デート
「元気になりました!」
なってない。
4日目、熱が下がったとの事でノエルの部屋に行くと、布団に入ったままのノエルが首だけ動かして出迎えてくれた。
半身も起こさない。
布団をバンバンもしない。
「ケイさんっ。今日は、お願いがあります」
ノエルは気だるそうな声でいった。
「いいよ。はい、あんまり痛くしないでね」
そういって右腕を差し出した。
「ち~が~い~ま~すっ!」
「お願いしますから吸ってください」
「いやです! 絶対にお断りです!」
べ~っと可愛らしく舌をだす。
いやもうホント意地張らず吸ってほしいんだけど。
「お願いというのはですねぇ」
布団に顔半分潜ってしまった。
「ケイさんと、デートがしたいです!」
ガバッ!
完全に潜ってしまった。
そういえばこの子、恋愛脳だったなぁ。
「嬉しいお誘いだけど、今の体調じゃ無理だよ。起き上がるのも無理でしょ?」
布団から半分顔を出す。
「大丈夫です。ケイさんに抱いてもらえればっ」
ガバッ!
完全に潜ってしまった。
「(きゃー、言っちゃいました言っちゃいました言っちゃいました)」
確信犯かよ! 今、明らかに誤解を受ける言い回ししたよね?
「いや、でも体に障るし・・・」
真っ赤になった顔を半分出した。
「か、身体に触るんですか!?」
いいかげんしとけよこのムッツリスケベ!
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と、言うわけでデートである。
今は部屋の外で待機中。
中ではノエルがエレナに着替えさせてもらっている。
デートしてみたいというお願いを無碍にはできず、カイルさんに相談した結果、2時間だけという条件で許可がおりた。
病み上がりではあったものの、この先体調が良くなる保証もないのだ。
始めはカイルさんが、自分同伴という条件を出したが、
「デートにおじいさまを連れてくる女性がどこにいますか!」
と、真顔で怒られて凹んでいた。
「どうぞ」
エレナさんの声がした。
中に入ると、もこもこのネコミミ付きパーカーを着込んだノエルが恥ずかしそうにベッドの端に腰掛けていた。
「やあ、ノエル。待った?」
そう声をかけた。
「? !! い、今来たとこです!」
ノエルは嬉しそうに答えた。
「今日はおしゃれで一段と可愛いね」
そう言ってノエルをお姫様だっこした。
「お、重くないでしょうか・・・」
——ぬいぐるみより軽かった。
「・・・・・・ちょっと重いかなぁ」
「! ケイさんっ、ひどいですっ!」
軽いよ、という言葉がどうしても口から出てこなかった。
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屋敷の裏に小規模な湖があった。
村の水源になっている半人工湖だそうだ。
その湖畔を歩く。
背中にはカイルさんに貰った小さなリュック。中にはエレナさんが作ってくれたサンドイッチと、お茶の入った水筒、ピクニックシートが入っている。
目の前にはもちろんお姫様を抱えている。
「体調悪くなったら言うんだぞ」
「もうっ、野暮なことは言わないでくださいっ!」
お姫様はおむずかりだ。
季節は春。
天気も良く、最高のデート日和だった。
「外に出るの、久しぶりですっ」
「いい天気で良かったね」
湖を少し回り込んだところに柔らかそうな草地があったので、ピクニックシート広げて二人で座った。
「あ、このサンドイッチ、フェリカ族に貰ったパンだ」
「フェリカ族って、旅のお話に出てきた人たちですよね?」
「そうそう、パルク元気にしてるかなぁ」
「むぅ、デート中に他の女性の話をするのは減点ですよ!」
「大丈夫、パルクは男の子だ」
「・・・本当に男の子だったんですかぁ? 数年後に訪ねたら実は女の子で結婚するってお話、ありましたよ?」
さすがノエル書房、恋愛面のパターンが豊富だ。
グゥグゥと変な鳴き声を出しながら、黒いカモみたいな鳥が寄ってきた。
人慣れしているので、カイルさんかエレナさんがエサをやっているのかもしれない。
ノエルが楽しそうにパンの欠片をあたえている。
「ノエルの呪いなんだけど、手がかりが見つかったかもしれないんだ。ほら、旅の話の最初に出てきた悪い神様いただろ、パラレクスの悪神」
「あれは本当のお話なんですね」
「ああ、このデート中はウソは付かないって誓うよ」
「他の世界から来たっていうのも?」
「本当」
とくに驚いた様子はない。
あんな世迷言を信じてくれていたのかもしれない。
「その悪神が呪いをかけた本人かもしれないんだ」
「そうなんですか!?」
「根拠は薄いから、あくまで可能性でしかないんだけど」
「やっぱり、悪い神様なんですね!」
すまん、マオ。悪い神様に認定されてしまった。
「それで、一度その悪神に会って来ようと思うんだ。明日出発しようかと思ってる」
「パラレクス山に登るんですか!?」
「ああ、心配しないで、あそこ実家みたいなものだから」
「で、でも、登れたとして、悪神が襲いかかってきたらどうするんですか!?」
「大丈夫、僕は勇者の聖剣より強い武器を持ってるから」
「本当に?」
「ウソは付かないって言ったでしょ」
そう、マオに対しては聖剣より強い武器を持っている。
<僕に対する負い目>という武器だ。
聖剣はたぶんマオには刺ささらないけど、こっちは刺さる。
「そういうわけだから、往復14日くらいかな。しばらく出かけることになる」
「本当に行くんですか?」
「行く。もう決めたんだ」
「1人でですか?」
「1人の方が安全なんだよ」
ティナがいれば話は別だが、中途半端な護衛を雇ってエンカウント率を上げるより、1人で行った方が安全なのだ。魔力無しの特性を活かして。
「もし、私がケイさんの血を吸ったら、行くの止めてもらえますか?」
ノエルが覚悟を決めた顔で言った。
う・・・、ここはウソをついてでもYesと答えたいが、根本的な解決ができる可能性がある以上、行かないという選択肢はない。ウソを付かないと誓った事がここで裏目に出るとは。
「それはできない」
ノエルは泣きそうな顔になった。
「そ、それなら、1つお願いがあります! 必ず帰ってくるって約束してください!」
「わかった。約束する」
「帰ってきたら、お返しに何でもしてあげます」
「いや、女の子が安易に何でもとか言わない方が・・・」
「な・ん・で・も、してあげますっ!」
うん、これは多分レディコミちっくな小説に毒されてるな。一度検閲したほうがいいぞ、カイルさん。
「それではお願いがあります。魔王の山から無事に帰ってきたら、キスをしてください。お姫様」
「! はい、わかりましたっ! 帰ってきたら、キスしてあげます!」




