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第34話 それで付き合ってないってマジ?


 翠との帰宅イベントが終了。

 どっと疲れた隼人が帰宅。


『部活おつかれー』

『さんきゅー』


 帰宅早々にスマホに届いた乃愛からのチャットに気が付いて、嬉しいやら虚しいやら悲しいやら、胸中複雑な気持ちになって更に疲れる。


『今からお風呂?』

『風呂入ったら飯食って勉強かなー』

『じゃあ後で窓開けて話しながら勉強するー?』

『今日はちょっと疲れたから、パパっと課題終わらせてすぐ寝るかな。悪い』

『オッケーイ。疲れたんなら早く寝るんだよー』


 リリンクでの簡単なやり取りを終えれば、隼人の口から出て来るのは深くて長い溜息のみ。


(乃愛はなんも悪い事なんてしてないのに、どうしても避けてしまう。なにやってんだかな、俺は……。こういう所が男として弱いとか終わってるとか、腑抜けとか言われる所以なんだろうな。女子から見ればそう言うのはよくわかるらしいから、振られたのも当然だったって今ならわかるかも)


 別にそんなに疲れてはいない。

 すぐに寝るつもりもない。

 ただ乃愛と顔を合わせたくないだけ。

 会話をしたくない為に並べた嘘のチャット。


 その文面を見て自己嫌悪に陥る隼人は、何度も溜息を吐き出してしまう。


 振られた直後にちょっと避ける。

 その程度、割と誰だってある普通の事。


 だが、これまで明星や翠のような昔から自分を知る綺麗で可愛い女子に散々煽り散らされて、見下されていた隼人の自己評価は今はとても低い。乃愛がいたせいで誰も言い寄って来なかっただけで、実の所それなりにモテる側の男子なのだが、城崎隼人の自己評価は現在限りなく低い。


 ナメクジ以下かもしれない。もすかすると、ナメクジの方が誇りを持って地面を這いずり回っているかもしれない。


 自分は男として終わっていて。

 うじうじと情けなくて。

 ストーカー気質で。

 優しさと弱さをはき違えた弱者で。

 弛んでいて風紀を乱すダメな存在。


 黒川乃愛に振られた今、昔から付き合いのある二人の女子に散々刷り込まれた言葉を真に受けて、受け入れてしまっている状態。


 椅子に座って背もたれに大きく身体を預けた隼人は、スマホをベッドの上に放り投げると、また溜息。


(半年も一年もすれば、今感じてる気持ちも綺麗になくなるもんなのかな)


「どうなんだかなぁ」


 明日になれば告白に失敗して一週間。


 もう一週間と見るか、まだ一週間と見るか。

 それは人によって異なるだろう。

 だが、思春期青春ボーイの心はまだまだ泥の中と言った様子。


(直後よりはだいぶマシだけど、一人になって考えるとやっぱ落ち込むなぁ。……てか、自分の部屋に居る間が一番凹むって最悪の環境すぎないか。どんなデバフだよ、これ)


 これまで最高だと思っていた環境が一転。

 今や乃愛のすぐ隣にある部屋は隼人にとって罰ゲームでしかなかった。


(あー……でもそう考えると、学校居る間は空野がうるさすぎて、あんまり乃愛のこと考えなくて済んでる所はあるか)


 晩御飯が出来るまでの間。

 暇をつぶす為に漫画を手に取った隼人。

 ここ数日、異常行動を見せる明星を思い出していた。


(なんかちょっと怖いけど、もしかしたら本当に元気づけようとしてくれてるんじゃないかって気もしてるんだよな。でもなぁ、空野の場合そうやって油断させたところで、心を抉って来る可能性も捨てきれないからなー……。ドッキリ大成功とか言って、クラスの女子の前で笑い者にする計画を練っている可能性もあるっちゃある。空野だしなぁ……)


 昔から一貫してきつく当たられていたならともかく、明星とは最初の頃は良好な関係を築いていたのに、そこからきつい言葉を吐き出されるようになった過去がある。その事実が隼人に疑心暗鬼を生んでいた。


(最初から嫌われてるのはこっちも気にしないから全然いいんだけど、仲良いと思ってた相手にいきなり突き放される感じは結構心えぐられるからなぁ。今はなんか異様に優しく感じるからそこは嬉しいんだけど、逆に怖くもあるってか。正直、あんま近寄りたくないんだよなぁ)


