クリスティナ
(そうだ、バリア!)
崖が高かったのが逆に幸いし、落下中にパニックから抜け出す時間があった。
自分の周りにバリアを展開する。
空気抵抗が増し、若干スピードは落ちたものの、時速100kmを超える猛スピードで森に突っ込んだ。
バキバキと枝が折れる音。直後にドスンと大きな音が響いた。
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(・・・生きてる?)
衝撃で息が詰まってしばらく動けなかったが、意識ははっきりしていた。
木の枝がクッションになり、着地の衝撃がかなり和らいだようだった。血まみれだったりしないよなと、恐る恐る身体を見回してみるが、バリアのおかげで裂傷などは負っていなかった。
マオさん、本当にありがとう。あなたのおかげで命拾いしました。
真っ黒な人影を思い浮かべて感謝の祈りをささげた直後、左足と右腕に激痛が走った。左足は矢を受けた場所、右腕は・・・
前腕が折れていた。
「ぐぅ・・・、よりによって利き腕・・・」
ショックで動く気になれず、しばらくうずくまっていたが、いつまでもこうしてはいられない。
「治療しないと・・・」
まずは歯を食いしばって左足のふくらはぎに刺さっていた矢を引き抜いた。
「グゥゥ!」
余りの痛みにうめき声が漏れる。
そうだ、こういうのって抜かない方がいいんだっけ?
どこかでかじった医療知識が頭を掠めたが、抜いてしまったものは仕方ない。幸い、血管は無事だったようで大量出血するような事はなかった。
抜いた矢は憎らしさのあまり投げ捨てようと思ったが、骨折箇所の添え木に使えそうだと気付いて思いとどまった。
矢じりと矢羽だけ折って、思い切り投げ捨てた。
リュックからテーピングを取り出し、元は矢だった棒を添え木にして腕の固定を試みる。
「まさか立て続けに骨折の治療をする羽目になるとはね」
慣れないない左手での治療がもどかしく、イライラして愚痴がこぼれた。
「そこで何をしている」
突然、凛とした女性の声が響いた。
まさか追って来たのか!?
恐る恐る振り向いた先にいたのは、先ほどとは違う女性だった。
動きやすそうな革鎧に背中に薄いリュック、長い金髪が風に揺れていた。
切れ長の目が印象的な20歳くらいの女性だった。
腰に下げた長剣に右手がかかっていた。
あきらかに警戒されてますよね、これ。
「そこで何をしているのかと聞いている」
再びの質問。
「いや、上から落ちまして・・・」
上を指差しながら答えた。女性が指の動きを追って上を見る。
「さっきの音はお前が落ちた音か。この高さでよく助かったな」
ケイの体をじろじろ眺めながら呆れ気味に呟いた。
「それで、こんな場所で何をしていたんだ?」
「道に迷ってしまって・・・、街道を探していたんです」
とりあえず、無難な事を言っておく。襲撃の件はもう関わりたくなかったので触れなかった。
「街道・・・ねぇ」
あからさまに信じてない! え、無難じゃなかった?
「街道からはずいぶん離れているが・・・、他の仲間はどこにいる?」
辺りを見回しながらの質問。
「えっと、一人です」
「ひとりぃ?」
もう完全に不信がられてますね、ウソはついてないのに!
女性は右手を顎に当てて何やら考え込んでいる。
「まぁとりあえず、その怪我をどうにかしようか」
女性は隣に座り込むと自分のリュックから包帯と水筒、軟膏のようなものを取り出した。
水筒の水で左足の傷を洗い流し、軟膏を塗って包帯を巻いていく。実に鮮やかな手際だった。
もしやポーションで治療してもらえるのではと期待してしまったが、普通の応急処置だった。
マオから聞いていた通り、ポーションなんて無いらしい。
「右腕は折れてるよな、それ」
「ええ、残念ながら」
「利き手は?」
「右です」
「それはご愁傷様」
女性は折れた右腕を掴むと骨の位置を確認し始めた。激痛が走ったがうめき声すらあげない。美人の前で格好つけたいのは男のサガだ。
「これで良し」
女性はゆるゆるだった添え木をしっかりと固定し直してくれた。荒っぽかったが的確な処置だった。
「ありがとうございます。左手しか使えなかったので助かりました」
「礼はいい。私はクリスティナ。冒険者をやっている」
首元から取り出した金色のタグを見せながら言った。
おお、やっぱりいるのか、冒険者! 金色のタグとかランク高そうだ。
「僕はケイと言います」
「ケイ・・・」
女性は怪訝な顔をした。
「犬みたいな名前だな」
うそん、犬みたいな名前なの!? もしかしてこっちではポチ的な名前だった??
「職業は?」
「・・・旅人です」
さらに怪訝な顔になった。そりゃそうだ、旅人は職業ではない。
「・・・道に迷ったんだったな。村まで送ってやってもいいが、私もやる事があってな」
「送ってもらえるとすごく助かるんですけど。お礼もできます」
道案内は喉から手が出るほど欲しい。やっと掴んだ人里への手掛かりをここで逃すわけにはいかない。
リュックを開き、荷物の隙間にねじ込んであった宝石の中から、なるべくお高そうな黒い宝石を取り出した。
「これでどうでしょう?」
女性は宝石を受け取ると、太陽に透かして品定めを始めた。
「黒曜石・・・じゃなくて魔石か? 黒なんて初めて見るぞ」
どうやらアタリらしい。
「これをどこで?」
「えっと、貰い物です」
「・・・・」
すごくウソっぽいけど、本当なんです!
「・・・これなら十分だ」
「よかった、助かります」
「ただし、私の用が済んでからになるが、それで構わないか?」
「はい、急いでるわけじゃないので。こんな森の中で何かするんですか?」
「フェリカ族を探している」
「フェリカ族?」
「ああ、この辺りでよく目撃されているらしい。目が特徴的な種族で、こんな感じの大きな目をしている」
両手を筒状にして、双眼鏡のように目に当てながら言った。
「あ・・・」
思わず声が漏れてしまった。
ついさっき、それに殺されかけました。
「なんだ、知っているのか?」
女性が目を見開く。
「ええ・・・まぁ・・・」
どう答えるべきだろうか。
敵視されて命狙われましたとか言って大丈夫だろうか?
「見た事があるのか?」
「ええと、あります。あっちの方に集落があるとか・・」
滝の方向を指さす。
「集落の場所を知っているのか!?」
「たぶん、だいたいの場所なら・・・たぶん」
「・・・」
女性の目が鋭くなる。
あれ、なんか怒らせた?
「案内してくれ」
有無を言わせない口調でクリスティナは言った。




