第39話 ガールズだけの秘密のトーク
黒川乃愛とそのご両親、そして明星と翠。
この場に隼人が居ないお陰で、先程までの下校時に比べればまともな社交性を発揮する事が二人、借りて来た猫のように静かにお話をした。
隼人の前ではアホになる翠だが、そうじゃない場合は一応それなりに大人な対応も出来る様子。
「黒川先輩とは書道教室の時からとても目をかけて頂いておりましたので、こうして御家族の方にお礼を言える機会に恵まれて幸いです!」
「ははは! お礼を言いたいのはこちらの方だよ。なあ?」
「ええ、そうよそうよ。館花さんの所の教室に通ったお陰で、乃愛は字も上手になったんだからねー」
「もうやめてよねー、お父さんもお母さんもー。翠ちゃんに比べたら私の字なんてほんと全然なんだからー」
乃愛とそのご両親を相手に堂々と。
それでいて丁寧に。
下手に出るように話しをする翠を見れば、流石の明星もちゃんとしようと冷静になった様子。
翠が腹に一物を抱えている事は間違いないが、そうはさせまいと明星も丁寧な冷静に大人な態度で夕食を頂いたので、黒川宅での夕食は恙無く終了。
「夕食御馳走になっちゃってごめんね? ありがとう、乃愛」
「突然家にお邪魔してしまって、晩御飯まで御馳走になってしまって、感謝しています、先輩!」
「いいよいいよそんなのー。うちお姉ちゃんが今大学行ってて一人暮らしだから、沢山で食べるの久し振りでお父さんもお母さんも楽しかったと思うよー」
夕飯が終われば乃愛のお部屋に移動。
特に用事があるわけではない明星だったが、翠が帰ろうとしない様子に警戒心を強めて、一緒に二階にある乃愛の部屋にお邪魔する事にした。
「それにしても意外な組み合わせで驚いちゃった」
「空野先輩と会ったのは本当にたまたまですね。城崎先輩とは知らない仲でもないので、部活帰りで遅くなる時は一緒に帰る事もあると言う感じでして。その時にたまたま見かけただけです」
一緒に帰るようになったのは今週の月曜が初めてだけど、嘘はついていないなかもしれない。
すると、そんな事を言う翠の視線を受けた明星も口を開く。
「ね! ホント偶然だったよねー。私は隼人と同じクラスからよく一緒に帰るんだけど、今日はちょっと教室に残って勉強してて、帰る時に偶然見つけちゃってねー」
こちらも帰るようになったのはつい先週からだけど、真っ赤な嘘とも言い難いが真実とも言い難い厳しい言葉。
翠も明星も要らん見栄を張って相手を牽制。
しかし、彼女達は忘れている。
今自分達の目の前でベッドに座っている女子が何者か。
彼女の事を完全に忘れているのだろう。
「あ、そうだったんだね! 私もいつも隼人と登下校してたつもりだったんだけど、二人共よく隼人と帰ってたのにこれまで会わなかったのって、凄い偶然だよね。ふふふ! あ、でも明星は時々一緒に帰ったよねー。翠ちゃんも小学生の頃は時々一緒に帰ったの、懐かしいねー」
「そ、そうだねー!」
「た、確かに……!」
二人の目の前の相手はマジで隼人と常に行動を共にしていたラスボス。
その為、翠も明星も無意味な虚勢を張れば張る程に、張った虚勢に応じた分だけ強力なダメージを受ける事になる。
二人が日々妄想するドエロい行為。
それらを除いた凡そ全てのカップル的なイチャイチャ行為は、乃愛と隼人が日常的にしていた極ありふれた行為。なので、要らん虚勢を張った瞬間その言葉は全て倍の威力で跳ね返ってくる事になる。
黒川乃愛は強力な反射魔法の使い手なので、慎重に攻略しなければ勇者たちは自分自身の言葉で死ぬ可能性がある。
「でもそっかぁ、明星って隼人の事嫌いなのかなって思ってたけど、一緒に帰るくらいだから全然そんな事はなかったんだね。色々変な噂とかも流れてたから、勘違いしちゃってた」
「もちろん! クラスではいつも一緒、お昼ご飯だって一緒に食べる仲なんだから」
「あっ、そうだったんだ? 良かったぁ。やっぱり噂とか当てになんないよね。ふふふ」
「私と隼人は昔から仲良いってばー」
「だよね! あ、それに翠ちゃんも隼人がいつも部活で叱られるって言ってたから、もしかしたら仲が悪いのかなって思ったんだけど。そう言うんじゃ無さそうで良かった」
「当然です! 書道の事となると多少熱くなる事もあるが、私と城崎先輩の仲はとても良好です。先輩の字にはいつも感嘆させられてばかりです」
何が『もちろん』で、何が『当然です』なのかは知らんけど、とりあえず隼人との仲が良い事をアピールする二人の姿に、乃愛も二人が隼人と仲が良いと知って嬉しそうに笑う。
しかし、そんな嬉しそうな笑顔は徐々に鳴りを潜めたかと思うと、今度は少し眉をひそめた乃愛が口を開いた。
「……あ……あのね? 二人共、隼人と仲良いみたいだから、ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど、いいかな?」
控えめに話し始めた乃愛。
どこか緊張した様子の彼女が話そうとしている内容に察しがついている二人はゴクリと息を飲み込むと、乃愛と同じく全身を緊張させる。
「ま、まあ、聞くだけなら」
「私でよければ、ぜ、是非」
「……うん。あ、でも、絶対に内緒に出来るって約束して欲しいんだけど……。あー。ど、どうしよう。いや、ん-、うん、いや、うん、やっぱりやめとくね! ごめんごめん……あはは!」
「口の堅さには自信がある。拷問をされても吐かないと誓います! 私なら大丈夫です!」
「私だって口は堅いから! 大丈夫! 絶対に内緒にするから、何かあるなら相談にのるよ!」
乃愛の口から飛び出して来る話。
それは恐らく、隼人に告白されたと言う話。
そう予想する二人は是が非でもその話を聞きたいようで、どうにかして口を開かせようと二人で乃愛を励ます。
(この感じ、乃愛が話そうとしているのは間違いなく隼人に告白されたと言う話だよね。隼人からは聞いて知ってるけど、ここは乃愛からも聞いて確定させたい。乃愛から正しい状況が聞ければ、もっと良い隼人の慰め方もわかるかもだしね)
(黒川先輩が話そうとしているのは、隼人君からの告白についてで間違いない。まずは話を聞いて相談に乗る。その後で黒川先輩と信頼関係を築いて、隼人君と私の仲を繋ぐ協力をして貰おう。振った男とは言え、大切な幼馴染。隼人君を慰めたいと考える女子がいれば、きっと応援してくれるはずだ)
そんな事を考える二人が一度口を閉ざしてしまった乃愛を優しく励まして、背中を押す事しばらく。
「うーん、それじゃあ、本当に、絶対に内緒だからね? 学校でそう言う噂広まったら、絶交だからね?」
「だから絶対に内緒にするって、安心してよ」
「約束を破るような事があれば切腹します」
一度閉じた口を乃愛がようやく話を再開。
「え、いや、うん、切腹はしなくていいんだけどね。でも、じゃあ、わかった。実は私、先週隼人に告白されたんだけど──」
明星と翠の予想通り。
乃愛の口から飛び出して来たのは隼人の告白。
乃愛の話を黙って聞く事にした二人は、この後どのようにして動くべきかを脳内シミュレートしていたが──何事も、予想通りに事が運ぶとは限らない。
まずは手探りですね




