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第40話 勇者たちの共演


 城崎隼人が黒川乃愛に告白して振られた。

 全てはそこから始まった。


「と言う感じでね。隼人はいつも通りでいようって言ってたんだけど、やっぱりちょっと避けられてるのかなって……」


 乃愛から聞かされた話は非常に単純。

 隼人に告白をされたけど断ったと言う話。

 断ってからは隼人に避けられている気がすると言う話、と──。


「仕方ない事だと思うけど。それでも、こうやって隼人と顔を合わせない日が続くのは少し寂しいかなって。今だけならいいんだけど、これからずっとってなると、それはちょっとどうなんだろうって思って……」

「そ、そっかぁ」

「な、なるほど……」

「だから、この十日くらいで私なりに考えたんだよね。男女の関係って言われてもまだよくわからないけど、隼人とはこれからも仲良くしたいなって思ったら、お付き合いしちゃうのもいいのかなって。二人はどう思う?」

「えっ? と、うーんっと……」

「あ、っと、ぅ、うーむ……」


 ──乃愛からの恋愛相談と言う超弩級のヤベェ話。


(ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って……! 何でそうなるの!? 乃愛、あんた隼人のこと振ったんでしょ!?)


(まずいまずいまずいまずい、まずいぞ、これは……! 何故なにゆえに黒川先輩はそんな事を言い出した! 振ったなら潔く隼人君を手放してくれ!)


 ラスボスの放った何気ない言葉。

 否、ラスボスはただ立ちあがろうとしただけ。

 勇者の訪れを知って立ちあがろうとしただけ。


 しかし、たったそれだけの事で魔王の放つオーラを浴びた二人の勇者は絶命。


 物語の大前提を崩壊させる言葉。

 全ての舞台がリセットされる恐るべき事態。


「告白されるまで考えた事なかったんだけど、隼人が居ないとやっぱりちょっと寂しいのかなって思ってね。男女交際って言っても何するのかわからないんだけど、付き合って今まで通りでいられるならそれもありなのかなって。明星も翠ちゃんも、男子に凄いモテてるから、こういう時どうすればいいのかわかるかなって思って。告白とかってどうすればいいのかな?」

「それは……ああー……」

「いやぁ……うーん、と。ですね……」


 しかし、絶命したかに思われた二人の勇者は奇跡的に一命を取り留めていた。


 残りHP1の状態。

 どうにかふんばる状態ではあるが、生き残っていた。


 理由は単純。

 目の前の魔王にまるで殺意が無かったから。

 相手に殺意がない事に気が付いた勇者たちは全身から血を吹き出しながらも、この場から無事に帰還する為に頭を働かせた。


「まあ、うーん、でも、どうかなぁ……? 告白されて一度振ったなら、振られた人がしばらく距離を置くのは普通の事……じゃない、かなぁ? だ、だよね、館花さん?」

「う、うむ。そう、だな。それも一過性のものなので、時間が経てばまた自然と以前のような関係性に戻るようになっている。だから、無理に付き合おうと考える必要はないのではないかと。私はそう思うが……空野先輩はどうお考えですか?」

「あっ、あー! 私もそう思うなー! 興味無い相手と無理に付き合うのは、ちょっと違うんじゃないかなーって思うかもー」

「そうですよね! 空野先輩のような可愛い方が言うなら、きっとそうに違いありませんよ! 黒川先輩!」


 考えた結果、同じく魔王城で死にかけていたライバルと肩を抱き合って、お互いに片足ずつ力を入れて立ち上がる事に成功。


 ここはいがみ合う場面ではない。

 今は共闘する場面であると。

 ライバル達は力を合わせて難局を乗り切る事にした。


「あ、別に無理とかは思ってないんだけどね? 今まで考えた事なかっただけで、隼人が無理ってわけではないかな。男女交際って言われてもよくわからないかなーって感じでね?」


 しかし、ようやく立ち上がった瞬間。

 魔王が軽く振り向いた風圧だけで吹き飛ばされた二人は、壁に叩きつけられてしまった。


「ま、まあまあまあ、でもさ、乃愛? 男女交際って言うのはやっぱり、好きな相手と付き合ってこそだと思うから。ちょっと寂しいからって理由だけで、一度告白を断った隼人と付き合うのはやっぱり違うんじゃないかな?」

「あー、うーん、やっぱり、そうかな?」

「そうですよ、先輩! 告白を断った直後に少し避けられる事は普通ですよ? それに、相手からすると気まずいので少し避けられますが、それもずっとではないですから。今は城崎先輩をそっとしておいてあげるのが一番ですよ!」

