呪いをかけた犯人
「おら、見たか! 2日も短縮してやったぞ!」
ケイは拳を突き上げ、天に向けて啖呵を切った。
疲れと睡眠不足でテンションがおかしくなっていた。
街道まではカイルさんに馬車で送ってもらい、そこから森を抜けて5日。
ケイは洞窟の前に立っていた。
町を出てから最短で7日、迷ったら10日かかるのを覚悟していたので、驚異的なスピードと言えた。
ノエルの事を想うとじっとしておられず、ろくに休憩も取らず、完全に暗くなるギリギリまで歩き続けていたことが原因だった。
ちなみに、道中の魔獣遭遇数はゼロだった。
すごくないか? 魔力無し。
頭の悪そうな雄叫びに気付いて、マオが外に出てきた。
『やあ、ケイ。お早いお帰りだね』
帰ってきたのはすごく久しぶりな気がしていたが、よく考えるとまだ一ヶ月と経っていない。
『やっぱりモテなくて帰ってきたのかい?』
顔が真っ黒なので表情はないのだが、絶対にニヤニヤしている。
「ふっ」
ケイは余裕の笑みを浮かべた。
「頬にキスされた」
『花街にでも行ったのかい?』
「この国のお姫様に、だ」
元、だけど。
『・・・バカな』
マオとの会話は念話なので、ある程度真偽が伝わる。そう、ウソではないのだ。
「さらに、帰ったらキスする約束もしてある。別の女性とだ」
『なん・・・だと・・・』
「領主の娘だ」
『普通にすごいな』
うん、ただの成り行きなんだけど、よく考えるとすごいね。
ケイは、洞窟の横に転がっていたはずのデカイヤギの骨が無くなっている事に気付いた。
「マオさん、そこにあったヤギの骨どこやった? 3頭分くらいあったよね」
ティナ曰く、あれ1頭分の角で家が建つらしい。
「邪魔だったから、高温で燃やして灰にしたよ」
ケイは膝から崩れ落ちた。
洞窟の総資産が少し目減りしていた。
-----
少し休んでランナーズハイが落ち着いてきたケイは、本題に入った。
「戻ってきた理由なんだけど、呪いに苦しめられてる子がいて、どうしても助けたいんだ。マオが何か知らないかと思って」
『呪いって具体的にどんなの?』
「寿命が減り続ける呪い。でも他人の血を吸うと寿命を奪って延命できるんだ。そうだ、本を持ってきてた」
『吸血鬼・考察』と書かれた本をマオに渡した。
「その本の前半に書かれているような症状に覚えない?」
マオはパラパラと本をめくって速読し始めた。
「先祖代々続いてる呪いらしくて、かけられたのは1000年くらい前らしい。1000年も持続できて魔術に詳しいってことで、悪いんだけどマオが関わってる可能性も疑ってる」
「ボクは呪いは素人だよ。興味ない」
あっさり白だった。
「あー、疑って悪かった」
『? 別に悪くないよ。当然の帰結だと思うけど』
「疑われたら普通怒っていいんだよ」
マオはやっぱり良い奴だった。
「そうだ、以前、対価払ったとか言ってたよね、書庫の本の対価」
『言ったね』
「その時の言葉が引っかかってたのもあるんだ、マオを疑ったの。対価って何をしたの?」
『魔法都市で賢者名乗ってたヒトに、体の一部を分けたんだよ。ほんのちょっとね。人工的に魔素溜まり作るとか言ってたかな』
「そうなんだ。ごめん、考えすぎだった」
マオがパラパラと速読していた本をパタンと閉じた。
『思い当たる節はあるかな』
「ほんと! 助かる!」
『呪いかけたのミラビリスじゃないかなぁ』
「誰? 有名人?」
『たぶんヒト族・・・いや、違うのかな。薬やら呪いやらで強化しすぎてて良く分からなかった。700年くらい前にケンカ売られて戦ったんだよ。インターバル中に雑談した時に、なんかそれっぽい呪い完成させたから不死になったとか言ってたような』
インターバルって何だよ。
「戦闘中にインターバル作って雑談とかするんすか?」
『1年くらい戦ってたからね。最後はバテて帰っていったけど』
「1年!? 泥沼すぎません!?」
『吹雪くと戦いにならないから洞窟にちょいちょい避難してたんだよ。あといい暇潰しだったから、適度に手を抜いて引き伸ばしてたってのもある。でも強かったよ』
「マオさんにそこまで言わせるとは・・・」
『自称『勇者』だったかな。でも人からは『真祖』って呼ばれるって嘆いてたな』
『真祖? あ、なんかすごくソイツっぽい!』
『確か本人が書いた本、置いていったような。直筆サイン入りで』
「なんでそんなフレンドリーなの!?」
マオが持ってきたのは、重ねた紙を折り曲げて糸で縛っただけの簡素な本だった。
真祖が書いた本と聞いて、ハードカバーの分厚い本を想像していたので拍子抜けだ。全部で10ページくらいしかない。同人誌?
