野営
森を抜けた先の草原を南へと歩く。
森の中と違い、草原を波打って進む優しい風が気持ちよかった。
歩くにつれ、緑がまばらになり、荒れ地と言った方しっくりくる風景になっていった。風は相変わらず気持ちよかったが、埃っぽいのは勘弁してほしかった。
「これが街道だ」
「え?」
街道と言う響きから、石畳くらいあるのかと思っていたが、何もない荒れ地を指さされて戸惑ってしまった。
よく見れば、確かに轍のようなものがあった。
轍の先を見ると、うっすらと道が伸びているように見えなくもなかった。
「この道、嵐が来たら消えるんじゃ?」
「一応、まばらに標識が立っている。あとは地図とコンパス頼みだな」
クリスティナはリュックを下ろすと、中から小さな紙片(羊皮紙?)と布が巻かれた小さく尖った黒炭を取り出した。
「ちょっと待っててくれ」
そう言うと、今歩いてきた方向のはるか遠くにかすむ山脈の形をざっくりスケッチし始めた。黒炭は鉛筆代わりのようだ。
「何を描いてるの?」
「山と手前の地形だ。フェリカの村にはまた訪れなければならないからな。街道から最短の場所が分からないと困る」
「なるほど、山立てか」
正面のはるか遠くにかすむ一番高い山が、マオのいる山だろう。随分遠くまで来たものだ。
洞窟を出てからたったの6日。もうマオ会いたくなってしまった。
クリスティナは西の方角に見える岩山の形もスケッチした後、紙片を鞄にしまった。
「待たせたな。行こうか」
二人は並んで西に向かって歩き始めた。
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真正面の地平線に太陽が沈み始めた頃、クリスティナがケイに声をかけた。
「夜通し歩けば朝には着くが、ここらで一晩休もうか」
フェリカ村で充分休めたのでそれほど疲れてはいなかったが、怪我をしている左足がズキズキ痛み始めていたのでありがたい提案だった。
今まで痛みが無かったのは、痛み止めのような薬のおかげだったのかもしれない。
日がちょうど沈んだタイミングで、雨風を防げそうなせり出した岩を見つけたので、その下で一晩明かすことにした。
焚火の跡がいくつかあるので、定番の野営場所なのだろう。
「夜の見張りは?」
「いらない。寝ていても私が気付く。・・・いや、お前みたいな奴がいたら気付かないのか」
・・・あれ、ティナにお前呼ばわりされるの、不審者扱いされて以来では。
「まぁ、大丈夫だ。お前のような奴はそうそういないしな」
もしかして、一撃入れたの根に持ってます?
焚火を挟んでの夕食。
フェリカ村を出る時に食料を大量に持たせてくれたので、食べる物はいくらでもあったのだが、ティナの持っていた携帯食が気になったので分けてもらった。
形はブロック状で、完全にカ〇リーメイト。食感もカ〇リーメイトを固くしたような感じだった。味は若干の塩味で、噛み続けていると、きな粉っぽい味がした。正直、美味しくはなかった。
ケイはお返しに、山でこさえてきた干し肉を渡した。
干し肉を食べたクリスティナは微妙な顔をした。
「・・・もっと塩振った方がいいぞ。それから最低限、血抜きはしろ」
塩はリュックに入ってた一瓶しか無くて超貴重だったんです。あとマオさんが魔力抜いて即死させちゃうんで、血抜きできないんです。
「これ、何の肉だ?」
「えーっと、デカいヤギみたいなの。高山帯にいて、こ~んな角してて、6mくらいある奴」
「高山帯で6mって・・・オルグゴートか!? あんなもの、どうやって狩るんだよ・・・」
クリスティナは呆れた顔をしていた。
「あれの角、売れば家が建つぞ」
「マジで!?」
洞窟の保有資産がさらに上がった。
夜も更けてきたので、せり出した岩の下に二人ならんで横になった。
バリアは張らなくても大丈夫かな。ティナがいるし。
「ティナが薬を手に入れたかった理由、聞いてもいい?」
星を見ながら、気になっていた事を聞いてみた。
「ああ、妹が厄介な病気でな。効く薬が少ないんだ」
クリスティナも星を見ながら答えた。
「妹さんの為だったんだ・・・良くなるといいね」
「以前ニルシュの丸薬を飲んだ時は、劇的に症状が改善したんだ。だから、きっと効くはずだ。根本的な治療にはならないようなんだがな・・・」
クリスティナの声は尻すぼみに小さくなってしまった。
「特効薬はあるらしいんだが・・・手に入らない」
声に悔しさがにじみ出ていた。
「無責任な事は言えないけど、ティナならいつか手に入れられる気がするよ」
「そうか、ありがとう。そうだな、何せS級だからな。泣き言を言っている場合じゃないな」
S級ってもしかして天辺なのでは。さすがティナさん。さすティナ。
「丸薬が手に入ったのはケイのおかげだ。本当に感謝している。王都に来る事があれば、妹にも会ってやってほしい。ちょっと会いにくい場所にいるが、私を通せば会えるはずだから」
「分かった。会えるの楽しみにしてる」
「私に似て超可愛いからな。手を出してもいいぞ」
「あはは、僕じゃ相手にされないよ」
「ちなみに13歳だ」
「絶対ダメじゃん」
寝転んで見た星空は、やはり見慣れない宙だったが、いつか見慣れた宙に変わればいいなと思いながら目を閉じた。




