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見覚えのない宙(ソラ)の下で  作者: 旅行ねこ
第一章

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誤解

 フェリカ族の集落の一室。


 部屋の上座《かみざ》にあるふかふかのソファーのような椅子に座らされて手当を受けていた。

 フェリカ族の女性が、左右に2人。それぞれが左足と右腕を担当し、献身的に治療してくれている。


 隣にはクリスティアが立ったままそっぽを向いて、気まずそうな顔をしていた。


 そして部屋の下座《しもざ》には、襲撃時にリーダーだった女性、隣に村長のおじいさん、後ろにずらっと10人ほどの男女が綺麗に土下座をしていた。

 こっちにも土下座の文化ってあるんだなぁと妙に感心してしまった。


「本当にすまなかった。まさかパルクを助けてくれた恩人だとは思わなかったんだ」

リーダーの女性が頭を下げたまま謝罪した。


 こういう時ってどう対応したらいいのだろうか。

 人から土下座された経験なんてないので、正直困ってしまう。


 当然ながら、いきなり殺されかけた事には怒りを感じていた。


 しかし、パルクが抱き着いて泣きじゃくっているのを見ていたら、怒気が完全に抜けてしまった。

 ちなみにそのパルクは同席するとぐずっていたようだが、眠気には勝てず、別室で眠っている。怪我もしているので、そっちのほうが安心だ。


「頭を上げてください。誤解が解けたならそれでいいです」


 なんというか、理不尽な事に耐性ができている気がする。

 マオさんのおかげだな。

 突然転移させられて帰れませんとか、思い出したら腹立ってきた。


「それではこちらの気が済まない。何か望むものはないか、何でも言ってくれ」

リーダーの女性が頭を下げたまま言った。


 何でもと言われても、何も思いつかない。金銭的なものなら洞窟《じっか》に戻れば手に入るのだ。


「何も思いつかないので、本当に結構です。とりあえず頭を上げてください。これじゃ話もできない」

そう言うと、ようやく頭を上げてくれた。


 この人、おかっぱ頭にグレイ目がよく似合ってるなぁ、なんて場違いな感想を抱いてしまった。


「それならば、里を出るまでに高価な物を集めておきます。それを貰ってください」

村長のおじいさんが提案した。お詫びの件はどうしても引けないらしい。


「わかりました。ほどほどでお願いします」

ほんとにほどほどで結構です。リュックには若干の余裕しかないので。


 ひとまず話がまとまると、横に控えていたクリスティアが口を開いた。


「私もすまなかった。ひどい態度を取ってしまった」

「問題ないですよ。誤解があったみたいですし」

「そう言ってもらえると助かる」

クリスティアはほっとしたような顔をした。


 これでひと段落りかな。

「だが、君も悪いぞ」

終わってなかった。


 クリスティナはびしっとケイを指さして言った。


「まず、パラレクスの森を丸腰でうろついているなんてありえない。仲間の存在は隠す。魔力も隠蔽。おまけにフェリカ族の集落の場所を知っているなんて、フェリカ族を狩りに来た密猟者以外ありえないだろう!」


 フェリカ族の面々もコクコクと頷く。


「さらに、名前も偽名。職業も言わない。崖から落ちたと言ったが、傷はあきらかに矢を受けてのものだった。後ろめたいことがあると思うのは当然だろう!」


 確かに、聞けば聞くほど怪しい奴ですねほんとすいません。


「えっと、弁解してもよろしいですか?」

「ああ」

「まず、名前は本名です」

正確にはイニシャルだけど。


「そ、そうなのか。・・・失礼な事を言ってすまなかった」


 今の謝罪は「犬みたいな名前」と言った事についてだろうか。あれは暗に「偽名だろ?」と言いたかったんですね。紛らわしい名前を付けてしまってほんとすいません。


「それから、魔力は隠蔽してません」

「? 何らかの方法で隠蔽しているのではないのか!?」

「素でコレです」

「・・・・」

 言葉を失っている。

 横で治療をしていたフェリカ族のお姉さん方も絶句していた。


 クリスティアが憐れみの顔で、ケイの肩にポンと手を置いた。

 なんか涙ぐんでいる。

 そんなにですか・・・、魔力無いと。


 魔力が無いとモテない云々《うんぬん》は、マオが引き留めるために大袈裟な話をしたのではと思っていた。

 本当に深刻な問題らしい。


「そして、ここの森にいた理由は、本当に人里を目指して歩いていただけなんです」

「一人で?」

「一人で。」

「・・・・」

あ、今度は完全にあきれられている。


「その魔力量で単身この森を行くのは自殺行為だぞ。よく今まで無事だったな」

「いや、無事じゃなかったですけど」

丁寧に固定し直してもらった右手を少し上げる。


 リーダーさんが申し訳なさそうに頭を下げた。

 しまった、軽い冗談のつもりだったのだが、皮肉になってしまった。



「そういえば、クリスティナさんはどうしてフェリカ族を探していたんですか?」

「そうだ、その件を済ませなければ」


 クリスティナは正座していた村長の前に跪《ひざまず》くと交渉を始めた。


「フェリカ族に伝わるというニルシュの丸薬を分けていただけないだろうか。病気で苦しんでいる子供がいて、どうしても必要なんだ。対価として塩を持ってきた。フェリカ族には貴重な品と聞いている」

そう言うと、自分のリュックから塩を一袋取り出した。


「今回は会えるか分からなかったのでこれだけしか持ってきていないが、足りない分はまた持ってくる。できれば定期的に分けてもらえると助かる。要求があれば何でも飲むつもりだ」


 話を聞いた村長は難しい顔をした。

 女性リーダーも口を寄せて何か耳打ちをしている。


「もちろん、この村の場所は秘密にするし、私一人でしか訪れない。この冒険者タグに誓って約束は守る」

 クリスティアは胸元から取り出した金色の冒険者タグを見せて必死に食い下がった。


 金色のタグを見て、村長たちは目を丸くしていた。

 やはり相当にランクが高いみたいだ。


 しかし、要求が通りそうな様子は無く、村長たちは難しい顔でぼそぼそと密談を続けている。


 その薬が相当貴重なものなのか、集落の場所が見つかるのを恐れているのか。


「あの、それなら、先のお詫びの件は、その薬を分けてもらうという事でどうでしょうか」

そう提案してみた。


 クリスティナが慌てて割って入る。

「いや、さすがにそれはダメだ。これは私の問題だし、そこまでしてもらう理由はない。お詫びは自分の為に受けてくれ」

「それなら、人里まで送ってもらうお礼って事で」

「いやいや、お礼ならすでにもら」

「お詫びの品はその丸薬でお願いできますか? できれば、今後もクリスティナさんとの物品交換に応じてもらえると嬉しいです」

遠慮される前に強引に進めてしまおう。


 村長は女性リーダーに何やら耳打ちすると、リーダーがコクコクと頷いた。そしてこちらに向き直ると、穏やかな顔でこくりと頷いてくれた。



「うぅ・・・ありがとう、ケイ、君は本当に良い奴だな!」

クリスティナは感極まってケイを力一杯抱きしめた。

 美人に抱きしめてもらえるのは嬉しいんですけど、力強すぎです。腕折れてるんです。


「密猟者だと思ってフェリカ族との交渉材料に使おうなんて思って本当に悪かった!」

おいこら、それは初耳だぞ。


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