第24話 ネットは現実より強し
翠から解放されて帰宅した隼人。
時刻は二十一時を少し過ぎた所。
いくらご近所とは言え遅くなるなら連絡をしろ、もっと早く帰って来い、等々。両親に軽く突かれた所で風呂に入って、あがる頃には二十二時前に。
「ん」
そんな隼人がスマホのホーム画面を見れば、いつの間にやらSNSアプリ『lit-Link』に友達からいくつものチャットが届いている事に気付いて、返信をしようとスマホ片手にベッドにダイブ。
『lit-Link』はスマホのSNSアプリ。
個別チャットや通話。
日記の公開、ライブ配信等々。
皆が想像している通りのそれっぽいアプリ。
それが『lit-Link』。
通称『リリンク』である。
そんなリリンクに友達とは別に、明星からも連絡が来ている事に気が付いた隼人は──。
「ふーん、ふーん」
とりあえず明星を後回し。
仲の良い友達への返信を優先した。
鼻歌交じりに適当に。友達とのやり取りを楽しんでしばらくしてチャットが途切れると、漫画でも読もうと考えた。考えたのだが、そう言えば明星からも何か連絡が来ていたなと、ギリギリのところで思い出した。
『明日は朝から予定がないです。いつでも家に来てくれて大丈夫です。隼人の都合が良ければで構わないので待ってます』
シンプルな文面。
しかし、ハートマークが沢山ついている女子らしさのあるチャット。
『わかった。とりあえず読み終わった分だけ持っていく感じで良い? それか一旦全部返した方が良い?』
どうやら隼人が館花邸にて夕食を食べている時間帯。十九時をちょっと過ぎた頃にリリンクが来ていたようで、そのチャットに二十三時前になってようやく返信。
明日の朝にでも返信がくるだろう。
そう思った隼人がスマホを置いて漫画を読もうとする前。
『漫画はどちらでも! 家に来てくれるだけで大丈夫です!』
「うおっ」
五秒も経たずに返信が来た事に、思わず驚いてしまった隼人の口から短い声が漏れた。
大量のハートマークが塗布された短い文章。
その後に続く可愛い猫のスタンプ。
スマホから放たれる異様な勢いに若干引いた隼人だが、返信が早いのはとても良い事。なので、多少ビビりはしたもののどちらかと言うと明星の評価はプラスされた。
そんな隼人が見つめるスマホの向こう側。
インターネッツを通じて繋がる、隼人のチャット相手。
「ふへへへっ!」
(明日はお父さんとお母さんは二人で買い物に行くから、夜まで居ない。日中はいつ来てもらっても夜までは隼人と私の二人きり……)
「ひへへっ!」
ベッドの上で寝転がる空野明星は、両手で持ったスマホを見つめながら気持ち悪い笑みを浮かべていた。
(全然既読もつかなくて全然返信が無かったから、何度も追加のチャットを送りそうになったけど私はよく耐えた。連投は確実に重たいと思われるからね。折角隼人がフリーになった今、重い女のレッテルを貼られて距離を置かれるのは良くない。よく耐えた、私、えらい!)
十九時過ぎにリリンクを送って以降。
二十三時前の今に至るまで。
自称重たくない女こと空野明星は、その間ずっとスマホを手に持って返信を待っていた。その為、ようやく届いた隼人からの返信に大満足していた。
『どっちでもってのがよくわからないけど、結局どうすればいい? 全部返した方が良いのか?』
そして、新たに届いた隼人からのチャットを見た明星の頭は瞬時に最適解を導き出す。
『じゃあ一旦全部持ってきて貰ってもいいですか? 明日は私の部屋で残りの漫画読んで、帰りにまた違うの借りて帰るのはどうでしょうか?』
『空野がそれでいいならそうするけど、土曜日だろ? 邪魔じゃないか?』
『明日は本当に何も予定ないから大丈夫だよ。まだ面白い漫画もラノベも沢山あるから、隼人が迷惑じゃなかったらオススメ紹介するよー』
『じゃあ、とりあえず全部持って行くわ』
『り!』
短いながらも有意義なチャットが終了。
ポポポポーン! とスタンプを連投した明星はニンマリと笑った。
会話偏差値はまだ少し低い明星。
けれど、チャット偏差値は大変に高い。
今の時代。
学校で上位の人気者に居座る人間はSNSの使い方を心得ている。
現実だけではいけないのである。
ネット上でも自分を可愛く、格好良く見せる。
セルフプロデュースが出来ない者は今の時代、学校の人気者には決してたどり着けないのである。
寧ろ現実でいまいちであったとしても、ネットでバズるだけで一躍ヒーローになれるこの現代、空野明星は現実よりもそっち側の女子。
現実ではまだまだ会話能力を磨いている最中の明星だが、写真と動画の投稿と短い文章だけで自分を表現するだけで済むSNS『リリンク』の中では別。
日々可愛くなる空野明星。
比例するように、フォロワー数もうなぎ上り。
空野明星はネットの一部で人気者の女子。
フォロワー十万人を超えるファッション系インフルエンサーの一人。
故に、自身のテリトリーであるネット世界でのやり取りには無類の強さを誇る。
その為、一度口から出した言葉を飲み込む事が出来ない現実と違って、しっかりと考えた上で文章を作成できるリリンクでは常に最善の会話が出来る。
「ひっへっへっ!」
まあ現実はちょっと気持ち悪いけど。
しかし、ネットにはその気持ち悪い部分を載せる必要が無いのが強み。可愛い部分、格好良い部分、面白い部分だけを載せるだけでいいのだから、何も問題はない。
学内ヒエラルキーは今や学校内の出来事だけで測られる時代ではないのである。
(親が居ない休みの日に家に来るって事は、これはもう同意と見て問題ないんだよね? 高校生の男女だもんね? 隼人だって絶対にその気で来るよね? ヤル気満々だよね? 普通にそう言う事だよね?)
もちろん、そう言う事ではない。
だが、シチュエーションは確かに最高。
頑張り次第では無きにしも非ずと言った所。
宝くじの一等に当たった日に空から飛来する隕石に直撃したものの一命を取り留めるのと同程度の、非常に高い確率を秘めている。
(隼人にオススメする漫画も出来るだけエッチなのにしよう……! エッチ過ぎないけど、エッチなの! それで一緒に読んでもいいかもしれない。そうしよう! そしたら身体くっつけて読んでるうちに……ヤバ、天才じゃん私!)
取らぬ狸の幸せ家族計画。
夢見る明星は明日に備えてオススメ漫画を厳選。
ハッピーなお勤めを果たしてからぐっすり寝た。
SNSでどれだけバズれるか。現代社会を生き抜く若者の戦闘力はそこが重要!