ペラっとめくってみる。
中身は、呪いの詳細や利用法が丁寧に図解入りで説明してあり、すごく分かりやすかった。
なんだこれ、入門書か?
この呪いは簡単にいうと、
・被呪者には、他人から寿命を奪う能力を与えられる。
・対価として、被呪者は寿命の一部を真祖に献上する。
という事らしい。
要は不老不死にしてやるかわりに、寿命税を納めろよと。
税は常に搾り取るから、死にたくなければせっせと集めろよって事か。
真祖には寿命が献上され続けるので、何もしなくても永遠に生き続けられるって寸法だ。
そして最後のページには、
[あなたもわずかな寄与で永遠の不老ライフを! 今なら長期契約でお好きな能力をプレゼント!]
と書かれていた。
あ、これ、入門書じゃなくて、会員募集のパンフレットだ。
フリューゲル家のご先祖様は、特典に目がくらんで長期契約を結んでしまったんだな。迷惑な話だ。
つまり、ノエルの寿命は単に減っているのではなく、真祖に吸われ続けてるという事だ。
寿命を奪う方法についても書かれていた。
・同意なく強制的に奪った場合は1年分の寿命が奪える
・相手の同意があれば、自分の意思で奪う量を決められる
・相手と何らかの契約する事で、渡す量を自由に決められる
とあった。
無理やり相手から全ての寿命を奪えないのは、呪いを作ったミラビリスさんの良心なのかね。
なんか意外とまともな人に思え始めてきた。
『吸血鬼・考察』にあった
・手当たり次第に襲う吸血鬼
・魅了して相手を虜にしてから襲う吸血鬼
・相手の願いを叶えた対価として吸血する吸血鬼
と、タイプの違う吸血鬼がいた理由もこれで判明した。
・処女だけを狙う吸血鬼
こいつはたぶん、本当にただの処女厨だ。
結論としては、フリューゲル家に呪いをかけたのは真祖ミラビリスでほぼ確定。
呪いを解くには真祖に契約を破棄してもらうか、真祖を殺すかだ。
寿命を献上する相手がいなくなれば、呪いは確実に解ける。
「マオ、ミラビリスって今どこにいるか知ってる?」
『さすがに知らない。700年も前に戦ったきりだからね』
「ちなみに、その呪い、マオなら解けたりしない?」
『呪いを壊すことはできる』
「え、ほんと!?」
『でも、カギの掛かった箱を箱ごと叩き潰すようなものだから、被呪者もタダでは済まない。呪いっていうのは繊細だからね。基本的にかけた本人にしか解けないんだ。箱を綺麗に開けられるのは、カギを持ってる本人だけって事』
マオなら呪いなんて簡単に解けるかもと淡い期待をしていたのだが、強引に力業でってわけにはいかないようだ。
しかし、呪いをかけた相手が分かっただけでも大収穫だ。
ミラビリスに会えれば呪いが解けるかもしれない。
やる事は決まった。
真祖ミラビリスを探す。
ノエルの寿命が尽きる1年以内に。