 明星の猛烈なアプローチは残念ながら隼人にはまだ正しく認識されていない様子。


 漫画借りるのも今回で終わりでもいいかなー、とか。そんな感じの事を考える隼人の耳にスマホからリリンクの新着通知音が届いた。


 と言う事で、ベッドに放り投げたスマホを回収した彼はそのまま床に座り込んで、ベッドを背もたれ代わりにしてリリンクを確認。


『こんばんは。早速ですが、明日の朝は何時にお迎えに上がればいいでしょうか』


 メッセージの送り主は館花翠。

 内容は明日の登校時間について。


『家まで迎えに来る気なのか?』

『その予定でしたが、ダメでしょうか』

『ダメって言うか普通に駅前集合でいいだろ』

『了解しました』


 漫画の代わりにスマホを持って、翠とのリリンクを淡々と続ける隼人は彼女についても考える。


(空野で思い出したけど、そう言えば館花もちょっと気味が悪いよな。普通にしてるだけなのに、弛んでるだの邪魔だの鬱陶しいだの言ってきてた奴がこの数日の変わりようと言ったらなんだ……?)


 部活の度に一生懸命に書いた字を貶して。

 自分の事を好き放題に馬鹿にしていた後輩。

 そんな後輩が晩飯を振舞ってくれて、今度は登下校で痴漢から守れと言う。


(どうにかして遠ざけようとしてるんだけど、全く言う事を聞かん。あんまり強く断ったら何言われるかわかったもんじゃないから、とりあえず様子見してるけど……。正直言って空野より館花の方がずっと怖いんだよな。……てか、握力63ってなんだよ)


 明日の登校時間についてリリンクでやり取りをする隼人は、何でこんな事になってんのかなーと考えながら、無表情でスマホを操作する。


 無論、痴漢被害で困っている後輩を助ける事に関しては何の抵抗もない。しかし、なんで自分がと言う疑問は終始頭の隅にこびりついている状態。


(この前の夕食の席で言っていた元気になって欲しいって言葉には……たぶんだけど、嘘は無かった。……ような気がしたんだけど、それも微妙かぁ。一番身近に居た女子の気持ち一つわかってなかったような奴が、碌に知らない館花の気持ちなんか読み取れるわけないんだよなぁ)


 自分と乃愛はもしかしたら両想いなんじゃないかな! とか。


 空野に相談しながら割と高い確率でそんな気がしていた隼人だが、結果は玉砕。そんな彼には最早自分の感性を信じるだけの自信は欠片ほども残されていない。


 自分のような男が女心を理解出来るわけがないと、明星や翠の最近の態度について考える度にそれを全て否定していった。


(何となく嘘はついてない気もしたんだけど、普通に考えればやっぱ有り得ないんだよなぁ。少し前まで生理的に無理みたいなこと言ってた相手が、たかだが失恋した程度の事で男子に飯作ったりはしないだろ。裏があると考えるのが自然だよなぁ……)


 ただの幼馴染から向けられる好意。

 それを恋愛感情と勘違いして生きていた死ぬ程痛い男子。

 現在、隼人の自己評価は悲惨。


 部屋の中で二人きりで漫画を読んだり。

 ご飯を作って貰ったり。

 くっついて登下校をしたり。


 明星や翠が今行っている程度のアプローチは全て乃愛と毎日のように経験済みなので、その上で見事に告白を失敗した今の隼人にとって、その程度の行動はアプローチのうちに含まれもしない。


 二人でお出掛けしたり。

 料理をあーんし合ったり。

 二人でプールに行ったり。

 お着替えを覗いてキャッだったり。

 お泊りの家族旅行に行ったり。

 一緒の布団で寝たり、あれやこれや。


 さながらラブコメに登場する主人公とヒロインのように。


 ウッソだろ! 

 その距離でまだ付き合ってないって、マジ?

 だったら、逆に君たちは何があったら付き合うようになるんだい?!

 彼氏彼女以外の人間にその距離感はまずいでしょ! 


 と言うような仲良しさんだった、隼人と乃愛。


 明星だって翠だって。

 彼女達以外の周囲の者だって。

 誰だって二人が付き合っているようなものだと考えるのが当たり前なくらいに、二人は仲良しさんだった。


 だからこそ、凡そ考えられるキスや本番以外の大抵の事は経験して、その上で見事に告白が失敗したせいか。今や隼人の眼に女子の好意を見抜くだけの力は欠片ほども残されていなかった。


「何考えて考えんのか……マジでわかんねぇ……」


 館花から送られてくる文章にも明星同様に大量のハートマークが付いていたが、それを無表情で眺めていた隼人はリリンクでのやり取りが終われば、さっさと漫画を読み始めた。

それは乃愛ちゃんの距離近過ぎるッピ! そんなの隼人じゃなくても誰だって勘違いするッピ!

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近過ぎるがゆえの難しい関係… 主人公に恋人ができたあとの修羅場をwktkしてお待ちしております
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