ハーブ村
翌日の夕刻、目指していた村に到着した。
村は木の柵で覆われており、入り口には門が設置されていたが、特に見張りのような人はおらず、自由に出入りできるようだった。
入り口から続くメインの通りは石畳が敷かれていて、通りの左右には様々なお店が並んでいた。人通りも結構多い。村と言うより、町に近いように感じた。
「結構大きな村なんだね」
「そうだな、僻地にある村としては異例の大きさだな。冒険者ギルドもあるし、商人ギルドもある。宿も多いな。領主の別荘まであるぞ」
「それはもう町なのでは」
「確かにそうだな。もともとハーブ村は小さな農村だったんだが、あれよあれよと大きくなっていって今の規模だ。でも名前はそのままハーブ村」
名前を変えるタイミングをミスったのか・・・
「活気があるのはパラレクスの森が近いからだろうな。あそこの森はフィールドとしては国内最強クラスだ。素材も貴重だし、腕試しの冒険者も集まる。怖いもの見たさでパラレクス山を見に来る奴もいるしな。さすがに登るバカはいないが」
・・・パラレクス山って、あの山ですかね。あの山だろうなぁ。
「あの森ってそんなに危険だったんだ。そんな森に住んでるフェリカ族ってヤバい種族なんじゃ・・・」
「臆病で温厚とは言ったが、ヤバくないとは言ってないぞ」
やっぱヤバいのか。いきなり射られたしなー。
雑談をしながら隣を歩いていたティナが足を止めた。
「ここ、冒険者ギルドだけどどうする? 毛皮売るならここか商人ギルドが無難だぞ?」
クリスティナは親指で建物を指しながら言った。
「冒険者登録はしてないよな? 商人だったりするのか?」
「いや、どちらも登録してない。ティナがここで毛皮売るなら一緒に売ってもらいたいな。それに一度冒険者ギルドって入ってみたかったんだ」
「そうか、なら一緒に入ろう」
先に入ろうとしたティナだったが、扉に手をかけたところで立ち止まった。
「すまない、馬を借りるのを忘れていた。馬屋は閉まるのが早いから先に借りてくる。今日中に王都へ発ちたいんだ。ケイは中で待っててくれ」
そう言うと踵を返し、足早に通りの先へ消えてしまった。
妹さんへ薬を届けると言ってたっけ。
本当は街道でも野営せずに急いで戻りたかったんだろうな。
僕の足の怪我に配慮して野営してくれたのだろう。
とても優しい人だと思う。戦闘になると人変わるけど。
さて、ティナが消えたからには一人でこの扉を開けて中に入るしかない。が、正直入りにくい。ので、一旦ちょっと下がった。
改めてギルドの建物を眺めてみる。石造りの大きな建物で、入り口には両開きの扉がついていた。
両開きなのは、両手が塞がってても入れるからだっけ? にわか知識で自信無いけど。
扉の上には剣と盾の書かれた看板が掲げられていたが、どこにも「冒険者ギルド」の文字は見あたらなかった。シンボルマークで分かれ、という事か。
開け放たれた窓からは、酒盛りしている屈強なグループが何組か見える。酒場が併設されているようだ。夕方だし、一仕事終えてという感じだろう。
一言で言うと、絵にかいたような冒険者ギルドだった。
・・・時間稼ぎの状況確認も終わったのでいいかげん中に入ろう。ティナが帰ってきた時に入り口でウロウロしていたらさすがに格好悪い。
覚悟を決めて扉を押すと、ギギィと思っていたより大きな音がした。
静かにしてください。隠密行動中なんです。
酒場にいた人達がいっせいにこちらを向く。何か言われないかとヒヤヒヤしたが、皆、一瞬目を向けただけで、すぐに興味を無くしたようだった。
まぁ、右手包帯グルグルで三角巾してるザコなんかに絡んだら、ただの弱い者いじめだよね。
意を決して中には入ったものの、これからどうしよう。何も考えていなかった。
ギルド内を見回すと、酒場とは反対側の壁に依頼ボードらしき物が設置してあるのを見つけた。
