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第35話 大きいのと小さいの


 あわよくば乃愛が着替えている姿を見れたらいいな、と。


 朝起きると真っ先にカーテンを開けていた隼人だったが、この一週間は常にカーテンが閉まっている状態。


 この先の未来で乃愛が彼氏を部屋に連れ込んだ光景を想像したら死んでしまいそうになるので、もう隼人はカーテンを開けようとは思わないし、窓の向こうに乃愛が居ないものとして考えていた。


「いってきまー」

「ちょっと、隼人」

「んー?」

「あんた最近乃愛ちゃんと学校行ってないの? 朝になるとうち訪ねて来てるよ?」

「これまでも毎日一緒に登校してたわけじゃないんだから、そんな心配そうな顔しなくても」

「それはそうだけど」

「んじゃあ行ってきまー」


 玄関を出る前に母にチクリと言われたが、今日も乃愛に黙ってさっさと学校に向かう。


 しかし、残念ながら今日は一人で登校できるわけではない。


「あ! おはようございます、先輩!」

「おっはー」


 駅前に到着すれば、今日から一緒に登校する事になってしまった翠と合流して、適当に挨拶をして改札を抜けた。


 この世に地獄があるとすれば、それは通勤通学ラッシュの電車と言っても過言ではない。


 毎日満員電車に乗っているうちに人は思う。

 きっと自分は前世で余程悪い事をしたのだろう、と。


 とは言え、隼人たちの乗る電車はそこまで混んでいないので、生き地獄と言う程でもない。


 精々が肩と肩がぶつかる程度の混雑。

 否、今日からは胸がぶつかる程度の混雑。


 昨日帰宅した時と同じように向かい合って立つ隼人と翠は、混雑する電車の中で身体を密着させていた。隼人の身長は171㎝あるが翠も165㎝あるので、向かい合えば顔は近いし、くっつけば大きな胸がぶつかるのは当然の話。


「おい、その手はなんだ」

「掴む場所が無いのだ。許して欲しい」

「……はいよ」


 壁を背にして立つ翠と、その前に立った隼人。


 彼女を潰さないように壁ドンの態勢を取る隼人に対して、これ幸いと彼の腰に腕を回してがっしりと掴む翠。


(何と言う事だ……! 満員電車なら隼人君に合法的に抱き着けるのか! むしろもっと乗車率が上がっても良いくらいだ。なんなら抱きしめて貰えないだろうか)


 正直言えばあんまり気にしていなかったとは言え、それでも毎日それなりに億劫に感じていた満員電車。それが今日から隼人と一緒に登校出来ると言うだけで、彼と身体をくっつけながら乗車できると言うだけで、翠の頭にはハッピーなホルモンが分泌されまくっていた。


(これはもうキスをしてもいいの……だろうか? 電車が揺れて偶然を装えば、ワンチャンスあるのではないだろうか? ……いいや、いいや、落ち着くんだ、館花翠。公衆の面前でそのような行為をするわけにはいかない。今は隼人君の肩に顔を埋めるだけにしておこう)


 目と鼻の先にある好きな人の顔にテンション爆上がりの翠が、しょーもない事を考えている一方。


(……おかしい。乃愛と通学する時も同じような態勢になる事はあったけど、こんな事にはならなかった。いつも大人しく立ってニコニコしていたけど、こんな感じには──)


 小柄で凹凸が少な目な乃愛。

 長身で凸凹した感じの翠。


 自分としては乃愛と登校する時と同じ立ち位置のつもり。だと言うのに、どう言う訳か彼女と登校している時に全くぶつからなかった胸が、翠と登校している今はまるで押し当てられているかのようにぶつかっている事実に、隼人は女体の神秘を感じていた。


 まあ、要するに。


(──てか、館花デッッッカ……!)


 翠のおっぱいデッカ。

 と言う事実を改めて実感していた。


(昨日も思ったけど、女子ってこんな風に胸が当たっても気にならないのか? それか、館花がおかしいだけか? 気付いてないって事はないよな? 乃愛の胸が当たる事なんて基本なかったから、その辺全然わからないな)


 自分の胸に押し当てられている制服越しの翠の胸と、大好きな幼馴染の胸を思い出して、身をもってその差を感じている隼人。


(てか……本当に痴漢とか言って怒らないだろうな。それが怖いんだけど。いや、館花だって自分から俺の腰に手を回してるんだから、周囲から見ても痴漢には見えないはずだ。大丈夫のはず。……大丈夫か? ホントか? この状況結構詰んでね?)


 しかし、今はまだ翠への警戒心が高い。

 この状況を嬉しいと感じる気持ちは皆無。

 心配する気持ちの方がずっと強い隼人。


 翠はこれから隼人の警戒心を解いていって、彼がこの状況を嬉しいと感じて、更には抱きしめて貰えるように頑張って貰いたい所である。


 無論、本当に電車内でそんな事をやっている奴が居たらヤバイので、この先で警戒心が解けたとしても、隼人から必要以上に近付く事は絶対にないが。


 そうして、天国と地獄のどっと疲れる電車の時間が終われば、後は学校に向かうだけ。


「帰りは何時に教室に迎えに行けば良いだろうか!」

「え、今日の帰りは一緒じゃなくても良くね? 部活の日は帰宅ラッシュに重なるからわかるけど、部活無い日の帰りの電車は結構空いてるだろ?」

「そ、それは、まあ、そうだが。何か予定でもあるのか?」

「いやー? 今の所特に予定らしい予定はないけど──」

「あ、だったら!」

「だけど、友達とどっか遊びに行くかもしれないから、今の所予定がないってだけな」

「あ、そうか。なるほど」

「館花だって部活ない日は友達と遊びに行ったりするだろ。それと一緒だ」

「いや、私はあまり遊びに行かないから予定はない。たとえ予定があったとしても先輩との帰宅を優先させて貰う」

「そこは普通に予定を優先しろ」

「いやっ! しかしだな──」


 その後、適当に会話を重ねているうちに学校に到着すれば、隼人と翠は解散。


 そして、教室に入れば選手交代。


「おはよう、隼人!」

「……はい。おはよございますー」


 元気いっぱいの明星に挨拶をされた隼人は、休む暇もなく彼女との会話を開始した。

みんな違ってみんな良いじゃない

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