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見覚えのない宙(ソラ)の下で  作者: 旅行ねこ
第一章

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会心の一撃

 クリスティナはリュックのポケットからペンチのような道具を取り出して、慣れた手付きでクマの犬歯を抜いていった。


 おそらく、討伐証明になるのだろう。


「毛皮は一頭分だけ持っていくか。ケイも持っていくなら私が剥いでやるぞ? まだ動けないだろう?」

「? 怪我も増えてないし、動けるよ」

そう言うと、クリスティナは不思議そうな顔をした。


「なんか全然平気そうだな。あれだけの魔力に充てられて平気なのか?」


 そういえばマオが、この世界の生物は相手の魔力を感じて戦いを避ける的な事を言っていた気がする。普通なら、魔力差のある相手だと委縮して動けなくなってしまうのかもしれない。


「あー、その、魔力に関してすごく鈍感なんだよ」

「魔力無いくせに魔素の濃いこの森でも平気な顔してるし、強力なシールド張れるし、いったい何者なんだ?」

「・・・実は別の世界から来たんです」

「・・・まぁ、その魔力量で今まで生き抜いてきたんだし、話せない事もあるか。いつか本当の事を聞かせてくれよ?」

今、本当の事を話したところです。



 クリスティナは一番大きなクマを選ぶと、ものの数分で手早く解体してしまった。さすがは熟練冒険者、手慣れたものだった。


 大した手間にならないようだったので、自分の分の毛皮も1頭分剥いでもらう事にした。小さな村では持ってきた宝石類は売れない可能性が高いとの事なので、現金を手に入れる為にも毛皮はありがたかった。


「ほら」

 解体している途中、クリスティナは握りこぶし大の石をこちらに放り投げた。慌てて受け取る。慣れない左手でのキャッチに危うく取り落としそうになった。


 透明感のある青っぽい石だった。大きさの割に軽く、比重がかなり小さそうだ。

「何これ?」

「? 魔石だよ。いるだろ?」

おお、やっぱり魔物からは魔石が採れるのか。


「ティナが倒したんだから、ティナの物でしょ?」

「何を言っている、さっきケイは護衛対象からパーティーメンバーに格上げしただろ? まぁ残り二つの魔石は私が貰うがな」


 ティナさん、ほんと男前っすね。



「勿体ないが残りは埋めるぞ」

 

 クリスティナは長剣の先を地面に付けると、魔法で地面に大穴を空けた。

 マオの魔法は見た事があったが、人が魔法を使うのは初めて目にした。

 すごい便利。



 でも埋めるのは手作業だった。


「土魔法は細かい操作が苦手でな。掘るのは得意なんだが」

クリスティナは照れくさそうに笑った。



-----


 パラレクスベアを倒してから歩き続けて6時間、ようやく長かった森を抜けた。


 その間、クマに続いて2度も魔物の襲撃を受けた。

 2度とも巨大なイノシシのような魔物単体で、発見と同時に「ちっ、ザコか」と不機嫌そうに舌打ちしたティナが瞬殺したので何の問題も無かった。



 しかし、おかしくないか?

 洞窟を出てから5日間歩き続けて魔物には1度も出会わなかった。ところが、ティナと行動を共にしてから7時間で3回だ。どう考えてもティナと一緒にいるのが原因だ。


 辿り着いた答えは、自分には魔力無いから、魔物に気付かれなかったという事だった。

 ティナは魔力を察知して離れた場所にいる魔物の存在に気付いていた。おそらく、魔物側も同じなのだろう。


 魔力の無い相手は察知できないのだ。

 実は斥候向きなのではないだろうか、僕。


 その話をティナにしてみると、

「敵の位置が分からない斥候なんて役に立たないだろ」

と、真顔で返された。

ですよねー。


「しかし、面白いな。戦闘職なんて魔力の強い奴しかいないから、そんな事考えた事もなかったぞ」


 クリスティナは少し考え込むと、何を思ったか細長い木の枝を拾ってきてケイに差し出した。


「これで私に打ち込んでみてくれ」


 ケイが枝を受け取ると、クリスティナは数歩離れてクルリと後ろを向いてしまった。

(おお、達人の師匠との修行とかでよくあるやつだ。絶対、躱《かわ》されるやつ!)


 しかし、実際に後ろを向いている女性を前にすると、殴りかかるのはものすごい抵抗があった。

「本当にいいの?」

「いいぞ。当たらないからな」

まぁ、さっきの戦闘で人間離れした動きも見ているし、本人がそういうなら大丈夫だろう。


 ケイは抜き足差し足、音を立てないように枝の届く間合いまで近づいた。

 クリスティナは微動だにしない。


 枝を振りかぷってピタリと止めた。

 それでもクリスティナは微動だにしなかった。


 そりゃ素人のフェイントなんて引っかからないよね。避けられる未来しか見えない。


 どうせ避けられると思ったケイは、思いっきり枝を振り下した。


 スパンッ!


 いい音を立てて、クリスティナの頭をはたいていた。


「痛った!! え、全然分からなかったぞ!? あとすごい痛かったぞ! ちょっとは遠慮しろ!」

クリスティナは両手で頭を押さえて涙目で抗議した。


「あれ!? ごめん、まさか当たるなんて・・・」

当てたケイの方がびっくりしていた。



「魔力をまったく感じない相手と戦うのがこんなに厄介だとはな。場合によっては脅威だな。人に一撃入れられたのなんて久しぶりだぞ。潜入任務とか、暗殺任務とか、色々やれるんじゃないか?」


 潜入・・・暗殺・・・、できる気がしません。


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