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敵意

 パルクを抱えてしばらく歩くと、川のせせらぎが耳に入ってきた。滝の上との事だったので、川沿いに進めば迷う事は無いだろう。


 30分ほどで、目的の滝にたどり着いた。


 しかし、ここで想定外。この滝、めちゃくちゃ高い。何段にも分かれていて、一番上までは300mくらいあるのではないだろうか。


 周りは切り立った崖で、とても登れそうにない。しかし、子供のパルクが一人で下りてきたのだから、どこかに楽に登れるルートがあるはずだ。


 道を聞こうとパルクに声を見ると、穏やかな寝息を立てていた。

 怪我をしたのが昨日という事だったから、一晩中眠れずに過ごしたのだろう。

 起こすは気がとがめる。


 自力でルートを探して、どうしても見つからなかったら、申し訳ないけど起こさせてもらうとしよう。



-----


 崖に沿って歩いていると、登れそうな斜面を見つけた。

 斜面は踏み固められているようにも見え、人が通った跡にも見える。


 滝からかなり離れてしまったが、おそらくここが集落へ続く道だろう。


 人一人がやっと通れる道幅の崖の道を慎重に登っていく。


 谷側は断崖絶壁。


 半年間の山籠もりでこの手の道には慣れてはいたものの、パルクを抱えているので両手が塞がっており、かなり緊張した。


 崖を登りきると、眼下には広大なパノラマ広がっていた。


 遠くにはいつ終わるとも知れなかった森の終わりが見えた。その先には草原が広がっている。

 街道らしきものは見えなかったが、ゴールを見たような気がして俄然やる気が湧いてきた。


 パルクによると、集落は滝の上にあるとのことだったので、崖上を滝まで戻れば辿り着けるだろう。


 パルクを見ると気持ちよさそうな寝息を立てていた。


 人離れした大きな目は、初めて見た時はギョッとしてしまったが、慣れてくると可愛らしいじゃないか。


 パルクをしっかりと抱え直して足を進めた。



-----


 突然、左足のふくらはぎに強い衝撃を受けた。

 直後に激痛。

「グアッ!」


 バランスを崩して尻もちをついた。パルクを落とさなかったのは上出来だった。


 左足をみると、ふくらはぎから矢のようなものが生えている。

 射られた?


「動くな!」

鋭い声が響いた。


 声の方に振り向くと、パルクと同じ目をした若い女性が仁王立ちしていた。


 女性の背後のに二人、さらに後ろの木の上にも数人、弓矢を構えた人達に囲まれていた。


「子供を返せ!」


 突然敵意を向けられて声が出ない。


(大丈夫、パルクを返して説明すれば大丈夫だ)

そう、誤解なんだから、と心を落ち着かせる。


 パルクの骨折した足に注意しながら、慎重に地面に寝かせる。


「は、話を聞いてくれ!」

両手を上げて敵意の無い事を示しながら叫んだ。


 リーダーと思われる女性が右手をこちらに伸ばした。

「殺せ!」

(問答無用かよ!)


 後ろは崖。

 だが射殺《いころ》されるよりはマシだ。


 とっさに崖から飛び降りた。

 そしてすぐに後悔した。

 高さ約300mの垂直の崖。

 眼下にはうっそうとした森。


 内臓が持ち上がるような浮遊感と共に、射られた方がマシだったかもしれないと思い直していた。


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