そうだ、依頼票を見て時間潰そう。
ケイは依頼ボードの前へそそくさと歩み寄った。
依頼ボードにはランク別に依頼票が張り出されており、一番低いと思われるランクの場所にはFの刻印がされていた。
もし冒険者になれたとしたら確実に最低ランクなので、Fの場所を探してみたが、依頼票は一枚も貼られていなかった。
夕方なので、捌けてしまったのだろうか。
他のランクの依頼票を眺めてみると、大半が魔物の素材納品か討伐の依頼で、いくつか護衛依頼があるだけだった。
雑用的な依頼や、定番の薬草採取なんかは無いのだろうか。
「何か御用ですか?」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、冒険者ギルドの制服を着た女性が立っていた。
年齢は20歳くらい。くせっ毛のブロンドをハーフアップにした、少し派手な見た目の女性だった。
名札には「リライラ」と書かれていた。
リライラは少し迷惑そうな顔をしていた。
冒険者にはとても見えない男が依頼ボードの前をウロウロしていたら、そりゃ不審に思うよね。
「えっと、人と待ち合わせしてまして、待たせてもらっています。ここだとお邪魔でしたか?」
「そうでしたか。待ち合わせなら酒場のほうでお願いします。ここは待合所ではないので」
「わかりました。すみません」
受付カウンターの方を見ると、ガランとして誰も並んでいないようだった。
今なら仕事の邪魔にはならないだろうと判断し、気になった事を聞いてみた。
「一つお聞きしたいのですが、Fランクの依頼はいつもこんなに少ないんですか?」
「ここのギルドにはFランクの依頼はほとんど来ません。この辺りにFランクの魔獣なんていないので」
そういえば、ティナが国内最強クラス的な事を言っていたっけ。
「薬草採取の依頼とかは無いんですか?」
「薬草採取?」
リライラはきょとんとした顔をした後、ぷっと吹き出した。
「そんな依頼来た事ありませんよ?」
「えっと、それはどこのギルドでも一緒ですか?」
「ええ、他のギルドでも無いですよ。薬草採取なんて子供でもできるじゃないですか」
クスクス笑いだしてしまった。
薬草採取、無いのか・・・。
ポーションが無い時点で察するべきだった。
酒場の方からもクスクスと笑う声が聞こえてきた。
美人受付がよそ者と話し込んでいらた、そりゃ聞き耳たてるよね・・・。
異世界に来たからには、冒険者になってみたいとは思っていた。
魔物を倒せなくても、図鑑片手にバリアを張りながら薬草採取ならできるのではないかと。
しかし、薬草採取が無いとなると、できそうな事が何もない。
「ちなみに、冒険者登録って誰でもできるんですか?」
「え、冒険者登録希望ですか!?」
リライラは目を丸くした。
「にいちゃん、そいつは無理だ!」
酒場の方から笑いが起こった。
「基本的に希望者は登録可能ですけど、さすがにあなたじゃ無理です。魔力全然無いじゃないですか。しかも三角巾しならが冒険者登録って・・・あはははっ!」
リライラさんは爆笑し始めてしまった。
「おいおい、なんかの嫌がらせか?」
「ナンパとしては上手い方法だな。だが素人が冒険者の前で受付嬢に手を出すのはタブーだぞ」
酒場の方からガラの悪そうな二人組がのしのしと歩いてきた。細身と巨漢のコンビ、どちらも鍛えられた体をしていた。
しまった、悪目立ちしてしまった。
細身の方がケイの肩に腕を回した。
「冒険者がどんなものか教えてやるよ。授業料は酒代で勘弁してやる」
「リライラさん、俺たちがしっかり教育してやるので安心してください」
「ほどほどにお願いしますよー」
リライラも面倒に思っていたのか、止める気はないようだ。
ギィィ・・・
その時、建付けの悪い入り口の扉が音を立てた。




