誕生日
「考えが甘かった!」
ケイは森の中でピョンタに追われていた。
木々をなぎ倒しながら突進してくる3トンの巨体を横に飛びのいて躱した。
どうせ帰りも魔物には遭遇しないだろうと高を括っていたケイだったが、巨大なイノシシとバッタリ目があってしまったのだ。
以前遭遇した時は、クリスティナが「ちっ、ザコか」と残念そうに瞬殺していたので、クマじゃなくて良かったと安堵した。
とんでもない間違いだった。
「はぁ・・・はぁ・・・誰だよコイツにピョンタとか可愛い名前付けた奴!」
それがギルド長のガイゼルであることは、ケイには知る由もなかった。
ピョンタが再びケイに迫る。
ピョンタは突進する際は直進しかできないので、ケイでもかろうじて避ける事ができていた。
しかし、素人が何度も避け続けられるものではない。
ケイは自分の後ろに巨木が2本立っているのを確認し、バリアを張った。
ドーーンという重低音と共に、巨木が大きく揺れ、何羽かの鳥が飛び立った。
(こんなの受け方間違えたら即死だぞ・・・。クマの方がマシだったんじゃないか?)
ケイの額に冷や汗が流れた。
マオ製バリアは突進攻撃に弱い。
例えば、頑丈なカプセルに卵を入れたとする。切りつけても踏んづけても卵は割れないが、カプセルごと壁に投げつければ粉々に割れてしまうのだ。
今回は巨木を後ろに回して衝撃を逃がす事に成功したが、吹っ飛ばされたら終わりだ。
突進は横に避けるか、後ろに衝撃を逃がせる場所にてバリアで受ける。
この二つを徹底しながらケイはひたすら逃げ続けた。
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「ぜぇ・・・ぜぇ・・・しつこすぎるぞ!」
1時間経ってもまだ追いかけっこは続いていた。
ケイはバリアを張って多少は休めるが、イノシシの方は走りっぱなしだ。
どんな体力してるんだよ・・・。
こんなバケモノを瞬殺していたクリスティナってほんと規格外だったんだな・・・。
ケイは改めてクリスティナの異常さを痛感した。
「しめた、川だ!」
大きな川に行きついたケイは、バリアを張って飛び込んだ。
バリアは浮くので、流れに乗って逃げる事ができる。
ピョンタはさすがに川の中までは追ってこず、さんざん追いかけ回した獲物に逃げられ、悔しそうに鼻を鳴らしていた。
「ふははは、さらばピョンタ! もう会う事はないだろう!」
アドレナリンでテンションが上がっていたケイは、ピョンタに向かって中指を立て、高笑いをした。
後方に大きな滝が迫っていることにも気づかずに。
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「うぇぇ、酔った・・・」
滝つぼでしばらく洗濯物の気分を味わったケイは、運よく流れに乗って辿り着いた川辺で吐きそうになっていた。
「戦闘中に独り言が多くのなるの・・・、ティナの影響かなぁ・・・」
冷静になったケイは、先ほど逃げ回っていた時の自分の言動を省みていた。
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ケイはピョンタに追われた事で方向感覚が狂ってしまい、森で迷う事となった。
あの後すぐにコンパスで方角を確認すればよかったものを、往路が調子良かった余裕もあって、狂った方向感覚のまま歩き出してしまったのだ。
結果、進路が大きく東にずれてしまった。
魔物にビクついてペースが落ちた事もあり・・・
「9日もかかってしまった・・・」
往路の貯金を全て吐き出していた。
まあ、往復14日だから、予定通りと言えば予定通りか。
時刻は夕刻、ぐったりしながら別荘の扉をノックする。
「おぉ、ケイさん。良く戻ってきてくれた。間に合ってよかった」
と、カイルさんが少し疲れたような顔で出迎えてくれた。
・・・間に合ってよかったって何だ?
背中に冷たい汗が流れた。
「ノエルの具合がだいぶ悪くてね、すぐに会ってやってほしいんだ」
疲れてはいたが、荷物を置くこともせずノエルの部屋に向かった。
「今日はずっと一緒にいてやってくださいな。明日は少し凝ったものを作りますから、一緒にお祝いしてやってください」
ロウソクを手に部屋まで先導してくれていたエレナが、階段を登りながらそんな事を言った。
「明日はノエルの15歳の誕生日ですから」
——いつから僕は1年も猶予があるなんて勘違いしていた?




