この世界に来た意味
カイルさんの言葉。
「ノエルは生まれてから1度も血を吸っていないんだ。血を吸わなかった者は決まって15歳を過ぎた頃に死を迎える。もう時間が無いんだ」
ノエルの言葉。
「むぅ、私、もう14歳なので、ちゃんは失礼ですよ!」
単純な引き算をして、1年は猶予があると思い込んでしまった。
エレナの言葉。
「明日はノエルの15歳の誕生日ですから」
なんてバカなんだ、僕は。
部屋に入ると、夕日で金色に照らされたベッドの中でノエルが丸まっていた。
「ただいま、帰ったよ」
「ケイさん?」
逆光の中で、ノエルがもぞもぞと半身を起こした。
「ケ・・・ケイさん?」
ノエルは探るように両手を彷徨わせる。
こちらを見てはいるが、きょろきょろと視線が動いて目が合わない。
「ど・・どこですか?」
様子がおかしい。
慌てて駆け寄って手を取ると、ノエルは縋るようにしがみついてきた。
「ケイさんっ! ケイさんっ!」
間近で見たノエルの目は白く濁っていた。
「ケイさん・・・ケイさんの匂いだ」
ノエルはケイの首にしがみつくと、鼻をすんすん鳴らして安心したように呟いた。
ケイはノエルを強く抱きしめ、頭を撫でる。
「ケイさん。おかえりなさい」
「・・・っただいま」
必死で声を絞り出す。震えていなかっただろうか。
「ケイさんっ。無事に帰ってきてくれて良かったです。・・・良かったですぅ」
涙で声が出なかった。
「ケイさん・・・私、あんまり見えなくて・・・朝起きたら、世界が白くなってて・・・もう、全部無くなっちゃったって思って・・・ケイさんにももう会えないんじゃなかって・・・」
この子が何をしたというのだろう。
他人の命を奪わないと誓った事が罪なのか?
「・・・私、もう死んじゃってもいいやって思ってたけど・・・やっぱり死にたくない・・・死にたくないです。・・・ケイさんとずっと一緒に生きたいです」
まだ14歳だろ?
14歳の女の子の、ただ生きたいというささやかな願いも叶わないのか。
そうか、この世界には神様なんていないのか。
もしいたら、僕が殺してやる。
「でも、やっぱり人の命を奪いながら生きいくのも絶対イヤなんです。・・・わがままでごめんなさい」
・・・・・・。
自分がこの世界に来た意味を見つけたような気がした。
「ノエル、山に行く前にしたお願い、覚えてる?」
「わ、忘れるはず、ありませんっ」
「じゃぁ、目をつぶって。」
「ふぇ・・・ほ、ほんとにするんですか?」
「もちろん」
ノエルがきゅっと目をつぶる。
両手でノエルの頬を包み込むと、やさしくキスをした。
「ふゎ・・・キ・・・キス・・・しちゃいました。・・・えへへ」
ノエルは顔を赤らめながら、ふにゃっと笑った。
「お姫様、魔王を倒して、呪いを解く薬を手に入れてまいりました」
「ほ、ほんとですか!」
「本当です。ウソはつきません」
ウソツキはみんなこう言うんです。
「す、すごいです!」
登山用リュックから小瓶を取り出す。
呪いを解く薬が入った小瓶だ。
「これがその薬」
ノエルの両手に握らせる。
「ほ、ほんとです。やっぱり、に、苦かったりしますか?」
「ちょっとしょっぱいかな・・・」
その小瓶には『食卓塩』と書かれていた。
「飲ませてあげるから口開けて」
ノエルが素直に口を開ける。
可愛らしいキバが見えた。
ケイは薬を飲ませるふりをして、そのキバに人差し指を突き刺した。
ノエルの口の中へ、鮮血が流れ落ちる。
山からの帰り道、ずっと考えていたことがある。
・寿命は相手と契約する事で、渡す量を自由に決められる。
・相手の願いを聞く事の対価として、寿命を奪う吸血鬼がいる。
それならば・・・
キスをしてもらうという願いは叶えてもらった。
契約は成立している。
「ノエル、全部飲んでね」
「ふ、ふぁい」
こくんと喉が鳴る。
「僕の寿命、全部あげます」




