容疑者M
「本当にいいのかい? 私共が騙したわけだし、約束の報酬は払うよ。家庭教師云々の話は口実だったのだから反故にしてくれて構わないんだよ?」
カイルが申し訳なさそうに言った。
「何を言ってるんですか。怪我を治してもらったし、お金も受け取ります。それで家庭教師をしなかったら契約違反です。口約束とはいえ契約は契約ですから」
一方的に契約を反故にすると後が怖いんです、日本では。アメリカの方がもっと怖いけど。
「とりあえず一週間、お世話になります」
ペコリと頭を下げた。
「ありがとう、本当にありがとう。ノエルも喜ぶ」
カイルが目に涙を浮かべながらケイの手を握った。
「そうだ、食料がたくさん余っているので、使ってください」
そう言ってフェリカ族のみなさんが持たせてくれたパンやらチーズやらを取り出した。
「おやまぁ、こんなに。随分と上等なパンだねぇ」
エレナが驚いた顔をした。
「親切な方が持たせてくれたんです。腐らせるのも悪いですし。2日前に出来立てをもらったので、しばらく日持ちもするはずです」
これで少しはタダ飯を食う後ろめたさが解消される。ありがとう、フェリカの皆様。
自作の干し肉はこっそり自分で食べよう。マズいから。
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家庭教師と言っても、基本的にはノエルの話し相手をするだけだ。
スケジュールはカイルさんと相談した結果、午前に2時間、午後に3時間とした。
ノエルはずっと一緒にいる事を希望したが、体の事を考えると、そういうわけにもいかなかった。
休む時間は必要なのだ。
明るく振る舞ってはいるが、体は衰弱していて、もう立つ事もできないのだ。
「先生、今日は何の話をしてくれるんですか?」
「うん、まず、先生はやめよう。恥ずかしくて死にたくなるから」
何せ僕はこの世界に来てから半年しか経ってない。その上、大半は洞窟に引きこもっていたのだ。
14年生きているノエルの方が先輩なんです。
「? よくわからないけど、それならケイさんって呼びます」
「はい、そうしてください。ノエル先生」
「くすくす、なんで私が先生なんですか?」
「それはノエルの方が物知りだからです」
「それはウソです」
「びっくりする事に本当なんだよ」
「もう、仕方ないですね。ケイくん、何がわかりませんか?」
初日の午前中は取り留めのない事を話して時間を過ごした。
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ノエルと話す時間以外は、呪いについて調べる時間に当てた。
当事者の一族が何代もかけて解決に至らなかった事を、自分一人で解決できるとは思えない。
だが何もせず、じっとしている事なんてできなかった。
当事者のフリューゲル家ならば呪いに関する本も収集しているだろうと思い、カイルさんに頼んで書斎に案内してもらった。だが、そこに呪いに関する本は3冊しか置いていなかった。
「ここにある本には大した事は書かれていないよ。本邸には呪いに関するあらゆる本が所蔵してあるんだけどね。ただ、一族の名誉に関わる事案も多くてね。門外不出なんだ。領主を退いた身ではどうする事もできない。すまないね」
カイルは申し訳なさそうに言った。
藁にも縋る思いでその3冊をざっと読んでみたが、意味の分からない単語が多く、まったく理解できなかった。一般的な単語はほぼマスターしたが、専門用語となると話が別だ。
カイルさんに聞いてるかと腰を上げたところで、僕には優秀な先生がついている事を思い出した。
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午後、ノックして部屋に入ると、ノエルが勢いよく半身を起こした。
「ケイさんっ!」
自分の隣をバンバン叩く。
ケイは苦笑しながらノエルの隣に座った。
「ノエル先生、この本が読めないので教えてください」
「!?」
ノエルはまさか立て続けに先生をやらされるとは思っていなかった。
しかも、今回はガチっぽかった。
「ふふ、本当にしかたないですね、ケイさんは。いいですよ! 私、読書が趣味ですから!」
ノエルは楽しそうに出来の悪い生徒を叱りながら午後の時間を過ごした。
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一般的な呪いについて分かった事は、
・呪いは一種の契約である。
・かけた相手は一方的に契約を破棄する事ができる。(例外あり)
・かけられた相手は一方的に契約を破棄する事ができない。(例外あり)
・強制的に破棄すると、暴走する恐れがある。暴走による事象は様々。
・かけた相手が死ぬと契約は破棄される。(例外あり)
この程度だった。
正直、あまり参考にならなかった。
それに(例外あり)ばかりでは話にならない。
唯一の有用な情報は、かけた相手が死ねば契約が破棄される可能性が高いということだった。
誰だよ、何代にも渡る呪いかけてまだ死んでない奴って。
・・・・・・マオか?
『対価は払ったよ』
という幻聴が聞こえた気がした。
血を吸う事で永遠に生きられる事をメリットと考える人間がいるかもしれない。
その力を与えた事を対価と考えたら・・・
そんな嫌な考えが頭に浮かんだ。