「そ、そっかぁ。うーん、でも、まあ、そっか。そうかもね。どうしても付き合いたいわけでもないのに、隼人の告白オッケーする方が失礼だもんね」

「そうだよそうだよ! 乃愛なら知ってると思うけど私も良く告白されるからわかるんだけどね、一月二月もすればいつも通りになるって言うか。なんなら、告白して来た男子が他の女子と付き合ってる事もよくあるからね」

「へー、そうなんだ? 一月二月かー、なるほどね」

「黒川先輩と城崎先輩はとても仲の良い幼馴染なんだから、わざわざ付き合う必要はないんじゃないでしょうか。今は少し城崎先輩が顔を合わせ辛いと言うだけで、空野先輩が言う通り一月二月もすれば、またいつも通りになると確信しています!」

「そう、かも? でも確かに、ちょっと喧嘩して一週間二週間口きかないみたいな事は今までもあったしね。でも、なんかいつの間にか仲直りしてたし。うん、わかった。そうだよね。今はそっとしておいた方が良いよね」

「そうそうそう! 考え過ぎちゃダメだって、あはは!」

「その通りですよ! 少し寂しいと言うのであれば私がお相手致しますので! ははは!」


 勇者達の必死の説得によって、魔王城に住まうラスボスは再び就寝。


 うっかり魔王城に足を踏み入れてしまったか弱き勇者たちは、ほっと胸をなでおろした。


(マジで死ぬかと思った……けど、でも、そっか。何となくわかった、かも)


(黒川先輩は隼人君と付き合っても構わないと思う程度には好感度が高い)


(もしかすると乃愛が自覚していないだけで……。ひょっとしたら、隼人に対して薄っすらと恋愛感情みたいなのを抱いている可能性もあるのかも。どうなんだろう)


(隼人君を振ったのだからと安心しきっていたが、これは注意した方がいいのかもしれない。黒川先輩を放置するのは危険な気がしてならないぞ。なんてことだ)


 最強の敵を前に手と手を取り合う二人の思惑はここにきて初めて一致。


「今は隼人も困惑しているだろうから、乃愛も少しはそっとしておくのがいいんじゃないかな?」

「そう、だな。それがいいのではないでしょうか。城崎先輩にも心を整理する時間は必要かと」

「確かに! それはそうかもね。ありがとう、明星、翠ちゃん!」

「い、いいよいいよー、そんなのー。全然たいしたことじゃないってー」

「で、ですね! このくらいどうと言う事はありませんよ、黒川先輩!」


(乃愛の本心はわからないけど、どっちにしても隼人に迂闊な事を言わないように監視した方が良いのかも)


(危なかった。今日ここに来ていなければ、隼人君と黒川先輩が付き合っていたかもしれなかったのか)


(二人に相談してよかったー。明星と翠ちゃんまた遊びに来ないかなー。でもそっかそっかー、二カ月かぁ。長いなぁー。隼人と遊びたいなー)


 胸の内に三者三様の想いを抱き。

 その後も内緒のお話はしばらく継続。

 黒川乃愛の部屋の中には女の子の笑い声が絶えなかった。


「……うん?」


(なんだ? 乃愛の部屋の方から空野と館花の笑い声みたいなのが聞こえて来るんだけど、何の話してるんだあいつら。てか、窓閉めてるのに笑い声聞こえるって近所迷惑だろ)


 漫画を読んでいると、最近一緒に居る時間が増えた女子の笑い声が聞こえて来たような気がした隼人、楽しそうに笑う彼女達の話に興味がわいたのか、窓の向こうから聞こえる子に耳を傾け──。


(うるせえ)


 ──傾ける事なく、ヘッドホンをかけて音楽を聴きながら漫画を読み始めた。


 全然興味がなかったらしい。



 ◇ ◇ ◇



 自分の世界を変えてくれた男の子。

 自分の心を強くしてくれた男の子。

 自分の近くに居てくれた男の子。


 一度は胸の奥に仕舞い込んだ大切な想い。

 動く事がないと思った錆びついた恋心。

 何も考えずにいた当たり前の日常。


 ぐるぐるに絡まり始めた三本の赤い糸。

 だんご状態の糸の先。

 彼の小指に繋がる赤い糸の持ち主は如何に。




 第二章:勇者たちの饗宴 完

明星と翠は二人で協力して乃愛の意識を逸らした方が良いと思うの。

相手はLv999で、二人はLv-999くらいの差はあるけど頑張ろうね。

マイナスとマイナスを掛け算したらプラスになるって言うし、いけるいける、全然いけるって

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― 新着の感想 ―
主人公、どうするのこの状態… 無自覚系はたちが悪い良い例ですね…
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