第28話 年頃の男女、部屋の中で二人きり
昼食を終えれば寛いでいてと言う明星を押し切って、隼人も一緒にお片付け。
(なんだか新婚さんみたいで楽しい。新婚⋯⋯。新婚さん。そっか、食欲を満たした後は性欲を満たす時間だよね!)
キッチンにて隣に立つ隼人を見る明星が『ぐへへへ!』と、ちょっと気持ち悪い笑い声を漏らすのを横目に、多少気味の悪さを感じている隼人。
(そう言えば昔はよくこんな笑い方してたっけか。高校入ってからは相談以外で殆ど絡みもなかったけど、あんまり変わってないのかな。相変わらず漫画もアニメもラノベも好きそうだから、変わってないと言えば変わってないか)
久し振りに気持ち悪い笑い方を見たお陰か。
理由はどうあれ、色々と変わってしまったように思った明星が実は昔と同じところもあると言う事に気が付いた隼人は、また少し彼女に対する警戒心を緩める。
そうして、お片付けが終われば再び図書室に戻ったのだが──。
「部屋で?」
「うんうんうん! 図書室で床に座って読むより部屋で読んだ方がいいかなって。あ、ほら! ここは飲食禁止だから、私の部屋でお菓子食べながら読も!」
「はいよ。つっても、さっき昼飯食べたばっかりだからそんなにお腹は空いてないけどな」
「ま、まあまあまあ、部屋いこいこ! 部屋ならパソコンの方で電子書籍も読めるから、もっと色々あるよ!」
「おお、マジか」
「マジマジぃ! 全部紙媒体で買ってるわけじゃないから、家族共有のアカウントの方でよくわかんない漫画とかラノベとかも大量に買ってて、全然紙より多いよ! あっ、そだ! それにアニメもいっぱい見れるよ! 動画配信サイト有名どころは全部契約してるから、なんでも見れるよ!」
「おお。そんじゃ部屋行くか。そう言や漫画もそうだけど、アニメも年がら年中大量につくられてるイメージあるよな。空野はやっぱそっちも全部見てる感じ?」
「あーんと。うーんとね、流石に最近はもう全部は見れてないけど、気になったのとか好きな声優さんとか監督さんのだけは見るようにしてるのと、原作既読の場合は評判良かったら見る感じかな? だから、今期だと──」
人並みにしか漫画とアニメに触れて来なかった隼人の質問に、オタクトークが止まらなくなってしまう明星ではあるが、一応部屋に連れ込む事に成功。
「それじゃあ、ちょっとお菓子と飲物用意してくるね!」
「お構いなくー」
そうして、明星の部屋の中に一人残された隼人は漫画を読む前にぐるりと部屋の中を見渡した。
(昔はポスターとかアニメのグッズが大量に置いてあったような記憶があるんだけど……。シンプルと言うか、オシャレな感じの部屋になってるな。なんか良い匂いもするし、こう言うの見ると昔と違うのがよくわかるなー)
基本的にははどの家具も主張をしていないのだが、全体的に見た時にカーテンや観葉植物など若干緑色が多い。柔らかい印象を受ける十畳ほどの明星の私室。
小学生の頃にお邪魔していた頃はもっと雑多に溢れかえっていて、フィギュアやアクリリルスタンドを飾る棚まで置いてあった部屋。それが今ではオタク要素の欠片もない部屋に変化。
(なんか……何て言うか。空野の家なんて昔何度も来たのに、なんか微妙に緊張するな。乃愛以外の女子の部屋ってよく考えたら久々だしな。あんまりジロジロ見るのは良くないか。漫画読んでるか)
部屋の中に漂ういい感じの匂い。
部屋の隅に置いてあるベッド。
昔は置いてなかった化粧台。
その上に置かれた小物の数々。
明星の部屋が小学生の時とは全然違う女子の部屋である事に気が付いた隼人は、妙な緊張感を身体から追い出すように漫画に集中した。
「お待たせー。あっ、い、いいよいいよっ!」
「こんなに運ぶなら言えって。危ないだろ、とりあえずそこに置けばいい?」
「あ、うん。ありがとぉ」
しばらくすると、両手でお盆を持った明星が帰還。
ペットボトルのジュースとコップを2つ、お菓子がいっぱい乗った少し大きめのお盆を持っていたので、それに気が付いた隼人は慌てて立ち上がって代わりにお盆を持った。
部屋の中央にはふわふわのカーペットが敷かれていて、その上には大きすぎないローテーブルが一つ。ジュースやお菓子が乗ったお盆をそこに置けば、隼人がカーペットの上に胡坐をかいて、明星は少し離れた場所にあるベッドに腰かけた。
そうして、コーラをコップに注いでお菓子をいくつか開けた所で、二言三言と言葉を交わせば後は静かな読書時間。
(……ついに部屋で二人きりになれた。ここからどうやったらいい感じになるんだろう? 私的には今もいい感じだと思うけど、エッチな雰囲気は全然ない気がする。隼人ずっと漫画読んでるし。……私も午前中ずっと漫画読んでたけど)
カーペットの上で黙々と漫画を読む隼人。
対して、ベッドに腰かける明星はそわそわ。
漫画を読むふりをしながら隼人を凝視して、ここから何をどうやれば次の展開に進めるのかを考えていた。
(何をすればいいんだろう。えっと……乃愛とはいつも何してるって言ってたっけ。ゲームして、お話して、お菓子食べるって言ってたような。それから、乃愛は隼人の部屋にいる間はよく隼人のベッドの上に寝転がってったから──)
「隼人っ!」
「んぁー? なになに?」
「あぁ、あのさ! 今ベッド空いてるから、使っていいよ! 寝転んで漫画読んでていいよ!」
「は? ……いや、ここでいいって。人の家のベッドで寝転がる趣味はねえよ」
「だよね! わかるぅう!」
「うん? うん、うん」
何を考えてその提案に至ったのかは敢えて気にしないが、静かな部屋の中で突然発せられた明星の謎の言葉を隼人は軽く首を傾げて受け流した。
そして、その後も隼人に何度も話しかけては首を傾げられる事を繰り返した所で。
「……あぁーのさ? 空野、何か俺に言いたい事ある感じ?」
「なっ、何もないよ!」
ようやく隼人がストレートに聞き返した。
紆余曲折を経て、今は隼人の隣に座って身体をくっつけながら漫画を読んでいた明星。何でもないと言い張って視線を逸らすが、流石に無理があった。
「何もない事はないだろ。今日だけじゃなくて、突然漫画貸すとか言い始めたのもそうだけど、やっぱりなんか隠してるだろ? 今更空野に何言われたって怒ったりしないから、なんかあるなら聞くって。昼飯も御馳走になったばっかだしな。何でも言ってくれていいよ」
「う、うーん。でも、ホントに何でも無くて……」
どうやったらキス出来るんだろうと思ってただけです。
とは、流石の明星も言えないようで、すぐ隣にいる隼人に見つめられた彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。
初めてのお家デートで舞い上がっているせいか、もうすっかり彼女気分の明星だが、言うまでもなく隼人の好感度はまだ全くと言っていい程に足りていなかった。
二人の見ている世界が交わるのはまだ先なのかもしれない。
何か起きてもいいのよ? 描写可能な範囲でね




