フェリカ族の村
その日はフェリカ族の集落に泊めてもらう事になった。
パルクに黙って村を出るのは忍びなかったし、連日野宿だったので、屋根のある場所でゆっくり眠れるのはありがたかった。
昼過ぎにパルクが起きてきたので、女性のリーダーと共に村を案内してもらう事になった。リーダーはピレアと名乗った。
ピレアは黒髪のおかっぱ頭。スタイルがとても良く、質素な服装ながらも、それがむしろ体の凹凸を強調して魅力を引き出していた。
パルクがケイに抱っこをねだったが、右手を骨折しているので無理はできず、ピレアが抱いていくことになった。
フェリカ族の村は、全部で50戸ほどの家が集まっており、思っていたより大きな集落だった。滝の上にあるなんて聞いていたので、10戸程度の規模だと思っていた。
滝の上流にある川を中心にして、両岸にペンションのような木造の家が並んでいた。何ヶ所かに掛かっている橋は立派な石造りで、森の中に住む未開の民族だなんて思っていた自分が恥ずかしかった。
人が来るのは相当珍しいようで、歩いていると家々の窓から老若男女関わらず覗き見ているのに気付いた。
「この村に入った人間はあなたたちが初めてだ」
珍しいどころか初めてだった。
試しに手を振ってみると、意外にも手を振り返してくれた。パルクと一緒にいるので、安心しているのかもしれない。
「ここが村一番の自慢の施設だ」
ピレアはそう言うと、岩盤に備え付けられた大きな木製の扉をバンバンと叩いた。
扉には大きな南京錠が掛かっていた。
「子供が勝手に入ると危ないからね」
そう言いながら、ピレアは南京錠のカギを開けた。
中は大きな洞窟になっており、進むにつれてさらに広く巨大な空間になっていった。
奥からはザァザァと水の音が響いてくる。
「おぉ、これはすごいな」
クリスティナが簡単の声を上げた。
辿り着いたのは滝の裏側だった。
進んだ先は降り注ぐ水のカーテンで覆われており、外から差し込む光に照らされてキラキラと輝いていた。
幻想的な景色のも驚かされたが、もう1つ驚いたのはそこに設置されていた大小2つの水車だった。
大きな水車のほうは滝を掠める位置に設置されており、落ちてくる水の勢いを受けて回っていた。
小さい方は大きな水車の後方に設置されていて、普通の水車とは比較にならないような速度で回っている。
大きな水車とは逆回転で回っている事から、2つの水車とは歯車で噛み合っているようだった。
「滝の力を利用した水車ですか。すごいですね」
「そうだろう、すごいんだ」
ピレアが誇らしげに言った。
子供は普段は入れない場所のようで、ピレアに抱きかかえられていたパルクも勢いよく回る水車を見て興奮気味だ。
男の子はこういうの好きだよね。
水車の設置されている場所から洞窟の奥に向けて、レールのようなようなものが敷かれていることに気付いた。
「もしかしてこの水車、可動式なんですか?」
「おぉ、よく気付いたな。そうだ、動くんだ」
「なぜ可動式に?」
「一番の理由は、大雨の時に奥に避難させる為だな。水量が増えると水の勢いが強すぎて水車が壊れてしまう。あとは水車の回転速度の微調整にも使える。回転が速いと粉引きなんかすぐ終わって便利なんだが、速すぎると危ないんだ」
「へぇ、よく考えられてますね」
「そうだろう、すごいんだ」
村の自慢の水車が褒められて、ピレアはとても嬉しそうだった。
ピレアさん、おっかない人だと思っていたが、結構子供っぽいところもあるようだ。
その夜、村で一番大きな建物に案内されて豪華な夕食が振る舞われた。
初めて見る食材ばかりだったが、料理自体は日本で食べていた料理と似たものが多かった。
今までの主食が、<極限まで塩を節約して焼いた血抜きしてないヤギ肉>だった事もあり、全ての料理がとても美味しく感じられた。
特に、自慢の水車で引いた小麦粉で作られたパンは絶品だった。
パンの上にチーズと山菜と肉を乗せて焼いた料理はピザトーストそのもので、感涙してしまった。
この建物は個人宅ではなく、村の集会などに使われる場所のようで、大勢の人が入れ代わり立ち代わり訪れては、持ち込んだ酒やつまみを並べ、珍しい客人を肴にして盛り上がっていた。
そんな混沌とした中で、ケイは大勢の子供たちに囲まれて困っていた。
「こら、怪我人の上に登ろうとするんじゃないの!」
傍若無人な子供たちをピレアがたしなめてはいるが、多勢に無勢、かなり押され気味であった。
「半日で子供がこんなに懐く人は初めてだよ」
困った顔をしながらもどこか楽し気である。
「おじさん、なんで魔力無いのー?」
「ピレア姉に負けてケガしたんでしょ。弱いの?」
「ザコなの?」
「ケイの悪口を言うなー!」
「なんで魔力無いのー?」
「あっはっは、大人気じゃないか、ケイ。モテモテだなー」
クリスティナは既にできあがっていた。
味方はパルクだけだった。
「おじさん、ケイっていうの?」
「犬みたーい」
「ザコなの? ザコなの?」
「だからケイの悪口言うなー!」
「言葉もちょっと変だよー」
「目もちっちゃーい」
「なんで魔力無いのー?」
うん、これは懐かれているのではない。
舐められているのだ。
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さんざん騒いだ翌朝、ケイとクリスティナは村の入り口に立っていた。
リュックがパンパンに膨らんでいるのは、村の人たちが日持ちするパンやらチーズやらを持ち寄ってくれた結果だ。どうも、魔力が無いのはちゃんと食べてないからと思われている節があった。
「昨日は子供たちの世話までさせて悪かったな、あんな楽しそうな子供たちは久しぶりだったよ」
ピレアが見送りに来てくれていた。
村での様子を見るに、ピレアは相当子供好きのようだった。
行方不明だった子供を抱えた不審者を見て、逆上したのも無理のない事なのかもしれない。
ピレアの腕にはさっきまで大泣きしていたパルクが抱かれていた。今は不貞腐れてそっぽを向いている。
「ほら、最後の挨拶だ。いつまでも不貞腐れているんじゃないぞ」
ピレアが促すとやっとこっちを向いてくれた。
「ここ、洞窟に帰るときの通り道なんだ。だからきっとまた会えるよ」
そう言って手を差し出す、小さな手で握り返してくれた。
「また来てね」
「ああ、またな」
ケイは異世界に来て2番目にできた小さな友人に別れを告げた。




