す事くらいしかできる事が思いつかない。
その国には世界一の蔵書を誇る大図書館もあるとの事なので、そこを調べれば何か手がかりが見つかる可能性もある。
-----
ノエルの15歳の誕生日を祝った翌日。
長テーブルの端で地図を広げて、ノエルに地理の講義をしてもらっていた。
「今いるエスクート王国がここです」
「この国の名前、エスクートって言うんだ、初めて知った」
「え!? 今まで知らなかったんですか!? クリス様と旅してましたよね!?」
聞く機会なかったんです。
あの人、元王女だなんて微塵も匂わせなかったので、ホントそういう事に興味ないんだと思います。
「もう。仕方のない生徒さんですね」
尻尾で背中をペシペシ叩かれる。
「あの、ノエルさん、普通向かいに座りません?」
「それで、エスクートの東の端にあるのがハーブ村です。ここの西にあるニパドラっていう大きな町と、パラレクスを含む東の国境までと、南側ぐるっとフリューゲル辺境伯領になります」
フリューゲルの領地広っ。あとノエルって辺境伯の娘さんなの!? 辺境伯
ってすごい偉い人だよね!?
「ニパドラから北西に向かうと王都エスクート。そこから西に進むとガステリア魔法王国です。さらにその西側がリトープス共和国。で、海に出ます。リトープス共和国は冒険者の国と言われていて、迷宮や古代遺跡がいくつもあるそうですよ」
「地図の南側が全部斜線引かれてるのは何故?」
「南に行くと、ある境界線から急激に魔素が濃くなって、人は入れないからです。そこから先には魔人と呼ばれる種族が住んでいると言われています。魔人も境界線より北は魔素が薄すぎて入って来れないので、人との交流はありません」
北半球は人、南半球は魔人って感じで棲み分けてる感じなのかな。
「じゃあ、昨日説明した通り、まずはガステリア魔法王国を目指そうと思うから、西のニパドラって町を経由して、北西の王都エスクート。そこからガステリアへって感じでいいかな」
「はい! どこまでもお供します!」
ノエルに懐かれるのは嬉しいんだけど、万全の信頼がちょっと怖い。
ノーって言えるの大事だよ?
「あ、言い忘れてましたけど、ガステリアは魔法至上主義という事もあって、魔力量偏重がひどい国なんです。魔力の無いケイさんはいじめられちゃうかもしれません」
え、ハーブ村のギルドでもプゲラされたんですけど、あんなものじゃないってことですか?
前途多難・・・
「そうしたら、私が守ってあげますね!」
ノエルがケイの腕にしがみついた。
「・・・よろしくお願いします」
15才の女の子に守ってもらうおじさん(実年齢22才)ってどうなんだろうか・・・。
-----
「それじゃ、行こうか」
「はい!」
ノエルが元気よく返事をした。
薄い青と白を基調とした、薄手のネコミミパーカー。背中には小さなリュック。手には背丈ほどもある杖を持っている。杖の先端の羽根の意匠が施してあり、そこに魔石がはめ込まれていた。
猫耳魔法使い。とても良く似合っている。
フリフリしてる白いしっぽの先にリボン付けたい。
出発するにあたり、カイルさんからは
「孫に手を出したら分かっているね?」
との耳打ち、釘を刺された。
エレナさんからは、反対の耳に
「折を見て手を出してあげてくださいね。フフフ」
と、その釘を抜かれた。
なぜ、この国の女性は未成年の身内に手を出させたがるのか。
ニパドラを経由して王都へ。
クリスティナにも会っておきたかったので、王都に寄れるのは丁度よかった。
あ、でも年取ったから僕って分からないかも・・・どう説明したものだろうか。




