第27話 サステナブル系ガール
適当に漫画を選んだら、それを持って隼人を自分の部屋に連れ込む。
そして、ベッドの上で寝転がりながら漫画を読む私が、無意識を装って足を動かす。長いスカートをわざと少しめくれあがらせると、それを見た隼人がドキドキして、ついでにムラムラして女を意識する。
明星が悪いんだからな!
ごめんね、でも、隼人ならいいよ……。
と言う完璧な作戦を考えていた、明星。
「あ」
だが、隼人と一緒に図書室で黙々と漫画を読んでいた彼女は、十二時を告げるアラームがスマホから聞こえて来た事で現実に帰還した。
(お昼っ! ぇもうお昼?! なんで? 何でもうこんな時間経ってるの?! 時間を無駄にしてしまった! ヤバイヤバイヤバイ! て言うか! なんで私まで漫画読んでるのよ、おかしいでしょ!)
と言う後悔を胸に抱いた明星は、少し離れた場所で座って漫画を読んでいた隼人の下に慌てて駆け寄った。
「たっ、大変だよっ、隼人っ! もうお昼だよっ!」
「んあ? あー、もうこんな時間か」
床に胡坐をかいて本棚を背にして漫画を読み耽っていた隼人。
集中して漫画を楽しんでいた彼は、顔と漫画の間に突如として現れた明星の手を見て、ここが彼女の家である事を思い出すと、床に置いていたスマホを手に取って時間を見て立ち上がった。
そして一言。
「オッケ。ありがとな。そんじゃあそろそろ帰るわ」
「ななん、なんでなんでなんで!? なんで帰るの!?」
「うおっ。なん? いや、もう昼だから帰れって事だろ? 俺も飯食いたいしな。漫画ありがとな、楽しかったわ」
隼人の衝撃発言を聞いた明星は当然の如く噛みつくし、突如肩を掴んで大きな声で話し掛けられた隼人も当然の如くビビる。
「お昼食べるならうちで食べていけばいいじゃないンですかぁァ!?」
「え? いやいいって。漫画借りたら今日はもう帰るから。休みの日に朝からお邪魔して悪かったな」
「悪くないよ! いい子だよ! いい子だから帰らないでください!」
「いや? え? な、ど、どうした? 帰らないで下さいって、な、なに? なんかあったのか?」
「いや! なんもないんだけど、で、でも、ほら? やっ、だって、隼人まだ読んでない漫画も沢山あると思うから、お昼ご飯食べた後も読めばいいんじゃないかなって……お……思いましてぇエ!」
「まあ……そりゃあ読んでないのは大量にあるけど」
両肩に掴みかかった明星。
目を見開いて話す彼女に困惑する隼人。
困惑する彼を見て更に困惑する明星。
「て、てか、あんま長居し過ぎるのもちょっとって言うか。空野も休みの日は色々忙しいn──」
「暇ッ! 超暇っ!! やる事なさ過ぎて暇過ぎてぇ! ずっと家にいるんだよねぇえ! 暇で暇でもう堪らない的な!」
「おっ、おう。そう、か。や、うーん……じゃあ、まあ、良いって言うならもう少し漫画読ん──」
「もちろんいいよぉオっ! 好きなだけ読んでいいからね!」
被せ気味に話す明星の勢いに負けた隼人。
彼もまた出来れば家に居たくないと言う事もあって、とりあえず帰宅を断念。
「でもどっちにしても飯はコンビニかどっかでなんか買って来るわ」
「いいって! 私作るって! 料理超好きだから! 食べたい物あればなんでも言って! 材料買って来るよ!」
「いやいやいや、材料買って来るならコンビニで飯買うわ」
「コンビニの御飯より絶対に私の料理の方が美味しいと思います! 自信あります! お試しあれ!」
料理をする姿を見せて、家庭的である事をアピールするのはとても良い事である。
しかし、それも独り善がりであってはいけない。
押し付けるようにアピールしても逆効果になる事もあるので、注意が必要。
(これも慰めようとしてること、なのか? ……にしても、過剰って言うか。異常って言うか。なんか空野おかしいよな、最近。本当に、この前まで俺のこと生理的に無理みたいに言ってた人間と同一人物か? 悪の組織に改造されて正義の心が芽生えたなら、正直にそう言って欲しい)
先程まで読んでいた漫画の影響か。
急変した女子の態度に困惑する隼人。
しかし、迫りくる明星が人体実験を施されたのではないかと考える隼人だが、そこは半分冗談で半分本気。
