第36話 あ、どうも初めまして!
朝は翠と料理や書道の話をしながら登校。
放課後は明星と漫画やアニメの話をしながら下校。
城崎隼人がとても充実した、モテモテ高校生活を送るようになって更に数日。
いずれそう言う事もあるんだろうな。
と言う事態が発生したのが木曜日。
書道部の部活終わりの放課後の学校。
この数日は放課後になった瞬間に、教室で明星に捕まってそのまま帰宅する事になる隼人も、今日は部活終わりなので翠と一緒に帰る流れになった。
「──隼人、その子誰?」
「──先輩、その女は誰だ?」
月曜日以来となる隼人との下校にルンルンな翠が、ボーっとした様子の彼と一緒に校門を出ようとした所で、声をかけて来る女子が一人。
「んー? あー。んっと、こっちが同じクラスの空野明星さんで。こっちは部活の後輩の館花翠さんだ。二人共会うのは初めてだったのか」
「へぇー」
「ほう」
とりあえず間に立って二人の紹介をした隼人。
だが、それ以上は特に何も言わない。
もちろん、面倒臭くなって口を閉じたとか、そう言う事ではない。
普通はこの後、紹介され者同士がニコニコと愛想笑いを浮かべて、一言二言挨拶を口にするので、二人が挨拶を終えるのを待とうと思って口を閉じただけの話。
しかし、待てど暮らせど二人が口を開かない。
明星は“へぇー”と言ってから何も言わず。
翠は“ほう”と口にしてから何も語らず。
自分の隣に立っている翠。
校門の手前に立っている明星。
二人が黙って見つめ合っている様子を、隼人もしばらくの間ボーっと眺めた。
そんな三人の様子を部活終わりの生徒がチラチラと見て通り過ぎていく。
どこの学校にでもあるとても穏やかな放課後の一幕。
(名前なら聞いた事はある。背もあってスタイルも抜群だから何度か遠目に見た事はあったけど……。へぇー、この子が館花翠)
(この女が空野明星か。名前なら聞いた事がある。一つ上の学年に有名なインフルエンサーが居るとかなんとか……)
(何でこいつらずっと黙ってんだ。こういう紹介されたら、普通は名刺交換とか挨拶すると思うんだけど。女子の間では違うのか? まずは見合ってからファッションを褒めるとかあんのかな?)
互いに互いの事を考える三人。
愛の反対は憎しみではなく無関心。
とか言われているらしいので、こうしてお互いの事を考えている三人には多少の愛情が芽生えているのかもしれない。知らんけど。
(見た感じ化粧もしてないのにそれって、どんだけよ。自分は飾らなくても自信ありますーって? そんな子がなんで隼人の隣にいるのよ)
(なるほど。確かに皆が口をそろえて可愛いと言うだけの事はある。私が知る女子の中では断トツだ。そんな女が何故に先輩を待っていた)
(……まあ、女子には女子で色々あるんだろう。幼馴染の事すらわかってなかった俺が女子の気持ちを理解しようだなんて、おこがましいんだよなぁ。もう少し黙って見てるか。それか先に帰るか)
静かな時間が続く事、三分。
「空野も館花も、まだ続くなら先帰ってていい?」
「いや! 一緒に帰ろ、隼人ー!」
「いえ! 一緒に帰りましょう、先輩!」
痺れを切らした隼人が口を開けば、無言で見つめ合っていた女子二人も口を開いた。
「ういー」
ぱーっと明るい笑顔を浮かべた二人。
適当に返事をした隼人が歩き出す。
すると、すーっと笑顔を消した二人が睨み合う。
そうして、そのまま明星が隼人の左側に、翠が右側に移動して交互に話しかけ始めた。
「部活が終わる時間ってこのくらいなんだね。大丈夫? 疲れてない? 隼人?」
「うん? うん。別に疲れてはないけど。それより空野は何でこんな時間ま──」
「そうだ、城崎先輩!」
「え? あ、うん。な、なになに?」
「いや、次の部活からはコンクールに向けた創作が始まるだろう? 高校のコンクールがどのような感じなのか気になっていたんだ」
「あー、はいはいはい。中学までと基本は変わらないけど、その辺も次の部活の──」
「ねえ、隼人!」
「ん? ぇ? あ、なになに?」
「昼休みに見てた動画なんだけどさ。あの後返信があって今度コラボしないかって言われちゃって」
「おお、すげえな。やっぱりそう言うも普通にあるんだな。コラボってどんな感じの──」
「先輩、少しいいだろうか!」
「え、あ、おう。な、なに?」
明星と翠から交互に話しかけられる隼人。
どっちの話題にもたいして興味がない彼でも、流石に今の状況が普通ではない事くらいは理解出来る。
(何でこいつら交互に話しかけてきてんだよ、何も頭に入って来ねえわ。三人で帰るなら三人で会話しろよ。話を繋げる前に次の話題を提供すんのやめろ。会話ド下手くそかよ、こいつら)
そして、珍しくちょっとイラついていた。
明星が提供した話題を拾って翠に繋げようとすれば、その前に翠から新しい話題が突っ込まれ。
仕方なしに翠が提供した話題を拾って明星に繋げようとすれば、その前に明星から次なる話題が投入される。
そんなやり取りがしばらく続いた結果。
割と誰とでも楽しく会話が出来るコミュ強男子の隼人は、珍しくちょっとイラついていた。
しかし、それも一瞬。
イライラを通り越して面倒になったのか。
深く考える事をやめた。
そんな徐々に口数が減っていく隼人に気付く様子もない女子二人は、彼を挟んで睨み合いを続けていた。
(この子、間違いない)
(この女、間違いない)
「隼人!」
(──この子、隼人の事を狙ってるんだ)
「先輩!」
(──この女、隼人君の事を狙っている)
馬鹿の癖にそう言う嗅覚だけは働くのか。
単純に、明星も翠も露骨な好き好きオーラを惜しげもなく放出しているせいか。
目の前に居る女がライバルであると感じ取った二人が、バチバチに火花を飛び散らせるちょうど真ん中。
バチバチに飛び散った火花を浴びたせいで全身に火傷を負っている隼人は、喋るのが面倒になったようで、殆ど無言で歩いていた。
隼人の友達です! くらい言えんのか、君らは! そう言う所やぞ!