(──まあ、ジュース代巻き上げて相談と言う名の暴言聞かせるとか。近いとか言っていきなり俺の椅子蹴るとか。教室で話し掛けたら舌打ちするとか。あの空野だからな。油断した所で何かぶっ込んでくるとは思うが……)
異常に感じている気持ちに嘘はない。
(つっても、もし何か企んでるならもうそろそろ何かやってきてる……よなぁ? どうなんだろ? 何か心境の変化でもあったのかねぇ)
しかし、何か企んでいるならもっと早い段階で明星が自分をどうにか出来た事を、彼も理解し始めている様子。
そんな訳で、鼻から軽く溜息を吐き出した隼人が口を開いた。
「まあ……そうな。とりあえずわかったけど。でも、材料買ってきてもらうのは流石に意味わかんねえから、良いって言うなら余りものとかで何か作れたりする? 何も無かったらコンビニ行って来るからさ。わざわざ材料買うとかはいいわ」
「うんうんうんっ! 余ってる余ってる! すっごい色々余ってるから、余りまくってるから! あまっ──ふ、フードロス! 空野家のフードロス問題解決にご協力をお願いしますっ!」
「フードロス? あー……まあ、うん。それなら、いいのかな?」
「ありがとうございます! 隼人のサステナブルな精神に感謝します!」
「いやいや、俺は良いんだけど。てか、すげえな。フードロスとか考えてるんだ?」
「うんうんっ! 時代はサステナブルだからね! 持続可能系女子だからね、私! それじゃあ、とりあえずリビングに行こー!」
「お、おう。えっと、漫画はここに置いたままでいいか?」
「いいよいいよー! あ、でも、作ってる間は暇かもだからリビング持ってきて読んで待ってていいよ。パパっと作るからねっ」
「うっす。でもなんか手伝える事あるならやるけど?」
「いいのいいのー。簡単なのにするから、あ、隼人チーズ好きだよね?」
「好きだけど、それ言ったら空野も好きだったろ? チーズのポテトチップスよく食べてたじゃん」
「好きぃぃー! あっ、まあ……最近はジャンクフードあんまり食べないようにしてるんだけどね。時々食べるくらいかな? 時々ね」
ちょっと計画とは違ったけれど、どうにかして隼人の引き留めに成功した明星と、なし崩し的にお昼を御馳走になる事になった隼人。
図書室を出た二人はダイニングに移動。
早速エプロンを付けた空野が台所に立って、座っているように言われた隼人は大人しく座ると、大きなテレビから流れる音とキッチンから聞こえて来る音をBGM代わりに漫画を読み始めた。
時々聞こえて来る明星の鼻歌に気が付いて、台所に立つ彼女の背中を見ながら待つ事しばらく。
「おおー」
「カルボナーラにしてみました! こっちはカブといんげんのサラダ。こっちは市販のコーンスープだけど、これは自分で作るより美味しい」
こんな事もあろうかと料理を頑張っていた明星は、三十分前後でテキパキと昼食を完成させると、綺麗に盛り付けたパスタとサラダとスープをダイニングテーブルに並べた。
「すげえな。こんなのすぐ作れるもんなの?」
「うん? うんうん。簡単に作れるよー。昔は大変だったのかもだけど、パスタなんてもう今はレンジで茹でられる手抜き料理の代表格みたいなものだからね! 私の場合はソース手作りするけど、市販のソースを使えば本当に誰でも全く同じ味を出せるんだよー」
「へえー、そう言うもんなんだ? でも、だとしてもすげえよ。俺が同じ事やれって言われてもすぐには出来ないだろうし、サラダもぱっと作るとか手際いいよな、空野って」
「え? そ、そう? 褒めすぎだよおぉ……ぁでもっ! もっと色々作れるんだよ! 今日は急いでたからこんな感じなんだけど、もっともっともっと作れるよ! 家庭的なんだよ、私! 実は!」
「おおー。本当に料理上手なんだな、すげえな」
「うんっ!」
明星からしたら料理とも呼べないちょっとしたモノを作っただけだが、隼人に真っ直ぐ褒められた彼女がデレデレに顔を緩める。そしていざ、実食。
「うっま。カルボナーラうっま」
「ほ! ホント!?」
美味しい美味しいと言って手料理を食べる隼人見て、明星の顔は際限なく緩んでいった。
やったね、明星! 明星の意識の高さに隼人もメロメロだよ




